触れたものの感覚がわかる。触覚を持った義手で17年ぶりに妻の手を感じることができたという男性(米研究)


 ロボット工学の技術で義肢を作り出す研究は今、大きく飛躍しようとしている。だが、そのためには超えなければならない壁がある――触覚だ。

 
 指先の器用な動きを再現し、繊細な物体を扱うためには、どうしても触ったときにそれを感覚として認知できることが必要なのだ。

 それを実現したのが「ルークアーム(LUKE Arm)」だ。そう、実の父ダース・ベイダーとの一騎打ちの最中に片手を失い、義手を装着することになったルーク・スカイウォーカーにちなんだ名だ。
【物に触った感覚を感じることができる義手】

 ルークアーム自体は2017年にメビウス・バイオニクス社から販売されてるが、その最新バージョンでは、装着者の神経に接続することで、義手でありながら物に触った感覚を感じることができる。触覚を取り戻した装着者の感激は、きっとあなたの胸を打つことだろう。

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University of Utah researchers develop LUKE Arm

【17年ぶりに妻の手を感じた】

 17年前、ケビン・ウォルガモットさんは事故で左手と腕の一部を失った。
ルークアームをここまで開発することができたのは、彼のような人たちの献身的な協力のおかげだ。

 ウォルガモットさんが開発に参加したのは2016年のこと。手術で「USEA(Utah Slanted Electrode Array)」という義手と神経をつなぐインターフェースを埋め込んだ。

 今、ルークアームを装着したウォルガモットさんは、一度は失われた手の感覚を取り戻した。柔らかなぶどうをつまんだり、バナナの皮をむいたりすることもできるようになった。

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 ――そして自分の妻の手を感じることもできた。


 「涙が出そうになりました」とウォルガモットさんは、初めてアームを使ったときのことを話してくれた。「とても素晴らしかった。まさかもう一度この手で感じられるようになるなんて。」

【15年の開発物語】

 ユタ大学やセグウェイの開発者ディーン・カーメン氏が設立したDEKAリサーチ・アンド・ディベロップメント社は、15年の月日をかけてここまでの性能を実現した。

 基本的なアイデアは「末梢神経刺激」という脳の神経シグナルによって義手をコントロールしようというものだ。

 まず腕の切断された部位の神経と義手を電極でつなぐ。それから装着者は手や腕を動かそうと考える。
そのときに生じた脳の神経シグナルのパターンに基づき義手が作動するように設定する。

 人間の神経活動は人それぞれで異なるために多少の訓練期間が必要となるが、ソフトウェアは徐々に装着者が義手を動かそうと考えたときの神経シグナルを学び、やがて基本的な動作が可能になる。

【義手で触った感覚を】

ルークアームには100のマイクロ電極が備わっており、これによって腕の神経と外部コンピューターを接続する。

 しかし触覚は手から脳へと伝達されるものであるために、これを義手で再現するにはちょっとした工夫が必要だ。

 この触覚を実現したのは、国防高等研究計画局(DARPA)によって開発され、2015年に発表された義手だった。それは電極を脳の感覚皮質に直接つなぐというやり方を採用している。


 しかし、それは侵襲的な方法であり、一般に普及させるにはもっと体への負担が少ないやり方が望ましいだろう。

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Mobius Bionics
【ぶどうを潰さない繊細な動作】

 人が何かに触れた瞬間、神経から爆発的なシグナルが脳へと送信され、次第に減衰する。そこで研究チームは霊長類の腕を観察して、この活動を記録することにした。そして、その記録から人間で起きる現象の近似値を算出した。

 ルークアームのソフトウェアに実装されているのは、これに基づくモデルを調整したものだ。内蔵されたセンサーが何かに触れたときに刺激を感知し、それを脳に伝えることで触れたという感覚を生じさせる。


 ウォルガモットさんは、房になっているぶどうの感覚をきちんと感じ取り、柔らかい実を潰すことなくつまみ取れることができた。卵も割らずに扱うことができるし、バナナの皮だってむける。携帯でメールを送ることだってできるのだ。

 「彼が最初にやりたがったのは、結婚指輪をはめることでした。片手じゃ難しいですからね。感動的でしたよ」とクラーク氏は話す。


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【今後数年で自宅で使用可能なものに】

 『Science Robotics』(7月24日付)で発表された研究論文は主に触覚を取り扱っている。だが温度や苦痛といった感覚を脳に伝達することも可能だそうで、今後この点についても開発が進められるだろう。

 また研究チームは外部コンピューターと接続する必要がないワイヤレスバージョンを開発したいとも考えているそうだ。日常生活で使用するなら、絶対に必要な機能だろう。
 
 現時点で、触覚を感じられるルークアームは研究所で実験されているだけの試作品に過ぎない。しかし2021年までには、3名の参加者それぞれの自宅に持ち帰って使ってもらえるようにしたいとのことだ。

References:Prosthetic arm can move and feel | UNews / LUKE Arm Detail Page – Mobius Bionics/ written by hiroching / edited by parumo

記事全文はこちら:触れたものの感覚がわかる。触覚を持った義手で17年ぶりに妻の手を感じることができたという男性(米研究) http://karapaia.com/archives/52277953.html