介護ロボットの開発と普及の取り組み

九州工業大学からやって参りました。柴田智広と申します。皆さん、こんにちは、そして受賞された皆さん、本当におめでとうございます。

ぜひ皆さんのご活躍をますます日本全国、そして国内外に知らしめて、ぜひこの介護の問題というものを乗り切っていく力になっていただければと思います。

本日は、介護業界におけるセラピーロボットの可能性ということで講演をさせていただきます。まず簡単な自己紹介ですが、私の母はパーキンソン病で、もう30年近くになります。12年ほど同居介護で頑張ってたんですけれども、やはり母が進行性の病気であることや私が忙しくしていたこともあり、いろいろな施設のお世話になりました。2000年から始まった介護保険制度にも本当にお世話になり、今もここにこうして立つことができております。

介護のイノベーションというのは非常に難しくて、皆さんも「この機器買いたいんだけど、ちょっと高いな」ということや「ロボットがいっぱいあることは知っていてもなかなか使い切れない」など、いろいろご感想をお持ちだと思います。

そういったことを何とか解決していくために、①ニーズ把握 ②プロトタイプ開発 ③ラボ実証 ④施設実証といった、いわゆるPDCAサイクルみたいなものを回していけるような施設を、北九州学術研究都市の中につくることができました。

そして、そうこうしているうちに、厚生労働省さんで介護ロボットの開発・実証・普及のプラットフォーム事業というものが始まりました。

この事業では「相談窓口」「リビングラボ」「実証フィールド」という3つがあり、この相談窓口は各地域にあります。企業の方や現場の施設の方からいろいろニーズを集めてもらったり、ニーズ・シーズマッチングできるかを考えてみたり。難しければ、例えばリビングラボの方に開発の支援などをしてもらったり、実証の支援してくれませんかみたいなことを、全国拠点のリビングラボに投げていただいております。

これからは、この相談窓口が全国47都道府県に下りていくフェーズにあります。

まさに先程のPDCAサイクルのようなものをみんなで回していき、ロボット介護機器といったものを普及させようということですね。

皆様には釈迦に説法ですが、少ない人員で理想の介護を実現したいと皆さん本当に思っていらっしゃるのではないでしょうか。介護する側もされる側もウェルビーイングな状態でいることを目標に進めていきたいと我々も思っています。

理想に近づくためのテクノロジーは既にあります。もちろん完璧ではないかもしれませんし、まだまだ不足しているかもしれません。でも、たくさんあるんですね。

だからぜひご存知ない方はちょっと調べてみてください。

そのロボットをぜひ使っていただいて、「こうやってほしい」「ああしてほしい」と言っていただいていく中で、確実に機器は進化していきます。何でもそうですけど、最初からすごいもんってなかなかないのです。最初から「使わない」「やめて」「もうだめです」となってしまうと、全く進化するチャンスがなくなります。

ぜひ、理想の介護に向かって皆様にご協力をしていただければと思います。

ロボット介護機器の開発は約10年前から始まり、経産省が主に開発、厚労省が主に評価や普及の側ということで活動してまいりました。

重点分野がいろいろありますが、介護業務支援はもう相当使っていらっしゃると思います。介護現場で既に製品になっているロボット介護機器は以下のページを見ていただくと100個以上載ってますので、ぜひ見てください。

介護現場で活用されるテクノロジー便覧

製品の仕様や費用、介護保険が使えるのか、レンタルできるのかという情報だけでなく、どんなロボットなのかがすぐわかる動画がたくさん用意されています。意外と皆さんご存知ないと思いますので、ぜひ出発点として見ていただければと思います。

セラピーロボットの可能性と未来

だんだん今日のタイトルの話にも行かないといけないんですけれども(笑)

介護現場で活用されるテクノロジー便覧を確認すると、圧倒的に見守りシステム・コミュニケーション機器が多いんですね。見守りについては、ベッドの上のバイタルセンサーなどは製品もたくさんありますし、普及期に入っていると私は言っていいと思います。

東京都内の特別養護老人ホームにおける見守り支援機器の導入状況をみると、ベッドに敷くようなバイタル系の導入率が、東京の場合39.7%で、約4割の施設に普及しているということです。その時に大事なのが活用しているかどうかです。買うだけじゃなくて使ってないと意味がないですよね。

まだ「買った割合が9割!」というわけではありませんが、購入した人の9割はしっかり使っているというデータが出ています。導入することで、介護する人もしょっちゅう巡回をする必要がなくなります。そして介護される側、入居者さんたちも巡回されると目が覚めてしまうことも避けられます。

目が覚めたら二度と寝られなくなるといったことがよくありますよね。導入することでどちらのウェルビーイングも良くなるという、非常に良い好事例かと思います。

さて、いわゆる生産性向上という言葉を使って一番今イケてる機器を紹介しましたが、見守りコミュニケーションの部類の中でいかにも非生産的そうなものたちがコミュニケーションロボットではないでしょうか。

こちらが先程のテクノロジー便覧に載っているロボットたちですが、左上のオレンジで囲っている部分が何かといいますと、これはノンバーバルなんですね。

【みんなの介護アワード2023レポート】介護業界におけるセラ...の画像はこちら >>
※当日のスライドより抜粋

ノンバーバルは言葉を使わないロボットのことで、それ以外のものはAIを使って言葉で対話をすることを試みているものです。

対話をするバーバルはバーバルで、もっともっと進化していかないといけません。使っていると良い応答してくれないなとか、あとチャットGPTを繋いだぐらいだと、何か黙ってなかなか返事してこないとか、しばらくしたら返事してくるみたいになっちゃうんですけどね。

そうではなく、このノンバーバルで高機能なロボットはすごく可能性があると思っております。これだけではないんですが、まずこの有名な3つを簡単に紹介したいと思います。

【みんなの介護アワード2023レポート】介護業界におけるセラピーロボットの可能性
スライド
※当日のスライドより抜粋

1つ目があざらし型のパロというロボットです。実はこのロボット、もう30年も普及活動をしてるんですね。海外では医療機器認証されておりますが、日本はまだです。ですが、認知症患者さんの、例えばBPSDを抑制する効果があるというメタレベルの最高に難しいエビデンスを持ったロボットは世界にこれだけなんです。

ただ、このロボットは動けないですね。動けるロボットで近年のすごいロボットっていうのはLOVOTっていうのがあります。一番右ですね。

AIBOももちろんすごいですけれども、ちょっと時間の都合でまとめて、LOVOTの方に行きたいと思います。LOVOTはなんと、その1万台以上が家庭や職場で愛されていると。そして、100以上の介護施設にも導入されていて、国内外のさまざまな機関と実証実験も実施しているということです。

皆さんもう単純に抱っこしたらめちゃくちゃ可愛くないですか?どうですか?

うちの家族は30分抱えて全然平気でしたし、飽きない。私の母親の特養にもこれが一時期入りましたが、最初のお試しだったため、このロボットもなくなることを聞いたらかなり悲しそうな顔してましたね(笑)

セラピーロボットの利点は動物特有の問題がないっていうこと。それから意外ですが、コミュニケーションの促進をします。病院だと看護師の方、介護施設だと介護士の方とか、その他介護職の方のコミュニケーションが促進されたり、アンケート結果ですけども、ストレスが軽減されるっていう結果も出ています。

すなわち、介護する側もされる側も、非常にウェルビーイングが高くなる可能性があるということです。

見守り機器っていうのは生産性向上に直接貢献してるのが非常に分かりやすい。一方、セラピーロボットは非生産的な活動をしていると思われるかもしれないけど、巡り巡って結局生産活動を上げているんですね。現場のウェルビーイングを非常によく上げているので、積極的にロボットの活用を試していただければと思います。

最後に、ロボット介護機器を使っている施設がすごく格好いい、素晴らしい、もう少し広義で言うとウェルビーイングが高そうだ、いい職場だと思ってもらえる時代っていうのがもうすぐそこまで来ていると思います。今介護人材を集めるのも大変だと思いますが、うちはロボットを使っているから素晴らしいんだよという宣伝の仕方を、是非皆さん取り組んでいただければありがたいと思います。