尿を利用したビールがシンガポールで販売。なめらかではちみつのような後味
image credit:Singapore Public Utilities Board

 深刻な水不足のせいで尿もビールに転生?前に紹介したアメリカの「フル・サークル」といい、お酒好きの喉をうるおすビールまで下水由来の時代になりつつあるんだろうか。

 水不足が課題のシンガポールで販売中のこちらのビールの名称は、「NEWBrew(ニューブリュー)」。
この国独自の再生水ブランドから誕生した次世代ビールだ。

 国立水道局と醸造所がタッグを組んで開発したもので、下水と尿をろ過した水95%を利用。その口当たりはなめらかではちみつのような後味があるという。

水資源不足のシンガポール発!再生水95%のビールNEWBrew 国土が狭く、保水力が乏しいシンガポールにとって水資源不足は長年の課題であり、これまでもいろいろな形で対策がなされている。

 そんな事情からついに誕生したのが、下水と尿の再生水から作られた新たなビールNEWBrew(ニューブリュー)だ。[画像を見る]  シンガポール独自の再生水95%からなるビールとはいったいどんなものなのだろう?主原料は高度処理水。
政府による再生水ブランドNEWaterを使用 話題のビールの主原料は「NEWater(ニューウォーター)」と呼ばれる高度処理水で、シンガポール政府が立ち上げた再生水ブランドのもの。[画像を見る]  水不足から人々がきれいな飲料水を使い果たさないよう開発されたNEWaterは、2003年のプラント稼働以降、工業用水や貯水池に利用されている。3段階の浄化プロセスで「きれいな水」の条件をクリア そもそもが「きれいな水」の定義によるが、私たちが頻繁に口にする飲料水の第一条件は、有害な物質を含んでおらず、長年飲んでも健康を害さない安全なものであることだ。

 このNEWaterは以下のような3段階の浄化プロセスを経て、その条件を確実にクリアしている。

 まず下水から不要な微細粒子やバクテリアを取り除く精密なろ過を行い、次に逆浸透膜でウイルスなどの汚染物質を除去。そして最後に紫外線で殺菌処理しているため安全性は100%保証されている。
ビールの醸造に不可欠な不純物のない水が可能に シンガポールは、このビールを通じて水不足の克服を世界に発信。排水からハイクオリティな飲料水を生成するだけでなく、ビールの醸造が可能なほどきれいにできることを証明している。

 現地メディアThe Straits Timesによると、ビールの醸造にはきれいな水が不可欠だという。不純物があると、ビールの特長である麦芽やホップ、酵母の味が損なわれる可能性があるからだ。口当たりはなめらかで蜂蜜みたいな後味 「いくらリサイクルでも下水はないわ…」という人のために付け加えると、このNEWBrewに下水っぽい風味は全くない。

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 それどころか熱帯なシンガポールの気候に合うトロピカルなゴールデンエールに仕上がったという。


 国立水道局と開発にあたったクラフトビール醸造所Brewerkzによると、「なめらかでトーストのように少し焦がした蜂蜜みたいな後味がある」そうだ。

 95%は再生水だが、残りの5%には高級なドイツの大麦麦芽のほか、芳香性のホップ2品種(柑橘系のシトラとリンゴや洋ナシのアロマが特徴のカリプソ)および Kveik(クヴェイク)と呼ばれるノルウェーの伝統的な酵母が使われている。1本およそ420円で販売。公式通販は国内限定 1缶330mlでパッケージデザインは3種類。水のリサイクルに貢献するシンガポール川、巨大なダムがあるマリーナバラージ、マクリッチ貯水池をイラストに採用した。

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image credit:Singapore Public Utilities Board

 気になる価格は1本4.50シンガポールドル(約420円)。
現地のスーパーなどでは3缶1パックで販売されている。

 ちなみに公式サイトでも6缶1パックで27.00シンガポールドル(約2,500円)で販売中。ただし発送は国内に限られているようだ。問題なく飲める水処理技術を自国の産業に 世界的にも高品質かつおいしく安い飲料水に恵まれていると評判の日本からすると「そこまでやる?」と思うぐらいの取り組み。

 しかし水不足や予期せぬ干ばつなどで水の確保が難しい国や地域にとって、問題なく飲める水の安定供給は死活問題だ。

 また国民だけでなく、世界の人口爆発や資源不足、経済成長に伴う水不足が予想される途上国を視野に入れた場合、こうした先端技術を磨いておけば自国の産業として役立つことになる。


 以前アメリカのカリフォルニア州の醸造所がお披露目した「フル・サークル」もトイレの排水を再生処理した水を使ったビールだったし、水を限りある資源として大切に使い、積極的に再利用する傾向は今後さらに広まるかもしれないな。

References:designtaxiなど /written by D/ edited by parumo

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