シャチの天敵は海にはいない。その最大の敵は陸にいる(カナダ・アメリカ共同研究)

シャチの天敵は海にはいない/iStock
 海洋の食物連鎖の頂点に立つシャチ。シャチを窮地に追い詰めるような天敵は海には存在しない。
だが最大の敵は陸に住んでいる。

 わかってはいたことだが、野生のシャチの最大の天敵は人間であることが最新の研究で改めて確認された。
【野生のシャチの主な死因を調査】

 『PLOS ONE』(12月2日付)に掲載された研究では、太平洋東部からハワイにかけて座礁したシャチの死体53体を調査し、その死因が分析されている。

 シャチの死因に関するこれまでの研究は飼育下にある個体を調べたもので、野生のシャチの死因についてはほとんど分かっていなかったという。

 カナダ農務省の動物病理学者スティーブ・ラヴァーティ氏らが調べたのは、シャチの遺体の脂肪の厚みだ。

 これは「ボディ・コンディション指数(BCI)」といい、人間のボディマス指標(BMI)と同じく、シャチの栄養状態や健康状態を示す指標になってくれる。


 たとえば感染症などの病気で死亡したシャチの場合、BCIは低い傾向にある。病に体が蝕まれて徐々に栄養状態が悪化するからだ。一方、怪我によって死亡したシャチの場合、健康な状態からの突然の死であるので、BCIは高い傾向にある。

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【シャチ最大の死因は人間が関係していた】

 BCIと遺体の様子を併せて分析した結果、野生のシャチ53体中22体の死因を推測することができたという。

 そして明らかになった野生のシャチの主な死因とは、まだ幼いシャチについては感染症と栄養不良だった。一方、若いシャチや大人のシャチの場合は、細菌感染症・病気・鈍的外傷だった。


 だが全年齢で見てみると、最大の死因は人間が関係するものだったそうだ。

 たとえば釣り針を飲み込んで死ぬこともあるし、漁網に絡まって死ぬこともある。また漁船と衝突して死亡することもある。

 これについてはこれまでにも関係者の話として伝えられたり、学術的な文献によって報告されたりしてきたが、今回の研究でも、そうした事故が実際に起きていることだけなく、それが致命傷になりうることが再確認された。

 さらに人間によって間接的に殺されていることも分かった。家庭や産業から排出される汚水が海に垂れ流され、そこに潜む寄生虫(トキソプラズマ症)などに感染して生命を落とすのだ。


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【海の王者なのに絶滅危惧種】

 海では生態系の頂点に立つシャチだが、だからといってこの一族全体が安泰というわけではない。たとえば南の海に暮らす「SRKW(Southern Resident Killer Whale)」と呼ばれる群れは絶滅危惧種だ。

 カナダやアメリカ政府はすでにシャチの保全に取り組んでいる。その一環として、シャチの生息域に水中音響レーダーを設置し、鳴き声を検出したら付近の船舶に速度を落とすよう注意を促すシステムが挙げられる。

 こうした取り組みに加えて、シャチが今どのような状況にあるのか大勢の人たちに周知することも、船との衝突を防ぐには大切なことだとラヴァーティ氏は説明する。

 また海に流れ込んだ汚水は世界中に拡散してしまうため、各国が協調して汚水から海を守るよう行動することが求められるとのことだ。


References:inverse/ written by hiroching / edited by parumo

記事全文はこちら:シャチの天敵は海にはいない。その最大の敵は陸にいる(カナダ・アメリカ共同研究) http://karapaia.com/archives/52297141.html