(台北 1日 中央社)台湾の最高学術研究機構「中央研究院」(中研院)の院長で、ノーベル賞有力候補の1人とされる翁啓恵氏が、馬英九総統に対して辞意を表明していたことが先月30日、総統府の発表で分かった。翁氏は疑惑が持たれている創薬ベンチャー、台湾浩鼎生技(OBIファーマ)株のインサイダー取引などについて、同31日に立法院(国会)で説明を行う予定だった。


翁氏の研究成果を基にOBIファーマが開発を進めてきた乳がんのワクチンが、臨床試験(治験)の結果、当初予定していた効果を有していなかったことが2月21日、分かった。これに対し、翁氏は同ワクチンの有効性を強調する発言を行ったため、インサイダー取引などに関する疑いが出ていた。

中研院は先月3日、翁氏はバイオテクノロジー関連の株を一切保有していないと発表したが、同23日に翁氏の娘がOBIファーマの大株主であることが判明。30日には、治験の結果が公表される直前に一部の株を売却していたことが週刊誌「壱週刊」の報道で明らかになった。同社の株価はその後大きく下落している。

OBIファーマの張念慈董事長(会長)は先月31日、株の売却は翁氏が娘に代わって決めたと説明する一方、同氏が治験の結果を事前に知っていたということは絶対にないと強調し、インサイダー取引に関する疑惑を否定した。


総統府の発表によると、馬総統は翁氏の辞任を認めず、(滞在先の米国から)できるだけ早く台湾に戻り、疑惑を晴らしてほしいと返答したという。立法院でも31日、1週間以内に説明を行うよう求める決議がなされた。

翁氏が同日、中研院の関係者全員に送信したメールによると、立法院で報告ができなかったのは、体調不良などが原因だと釈明。今後、所用が終わり次第、台湾に戻り説明を行いたいとしている。

翁氏は、米科学アカデミーなどを経て、2006年に中研院の院長に就任。2014年にはノーベル賞の前哨戦とされるウルフ賞(化学部門)を受賞している。


(許秩維/編集:杉野浩司)