「インプレゾンビ」という言葉をご存知だろうか?

2023年7月、Xに「広告収益配分」プログラムが導入(日本では2023年8月に開始)されたのを前後に散見されるようになった、話題の投稿に対して意味不明な、あるいは内容の薄いリプライを飛ばすアカウント群への蔑称である。

Xの「広告収益配分」プログラムでは、自分の投稿へのリプライに表示される広告から収益が得られる。
「過去3ヶ月間のポストに対するインプレッション(表示回数)が500万件以上」などの条件を満たせば、参加できるようになる。

この「広告収益配分」プログラムで収益を得る/収益化するために、インプレッションを稼ぐことが「インプレゾンビ」たちの目的だと見られている。

その証左として、「インプレゾンビ」と称されるアカウントの大半は、「広告収益配分」プログラム参加の条件のひとつである「月額有料制サブスクリプションサービス・X Premium に加入」したことを示す青いチェックマークが付与されている。

能登半島地震でデマ拡散 インプレッション稼ぎが目的か

投稿者にとっても読む側にとっても、まるでイナゴのように群がっている無意味なリプライ群は邪魔だと、Xユーザーの多くから嫌われている「インプレゾンビ」。

インプレッション稼ぎ(ひいては金儲け)を目的とした彼らの手口は過激化しており、単なるコミュニケーション体験の阻害にとどまらず、社会に影響を与える実害も出てきている。

直近では、1月1日に発生した能登半島地震を受け、Xで災害に関連するデマやフェイクニュースが飛び交った。


当時、被災者からと思われる救助要請が相次いでXに投稿されたが、その中には架空の住所や無関係の画像・動画を使った偽の投稿も含まれていた(※)。

NHKの調査(外部リンク)によれば、石川県珠洲市の同じ住所を使って救助を求める偽の投稿が30件以上あり、合わせて200万回以上閲覧されていたという。

こうした偽情報を受けて、実際に限られた人手や時間を割いて、警察が出動する事態にもなった。

(※)こういったデマやフェイクニュースには、いたずらや悪意をもった世論操作など、インプレッション稼ぎ以外の目的も考えられることは付記しておく。

改悪の責任はイーロン・マスクやX社だけにあるのか?

イーロン・マスクさんが、2022年10月に旧Twitter社を買収して以降、赤字体質(外部リンク)を脱却すべく、月額有料制サブスクリプションサービスの導入、APIの有償化、ブランドの変更、「広告収益配分」プログラムの開始など、劇的な改革が続いたX。

それに伴う言論空間やサービス体験の変化について、オーナーであるイーロン・マスクさんを槍玉にあげ、「改悪である」と不満をぶつけるXユーザーは多い。


確かに、2023年6月にリンダ・ヤッカリーノさんとCEO(最高経営責任者)を交代したとはいえ、氏の存在感は強い。現在もXの運営側を象徴する存在であることは間違いない。

特に「インプレゾンビ」に伴う問題については、性悪説的ではあるが、「広告収益配分」プログラムというお金を儲ける仕組みがある以上、モラルやマナーに反する行動をする人は出てくる。精神論で解決できない以上、根本的には、プラットフォームの運営側が何らかしらの対応をしなければならない。

氏に苦言を呈したくなるXユーザーの心情は理解できる。しかし、これはイーロン・マスクさんやX社のみに責任がある問題ではない。
Web・インターネット産業の基本である、広告収入モデルというビジネスモデルの構造から生まれた病なのだ。

広告の表示回数がお金になるインターネットの構造的欠陥

ディスプレイ広告や動画広告、SNS広告、記事・バナー広告など、Web・インターネットの広告収入モデルの多くは、広告の表示回数──すなわち、クリック数や再生回数、インプレッション数がお金になる。

広告が表示されさえすれば、そのコンテンツの内容・手段の如何は、収益が発生する原理には関わらない。

もちろん、その内容が伴わなかったり、手段に問題がある(例えば、他人の権利を侵害しているなど)場合は、当然批判も集まり、信頼・信用を失い、長期的に見て稼げない、という指摘もあるだろう。

しかしここでは、コンテンツのクオリティやコンプライアンス意識の高さがそのまま収益に直結しているわけではない、という構造に注目してほしい。

約3年間、Webメディアの編集者として働いてきて、つくづく痛感させられているのだが、人はクオリティや真実性や信頼性が高いものよりも、ショッキングだったり、感情が揺さぶられるものにリアクションしてしまう。


だから、Webメディアの飛ばし記事や、他人のコンテンツを無断転載した海賊版サイト、YouTubeの迷惑系YouTuber、そしてXの「インプレゾンビ」が生まれてしまう。

(繰り返しにはなるが、金銭が発生する仕組みがある以上、モラルやマナーに反する行動をする人は出てくる)

近年は媒体や広告配信事業者、広告会社などと行政府が、規約やガイドラインなどを制定し対策を進めているものの、追いついていないのが現状だ。

Xは広告収益モデルの病に侵されている

テキストをベースに情報発信できるSNSプラットフォームとして、確固たる地位を築いてきたX。

テレビや新聞といったオールドメディアが権威性を失っていく一方、情報拡散性とリアルタイム性に優れ、特に日本国内ではInstagramやLINE、TikTok、Facebookなどと並んで親しまれてきたXは、最早情報インフラと呼んでも差し支えはないだろう。

現代の情報社会において、替えが効き難い存在だ。イーロン・マスクさんの旧Twitter社買収以降、ThreadsやBluesky、Misskeyなど“ポストX”と目されるSNSサービスが話題になったが、現在のところその社会的影響力はXほどには至っていない。


そんな私たちの情報インフラがいま、インターネットの広告収益ビジネスの構造的欠陥から生まれた病に侵されている。

果たしてイーロン・マスクさんが率いるX社は、この病と闘い抜き、健全なSNSプラットフォームへと成長できるのだろうか。