シュレーディンガーのクマムシ?生物史上初「量子もつれ」化に成功
 幾多の最強伝説で知られるクマムシだが、今度は生物として史上初めて「量子もつれ」状態にすることに成功、無事に生還したそうだ。

 量子もつれとは、2つの異なる量子の状態が相関関係にあり、観察するまでは確定しない量子力学上の現象のことだ。


 シンガポールなどの研究グループによると、クマムシを超伝導量子ビットにもつれさせることに成功。冷たい量子の世界は「暑く湿った」生命システムに移行したとのこと。

 仰天するような発表だが、専門家からは「意味のある量子もつれ」ではないと疑問の声も上がっている。

不思議な「量子もつれ」 「量子」とは、物質を作るとても小さなエネルギーの単位だ。原子や電子や中性子、陽子や素粒子などいろいろな種類がある。

 このような極めて小さな世界では、物理法則(ニュートン力学や電磁気学)は通用せず、「量子力学」という不思議な法則に従っている。


 「量子もつれ」とは、2つの相関する粒子の性質(たとえばスピン・運動量など)が、まるでコインの裏表のように共有される現象をいう。

 例えば2枚のコインをトスして、どちらの面が上になったのか1枚だけ確かめてみたとしよう。普通なら片方のコインの裏表を知ったところで、もう片方の結果はわからない。

 しかし量子もつれを起こした粒子同士なら、それがわかる。片方からもう片方の状態を知ることができるのだ。アインシュタインが不気味な遠隔作用と呼んだこの不思議な状態が、量子もつれだ。


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生物であるクマムシの量子のもつれ化に成功 奇妙な状態だが、量子もつれを作り出すことはそれほど難しくない。

 物理学者はこれまで、分子イオンやナノ粒子、さらには微細なダイヤモンドなどを量子的に絡めることに成功してきた。

 だがそれらは非常に小さなものであり、命を持たない物質である。

 ところが、ところが南洋理工大学をはじめとするグループが挑戦したのは、比較的大きく、雑然とした生物分子の集まりである、クマムシの量子もつれ化だ。

 『arXiv』 (21年12月15日投稿)で閲覧できる研究によると、まずクマムシを乾燥した休眠状態(クリプトビオシス)にして、マイナス273.14度というほぼ絶対零度に冷却。さらに0.000006バールの超低圧にさらした。


 この状態のクマムシを、2つの超伝導トランズモン型量子ビットともつれさせたところ、両者が結合していることが確認されたという。

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クマムシを量子もつれ化させることに疑問の声も 量子もつれ生物が誕生するという驚愕のニュースだが、専門家からは疑問の声も上がっている。

 たとえばライス大学のダグラス・ネーテルソン教授は、研究グループが「どれだけ真剣なのかわからない。ふざけているのか?」と記している。

 また物理学者でサイエンスライターのベン・ブルベイカー氏は、Twitterで次のように説明する。

 「量子ビットは電気回路なのだから、その隣にクマムシをおけば、電磁気力の法則で影響を受ける。
そんなこと150年以上前から知られている。」

 つまり量子ビットとクマムシとの間に起きた現象は、量子力学的な意味での量子もつれではなく、古典力学的な相互作用でしかない疑いがあるということだ。

 今回の研究論文は、まだ未査読の段階だ。それが本当に科学的に意義のある研究であるかどうかは、これから専門家が判断することになる。

 とは言え、実験開始から420時間後に温められたクマムシは、蘇生して、何事もなかったように過ごしていたという。

 これについて研究グループは、「複雑な生命体が生存できる条件」の新記録であると指摘する。ならば、新たなるクマムシ最強伝説が誕生したとは言えそうだ。


References:Physicists Claim They've Quantum Entangled a Tardigrade With a Qubit. But Have They? / Shrodinger’s Tardigrade: Did We Actually Quantum Entangle a Living Organism? - The Debrief / Entanglement between superconducting qubits and a tardigrade / written by hiroching / edited by parumo

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