
ひょっとしてまた戻ってきた?自然界の建築家として知られているビーバーが、アメリカ、ニューヨークの川で数年ぶりに復活の兆しを見せ、自然回復の期待が高まるうれしいニュースが舞い込んだ。
ニューヨークの南東を流れるブロンクス川で、ビーバーの姿が数年ぶりに目撃されたのだ。
ナチュラルに天然ダムを造成し、湿地や小さな池を生むビーバーは、生態系に大きく影響する生物種「キーストーン種」の1種だ。
かつてこの川で200年ぶりに発見されるも消えた「ホセ」や「ジャスティン ビーバー」以来の記録と、公表した活動家、RJホーキンスさんも喜びを露わにしている。
ブロンクス川で数年ぶりにビーバーの姿が!
このたびブロンクス川で数年ぶりとなるビーバーの姿を記録したのは、生物学を学びながらビーバーの保護活動を続けるRJホーキンスさん。
ホーキンスさんは2025年5月末、泳ぐビーバーの姿を目にする。それは川に仕掛けてあったカメラがとらえた貴重な瞬間だった。
ブロンクス川で、長い間見られなかった驚くべきものが見つかりました。ビーバーです!
5月末、信じられないことに、ビーバーが写ってました。今度はカメラトラップを通り過ぎて泳いでいました (RJホーキンスさん)
喜びに震えながらその後も期待していると、今度は夏にビーバーの歯型のついた枝などを発見。
そして9月には、同様の枝と川岸で元気に動くビーバーの姿も発見。
彼女はこれらの記録を「驚くべき出来事」とコメント。枝に残された歯形や追加の痕跡は話題を呼び地元メディアで取り上げられるほどに。
本当に素晴らしい発見でした。なぜならこの発見は、ここが生物多様性を支えられる環境にあることだけでなく、姿を消していた種の復活、ひいては都市環境における生態系の大幅な回復の可能性を示すものだからです
この行動は「一人の観察が街全体の関心を動かす」好例で、かつてブロンクス川で確認され、大反響を呼んだビーバー「ホセ」と「ジャスティン ビーバー」の時と同様に、人々に自然の回復活動をうながすものになりそうだ。
200年ぶりに発見されたビーバー2匹も消え不在に
北米原産のビーバー(アメリカビーバー)は、かつて毛皮目的で乱獲されて激減し、絶滅の危機に瀕した過去がある。
その後の保護活動で個体数は回復に向かっているが、ニューヨーク市では長らく見かけられない存在だった。
今回の発見より前で、ブロンクス川で久々の発見と大ニュースになったのは、2007年に目撃されたビーバーの「ホセ」だ。ホセは”200年ぶりのビーバー”として脚光を浴びることに。
さらにその数年後、2010年頃に「ジャスティン ビーバー」と名付けられた2匹目のビーバーまでやってきて、ホセと合流。何年も川で一緒に暮らし、地域の話題をさらった。
ところが、2018年を境に2匹の姿は見られなくなり、以降、ブロンクス川は再びビーバー不在の時代を迎えていた。
ビーバーは環境に影響を与える「キーストーン種」
それからおよそ7年たち、再びビーバーの姿や活動らしき痕跡が見られたことは、同市の環境にとっても重要なことだ。
知っての通り、ビーバーはただ愛らしいだけでなく、水辺を“作り替える”生き物だ。天然のダムを築くことで川の水位や流速を変え、湿地や小さな池を生み出す。
それによってカメ、鳥、昆虫、小魚、両生類などが集まる多様な生息地が成立するため、たとえ個体数が少なくても生態系全体に与える影響は非常に大きい。
このように、個体数が少なくとも生態系に影響を与える生物は「キーストーン種(Keystone species)[https://ja.wikipedia.org/wiki/%E3%82%AD%E3%83%BC%E3%82%B9%E3%83%88%E3%83%BC%E3%83%B3%E7%A8%AE]」と呼ばれる。意味はそのまま、生態系の”要石(かなめいし)”だ。
なお、ホセとジャスティン ビーバーはすでに亡くなったと考えられており、今回の発見は、”失われた”「キーストーン種復活」を期待させるものになる。
ダム撤去後にバランスをとる人工ビーバーダムの存在
ホーキンスさんは、ブロンクス川の上流と下流にそれぞれ2台のカメラを設置するモニタリングで得られるデータで、生息する生物を分析するなど、とても熱心にビーバーを探している。
またブロンクス川にあるダムの上下流で観察される生物種も調査しており、現在ブロンクス川で検討されているダム撤去についてもふれている。
ダムの撤去によって止水域を好む種が居場所を失うなど、種の多様性が失われる恐れや、回遊魚やウナギ類が上流へ移動できない問題を述べた上で、人工のビーバーダム(Beaver Dam Analogs:BDA[https://en.wikipedia.org/wiki/Beaver_dam#Analogs])について言及している。
BDAは人工的に作られる「ビーバーダムの類似物」で、段階的なダム撤去や魚の通行を確保しながら、湿地機能を維持する工夫として注目されている。いわば失うものと得るもののバランスを取るための現実的な折衷案だ。
定住確定に求められる追加調査
とはいえ、ビーバーがこの川に確実に定住しているかどうかはまだわかっておらず、定住しているかどうかに加え、それが複数かどうかも含めた個体数の確認、さらに繁殖を断定するには追加調査が必要だ。
カメラトラップを増やしたり、ビーバーが作るダム構造やさらなる痕跡などを引き続き探し出し、個体判別につなげるといった活動で、ビーバーの存在はより確実になるだろう。
とはいえ一瞬でも、ビーバーの姿がとらえられたことの意味は大きく、ホーキンスさんも今回の画像が「目撃の始まり」であることを願っている。
今度はより自然豊かになったブロンクス川で、せっせとダムを造るビーバーたちが見つかった、という朗報を楽しみに待つとしよう。
References: Bronxriver[https://bronxriver.org/post/announcement/eager-for-beavers-beavers-back-in-the-bronx-river]