※本稿では映画『国宝』の内容に一部触れています。

9月16日、吉沢亮(31)の主演映画『国宝』の観客動員数が1000万人を突破したことを、配給元の東宝が発表した。

同作は、任侠の一門に生まれ、抗争で父親を失い、歌舞伎役者に引き取られた吉沢演じる主人公の立花喜久雄が、女形としての芸の道を究めていく物語だ。

『国宝』の名場面といえば、後ろ盾を失い、隠し子と出自が週刊誌で報じられ、人生のどん底に落ちた喜久雄が、地方巡業で訪れたホテルの屋上で精神的にも肉体的にも限界に達しながら、何かにとりつかれたかのように舞うシーン。6月23日に都内で開催された大ヒット御礼舞台あいさつに吉沢と李相日監督(51)が登壇した際には、アドリブであったことを明かしていた。

多くのファンの印象に残った“屋上の舞のシーン”の裏側とは――。撮影が行われたのは和歌山県岩出市にある『ホテルいとう』。1980年代にオープンし、総部屋数141室を誇る老舗ホテルだ。本誌はホテルの北田信幸支配人に話を聞いた。

「一昨年の12月か年明けぐらいに県の観光課から連絡がありました。“映画のロケ地を探していて、候補のひとつとして紹介します”と。

その後、昨年の2月頃でしたかね。監督さんとスタッフの方とかが来られて、実際に屋上に上がってもらったんです。通常時は立ち入り禁止になっている屋上からみえる岩出の町並みと、山並みを見ていだだきました。この時に他の候補地も見に行かれたそうです。

そして昨年の3月ごろに“撮影をそちらのホテルで行うことが決定しました。4月にロケをやります”と連絡がありました。

李監督は、昭和のイメージにあう風景を探していたみたいです。うちのホテルの屋上から見える岩出の家並みや山なみの景色が、監督のイメージに一致したんだと思います」

興行収入が142億円を超え、現在邦画実写で歴代2位となった『国宝』。

これほどの大作に撮影協力するのは当然初めてだったようだ。

「スタッフと演者あわせて約100名で、朝7時から夜11時まで丸一日撮影していました。ただ、一度に100人が揃ってくるという訳ではなく、早めに来られる方もいれば、そうでない方もいるという感じでしたね。

うちのホテルの従業員でも撮影があることを知っていたのは一部で、ホテルもレストランも普通に営業していて、混乱もありませんでした。撮影があったことを後から知った従業員たちから『なんで言ってくれなかったの』と叱られました(笑)。

地元テレビ局の取材などをうちのホテルで受けることはよくあります。またテレビドラマのロケのための拠点の宿に使用されることもありました。

ただ、100人が集まって、うちのホテルで撮影するというのは初めてでしたね。昼食と夕食のため、宴会場に映画関係者専用の食事スペースを設けて、そこでカレーなどの食事を提供しました」

重要なシーンであったためか、撮影現場には張りつめた空気が流れていたようだ。

「吉沢さん来られた時に、『よろしくお願いします』と挨拶されました。その時の表情から、すごく緊張されているのが、こっちまで伝わってきました。 吉沢さんだけでなく、他のスタッフの方々もすごく緊張した顔をされていたのが印象的でしたね。

屋上のシーンは、昼間の早い時間から何度も何度もリハーサルを重ねられていました。映画では映っていませんでしたが、屋上から普通に辺りを見回すと、いろんな看板が見えるのです。看板が映り込まないように、カメラのアングルなどを調節していたのだと思います。

インタビューで吉沢さんが屋上で舞うシーンを『撮影風景も含めて何もかもが印象に残っています』と答えていました。それぐらい全身全霊をかけて撮影したシーンだったのでしょう」

ロケ地になった反響は上々のようだ。

ホテルいとうでは、撮影陣に振る舞われたカレーは6階にあるレストランシャトレーヌにて『国宝カレーランチ』(1980円)として提供されている。食事をしたお客さんには、レストランのテラスに出て国宝の映画に出てくるものとほぼ同じ景色を案内するサービスも。

「エンドロールで“和歌山ホテルいとう”と出たので、気が付く人は気が付いたと思います。たくさんの反響をいただくようになったのは報道されはじめた8月以降ですね。一日10件ぐらい問い合わせがあります。おかげさまで、今も『国宝』効果でにぎわっています(笑)」

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