(台北中央社)1970年代に米中接近を推進し、「米中国交正常化の立役者」と呼ばれた米国のヘンリー・キッシンジャー元国務長官。米国の親中派の代表的人物とされ、訪中回数は100回を超えるが、台湾を訪問したことは一度もない。
台湾の学者は、キッシンジャー氏の死去は密室政治や大国間の裏取引が行われていた古い時代の終焉(しゅうえん)を意味するとの見方を示した。

米ニクソン、フォード政権で国務長官などを務めたキッシンジャー氏は先月29日に死去した。100歳だった。71年の中国極秘訪問によって72年のニクソン大統領(当時)の初訪中に道筋をつけ、79年の米中国交正常化につなげた。ベトナム戦争の終結にも尽力した。

東海大学(中部・台中市)政治学科の邱師儀教授は中央社の取材に、キッシンジャー氏は米国の歴代政権から重用された一方で、民主、共和両党から同時に批判された数少ない人物だったと指摘。
秘密外交や権力政治を外交の手段としたキッシンジャー氏は小国の利益を犠牲にしがちで、台湾もその一つだったとの見解を示した。

キッシンジャー氏は今年7月に中国を訪れ、丁重なもてなしを受けた。その際、習近平国家主席はキッシンジャー氏を「古い友人」と呼んだ。邱氏はキッシンジャー氏を、権力を享受する既得権益者であり、新たな局面を切り開いた革命家ではないと評価する。

淡江大学(北部・新北市)国際関係・戦略研究所の李大中教授は、かつての米中関係改善を象徴するキッシンジャー氏を中国が丁重にもてなしたことは、中国が現在の米中関係に対して不満を抱えていることの表れだと指摘した。

(呉昇鴻/編集:名切千絵)