子どもの道路遊びは、近隣トラブルだけでなく、交通事故につながる危険もあります。警察庁によると、2020~2024年に歩行中の交通事故で死亡・重傷となった児童1875人のうち、遊んでいる最中だったケースは332人、17.7%にのぼります。


 子どもが多い地区の小学校では、「道路で遊ぶ子ども」に関する苦情が日常的に寄せられているそうです。

「子どもの声がうるさい」「危ない」「夜勤明けなのに眠れない」などの苦情の中でも、特に多いのが道路でのボール遊びに関するクレームだといいます。

 近隣からの苦情に疲れ切っていると嘆くのは小学生の男の子を2人育てる佐久間千穂さん(仮名・35歳)。その疲れには本人にも納得できない理由があるそうで……。

家の前の道路が小学生の溜まり場に

 
「土地問題、というんでしょうかね。

「うちのパパはいいって言ってる」道路でのボール遊びを注意した...の画像はこちら >>
 家を買った時は、こんなトラブルが起こるなんて想像もしていませんでした」

 千穂さんは長男が小学校に上がるタイミングで、実家から程よく近い埼玉に新築戸建てを購入しました。

 敷地は、奥が突き当たりになっている袋小路のような場所。車の通行はほとんどない、静かな環境です。

 そのため、いつの間にか子どもたちにとっては “ボール遊びができる場所”として定着してしまったといいます。

ボール遊びをしているのは、うちの子じゃない

 千穂さんの家は、その袋小路のいちばん手前。近隣から見れば「道路で遊ぶ子どもたちのすぐそばにある家」という位置関係です。

「うちにも元気な男の子が2人います。だから道路で遊ぶこと自体はあります。でも、ボール遊びだけは絶対にさせないようにしてきました。
人の敷地に入ったり、道路でボールを使って遊ぶのはダメだと、何度も言い聞かせています」

 実は、千穂さんの家の近くには、ボール遊びができる場所がほとんどありません。公園もボール遊びNGなので、ボールが使えるのは小学校が開いている時間の校庭だけなんだそう。

「少しかわいそうだと思いましたが、車も敷地もよその人のもの。今の日本の住宅事情では仕方がないことなんです。うちは夫とも認識を合わせて、“ボールは小学校で”を我が家のルールにしています」

「あなたの家の前で、ボール遊びをされると困ります」と手紙が

 ところが、千穂さんの家の前でいつもボール遊びをしているのが、両隣に住む小学1年生と4年生の男の子たち。

「先週も、小学校から電話がきました。『近隣から苦情が入っているので、ボール遊びを止めてください』と。ボール遊びをするのはうちの子じゃないんですけど、家の前でボールを使うとうちに苦情が入るんです。

この辺りは子どもがいないご夫婦も多いし、高級車や高級バイクを持つ家も多くて。正直、うちの車にも何度もボールが当たっていて、苦情を言いたい側なんですけどね」

 学校からの電話以外にも、「あなたの家の前で、ボール遊びをされると困ります」と手紙が入っていたこともあるんだそう。

「理由ははっきりしているんですよ、でも周りからみたらうちの子がやっているように見えてしまうんですよね」

「うちのパパはいいって言ってる」道路でのボール遊びを注意した35歳女性が絶句。“よその子を叱る役”に疲れ果てて
近所トラブル


「うちが手前だから」「在宅だから」という理不尽

 両隣の家は、共働きで平日の日中はほとんど留守。

 道路のいちばん前にあるのが千穂さんの家で目立つこと、また子どもが遊んでいる日中に在宅している千穂さんだけが、いつも子どもを注意しにいくことになります。

 千穂さんは遊んでいる子どもたちに、「ここはみんなの道路で、車もたくさん停まってるからボール遊びはやめようね」と家事を中断して何度も繰り返し注意しに行きました。

「でもね、我が子に伝えるように言っても伝わらないんですよ。
その場ではやめるものの、また10分もしないうちにボールの音がするんですから」

「うちのパパはいいって言ってる」に心が折れる

「うちのパパはいいって言ってる」道路でのボール遊びを注意した35歳女性が絶句。“よその子を叱る役”に疲れ果てて
※画像生成にAIを使用しています
 何度注意しても繰り返すボール遊びと、近隣からの苦情。普段穏やかな千穂さんも、さすがに怒りが込み上げ、少し強めに子どもたちを叱ったといいます。

「つい最近のことなんですけど、何度言ってもわからない隣の子に、強めに注意をしました。そしたらね、逆ギレされてしまって。『うちのパパはいいって言ってるけど』と言い返されたんです」

 さらに、近隣からの苦情や、千穂さんが注意してボール遊びを止めないことを両隣のママたちに伝えると、返ってくるのは決まってこの言葉でした。

「本当に、私の言うことも聞かなくて……」

 その言葉を聞くたびに言いようもない疲れが、千穂さんにのしかかっていったそうです。

苦情よりも疲れる理由は

「ちゃんと叱るほうが、なんだか損をしている気がするんです」

 千穂さんは、ため息まじりにそう話します。

 ルールを守るように伝え、人に迷惑をかけないよう自分の子どもに向き合ってきた千穂さん。しかし、いつの間にか、よその子への注意や近隣からの苦情まで引き受ける立場になってしまいました。

 道路でのボール遊びは、車や住宅への物損だけでなく、交通事故につながる危険もあります。「うちの子は大丈夫」「親がいいと言っている」で済ませられる問題ではありません。

 また、近隣住民や学校から注意されたときに、子ども任せにせず、保護者自身がルールを確認し、繰り返し伝えていくことも必要でしょう。

 子どもが安心して遊べる場所が少ないという地域側の課題もあります。
一方で、そのしわ寄せを、たまたま近くに住んでいる誰か一人に背負わせてしまっては、新たな近隣トラブルを生むだけです。

 道路を遊び場にしていいのか。誰が子どもに注意し、誰が責任を持つのか。子どもの遊びをめぐる問題だからこそ、家庭ごとではなく、地域全体で考える必要があるのかもしれません。

<取材・文/木村ひかる>

【木村ひかる】
湘南在住の編集者/ライター。4人の子どもを出産後、独学でライターに転身。多数のメディアにコラムを寄稿している。「自分が読みたい記事」を書くのがモットー。
Twitter:@hikaru___kimura、Instagram:@hikaru.writer
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