ファッション評論家のピーコ(79)が《万引して逮捕された》というショッキングなニュースが報じられたのは、2023年4月のことだった。

報じた『NEWSポストセブン』によれば、双子の弟であるおすぎ(79)を介護していたピーコは、認知症の兆しが出ていたおすぎに対して極度のストレスを感じ、同居を解消したという。

おすぎは介護施設に入所したが、一人暮らしとなったピーコはコミュニケーション不足からか、感情の起伏が激しくなり、おすぎに続いて認知症のような症状を示していた。

そして昨年3月25日午後、万引(窃盗罪)の容疑で逮捕された。同サイトによれば、買い物に訪れたお店でピーコは万引を繰り返していたようだ。釈放後、ピーコは自宅に戻らず、高齢者施設に入所したとされる――。

「認知症で、万引を繰り返す、などの症状が顕著に出る場合、私は『ピック病』の可能性を考えて診察していきます」

こう話すのは、えびな脳神経クリニック理事長で同院認知症疾患医療センター長の尾﨑聡医師だ。

ピック病は、前頭側頭葉変性症の一つで、「記憶障害」を伴わない認知症だ。社会性の欠如・脱抑制などが主な症状としてあり、社会的な礼儀やマナーが失われ、自分の欲望や本能のままに行動しようとする。

そのため、万引を繰り返す・痴漢をするなどの犯罪行為にも及びやすいのだ。

「認知症には大別して4種類あり、最も多いアルツハイマー型認知症で全体の60~70%ほど、次に多い脳血管性認知症で20%ほど、レビー小体型認知症が5%未満、そして前頭側頭葉変性症が1%ほどという割合になっています。ピック病は、前頭側頭葉変性症に属し、そのうちの10%ほどです」

つまり、認知症全体からすると、0.1%ほどが、ピック病患者ということになる。だがここ最近では患者数に増加傾向がみられる、と尾﨑医師は続ける。

「当クリニックに来院される方のなかで、私がピック病と診断する患者さんは年におよそ2~3人程度ですが、近年は増えてきている印象があります。

そして年齢層では50~60代と、認知症のなかでは、かなり若い方の割合が多いといえます」

患者数は、国内でおよそ2万人ほどいるとみられ、診断後の生存年数は「4~5年ほど」と極端に短い研究報告もあるというピック病。50~60代が好発年齢ということで、働き世代には恐ろしい病気だ。

「ピック病は、前頭葉の一部分から萎縮が始まり、徐々に広がっていき、脳のいろんな機能が低下してしまいます。そして、理性的な行動ができなくなります。本人が自身の異常を認知することが非常に難しく、記憶力もしっかりしているので、家族や周りの人も気づきにくい。そのため、発見したときには症状が進んでしまっていることが多いんです」

原因としては、遺伝子のなんらかの異常によって起こるということはわかっているものの、先天的なものか、後天的なものかも含め不明だと尾﨑医師は述べる。加えて、ピック病は「有効な治療法や薬がまったくない」というのだ。

「このような要因が重なることで、診断後の生存年数が短めになってしまっているのだと考えられます」

■同じ行動を繰り返す「常同性」がピック病の特徴

尾﨑医師がこれまで診察した患者さんの中にも、やはり、繰り返し万引をした方がいたそうだ。

「60代の男性の方で、奥さんが付き添って来られました。来院する以前に、すでに3~4年前から万引を繰り返し、警察沙汰にもなっていたと聞きました」

ピック病患者の場合、「犯罪行為」をしても「なにが悪いんだ?」と、その違法性が認識できないのが問題だ。

そして、尾﨑医師によれば、ピック病の顕著な特徴に同じ行動を繰り返す「常同性」がある。

「万引以外にも、特定の食べ物ばかりを食べる、同じものばかり買ってくるなど、とにかく行動を繰り返す特徴があります」

尾﨑医師が診察した別の男性(50代)は、同じ時間に同じ場所をひたすら散歩するという特徴があった。

「散歩するという行為が“アクセル”だとすれば、それに対してブレーキが利かないような感じです。たとえば大雨が降ったり、風が強かったりすればその行動をやめる理由ができるはずですが、その判断がつかない。」

「この患者さんは、毎日欠かさず、同じ時間に同じルートを歩いていて、顕著な特徴が見られました。一見、真面目な行動に見えますが、ブレーキが利かないというのが判断ポイントです」

尾﨑医師が診察してきたピック病患者は、介護施設などに入所するケースがほとんどだという。

医療費助成制度がある指定難病ではあるピック病だが、現状、有効な薬や治療法がないといわれると、なんとも希望を持ちにくいものだ。そこで、一日でも早く病気の兆候を発見するために、尾﨑医師が、ピック病チェックリストを危険度別で示してくれた。

「最も顕著な兆候は(1)万引です。そして、(2)同じ行動を繰り返す、(3)自身の行動に悪気がない、(4)同じものを食べる、などもピック病の典型的な症状なので注意が必要」

「(5)怒りっぽい・以前に比べて暴力的になった、(6)1つのことに集中できない・落ち着きがない、(7)あらゆることに関心がない、などは更年期の症状やほかの精神疾患と似通う特徴ですが、ピック病の可能性もあります」

「最近、怒りっぽくなったというのも、家族が感じることができるシグナルです。ご家族のなかで、チェックリストを試してみてください」

多くの項目は「年を取ったからね~」などと、加齢のせいにして片づけられかねないもの。

とにかく早期発見&医療機関への相談を!

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