(台北中央社)大阪で8月に台湾文化PRイベント「We TAIWAN」が開かれるのを前に、イベントのマスコット「a-We」(アウィー)の関連グッズが注目を浴びている。グッズの一つ、ぬいぐるみを手掛けたのは台湾の織布メーカー、駿翔実業だ。
同社は台湾のエスニックグループの一つ、客家に伝わる「花布」によって低迷期を乗り越え、以降、長年にわたって外交の影の功労者として台湾文化を世界に発信している。

駿翔実業は盧瑞春さんと夫の黄鋐鈿さんによって1987年に創業した。当時好調だった紡績産業に目を付け、夫妻は洋服素材やレースなどの販売代理店から事業をスタート。後に製造も手掛けるようになった。「輸出の全盛期には注文を取りに行く時間もありませんでした。作っても追いつかないほどだったのです。当時の環境はとても恵まれていました」と盧さんは振り返る。

2000年を過ぎると、台湾の紡績業は相次いで拠点を海外に移すようになった。盧さんも顧客から中国への進出を誘われたが、低価格競争では拠点を次から次へと移すことを余儀なくされるため、転換が必要だと考えた。

だが、どのように転換を図るべきか、答えは出なかった。何カ月も注文が入らない時期もあったという。2005年、盧さんがさまざまな知識に触れようと数多くの講座を受けていた際、出会ったのが客家の花布だった。
「これが転機だと思いました。多くの人が桜を見て日本を連想するように、客家を象徴するアブラギリをあしらった花布を作り、客家の花布を基礎に創意工夫を加えました」

これが成功し、盧さんの会社の製品は免税店やホテルでも販売されるようになった。

2018年、ベルギー・ブリュッセルの観光名所、小便小僧が客家の代表的な衣装「大襟衫」などをイメージした服装に衣替えした。これは駿翔実業の自社ブランド「美角 MEIGA」のチームが手掛けたものだ。盧さんは「大きな挑戦」だったと振り返る。銅像の大きさと実際の色が分からなかったためだ。いちばん苦労したのは、爪先の部分が上に反り返った形が特徴の客家の伝統的な靴「勾嘴鞋」を作ることだった。「それまで靴を作ったことはありませんでした。ようやくなんとか形ができても、それから手作業で刺しゅうを施さないといけません。一足の刺しゅうを仕上げるのに何日もかかりました」

盧さんがこだわるのは品質の高さだ。「もっと安く作れる人がいるのに、丁寧に作らなかったら誰がMIT(メード・イン・タイワン)を支持してくれるのでしょう」。その考え方は、アウィーのぬいぐるみ製造にも反映されている。
製造した1000個にも上るぬいぐるみの一つ一つに綿を手作業で詰め、縫い上げた。「機械ではきれいに作れません。手作りだからこそ縫い目を隠すことができ、精細に作れるのです」

盧さんは「小さくて美しい」ことを理想の状態だと話す。これこそが、盧さん夫妻がすでに退職できる年齢になっていても楽しんで仕事を続けている理由だ。「私たちは伝統産業、伝統産業と繰り返していますが、それは「古い」という意味であってはなりません。ずっと伝え継いでいき、時代と共に進化していかないといけないのです。台湾のものをきちんと、美しく作れればと思っています」と語った。

(王宝児/編集:名切千絵)
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