水瀬いのりが今まで歩んだ道のりや大切な想いを綴った1stハー...の画像はこちら >>

【その他の画像・動画等を元記事で観る】

アーティスト活動8年目を迎えた声優水瀬いのり。8月21日に発売された1stハーフアルバム『heart bookmark』は、7曲という収録曲数ながら、フルアルバムにも匹敵するほどの濃い楽曲が並ぶ力作である。

収録された新曲には、これまで歩んできた道のりを一旦振り返り、アーティストとして大事にしているものを再確認するような飾らない言葉がズラリと並んでいる。今回のアルバムにはどういった思いが込められているのか?思いの丈を存分に語ってもらった。

INTERVIEW BY 北野 創
TEXT BY河瀬タツヤ

飾らない私でファンへ感謝を伝えたい

――今回の新作『heart bookmark』はハーフアルバムという形態でのリリースです。ミニアルバムともまた違う、あまり聞き慣れないワードですね。

水瀬いのり 単純にフルアルバムの半分という意味になります。これまで私はフルアルバムとシングルという形態でしかリリースしていなかったので、8年目にして1stハーフアルバムという新たな1枚目を作れるというのは、まだまだ新しい挑戦があるんだなと嬉しくなりました。ハーフアルバムではありますが、「これ本当にハーフアルバム?」と思うぐらい聴き終わった後の満足感がすごくて、じわーっと余韻が抜けなかったです。

――今回のタイトル「heart bookmark」は水瀬さんが付けたとお聞きしました。

水瀬 経緯としては、今回リリースするにあたってどういったテーマで制作していくか色々考えていくなか出てきたのが、“来年10周年を迎える現状に対する感謝の気持ち”でした。直近にリリースした「スクラップアート」や「アイオライト」は世界観を作り込んでいる楽曲なのですが、自分の今の心境としてはあまり飾り付けをせず、自分らしい感性がシンプルに伝わる言葉で表現したかったんです。輝いていたい気持ちや日常のキラキラをイメージして(4thアルバムを)『glow』と名付けたときのように。今回の場合は、まもなく9周年という数字を見て「1年目から色々なことがあったな」と振り返りモードになった時に、これまでの活動を本に例えると、たくさんの思い出を栞として心のノートに挟んできたように感じるので、そこから“心の栞をこれからも大切にしていきたい”という気持ちで、“心=heart”と“栞=bookmark”を組み合わせて「heart bookmark」というタイトルに決めました。

――まずは表題曲の「heart bookmark」についてお聞きしていきたいのですが、この曲の作曲は武田将弥さんで、水瀬さんとは『五等分の花嫁∬』OPテーマ「五等分のカタチ」でご一緒されていますね。

水瀬 この曲はコンペで選んだのですが、私はコンペの時にはあまり先入観を持ちたくないので、誰が書いた曲なのかわからない状態で聴くんです。自分としてはこの曲1択という感じで選んで、蓋を開けてみたら武田さんの作曲だったので、ご縁があるんだなと思いました。コンペで選んだ時点ではタイトル曲にすることはまだ決まっていなかったのですが、そこから何度も聴いていくうちに、ただ単にハッピーなだけではない、色んな時間や経験を感じさせるメロディに聴こえてきたんです。“それならタイトル曲に相応しいんじゃないか”となり、この曲のタイトルも「heart bookmark」に決まりました。

――作詞は水瀬さんの楽曲でもお馴染みの岩里祐穂さんが手がけられています。

水瀬 岩里さんは、(2ndアルバム収録の)「BLUE COMPASS」や(4thアルバム収録の)「glow」など、自分が迷った時やここぞという時に詞を介して常に自分に寄り添ってくれているんです。今回も岩里さんならすごく素敵な歌詞を書いてくださるだろうと思って、「heart bookmark」に決まったいきさつをお話ししたうえで書いていただきました。歌詞をいただいたのは、今作のジャケットやMVの撮影でパリに訪問していたときで。バラ園からの帰りのマイクロバスの中で初めて目を通したのですが、外が大渋滞だったことも気にならないくらい岩里さんの詞の世界に入り込んで、思わず泣いてしまいました。

――どんなところがグッときたポイントだったんでしょうか?

水瀬 あまりにも自分を映し出すような言葉たちが並んでいて、この9年間の活動に対して「頑張ったね」「意味のないことはないよ」と言ってもらえたような気がする歌詞だったのがすごく胸に刺さったんです。岩里さんから私に向けた思いが言葉の節々から伝わってきて、こんなに一気に言葉をいただくとは思っていなかったのでグッときてしまって……。多分、活動1年目では感じられなかった言葉の重みや意味があると思うんです。

――それはどういった部分でしょうか?

水瀬 例えば“ダイヤモンドみたいな瞬間が“せーの”で降り注ぐ“という部分は、1年目の私だったらファンの皆さんの声だけにフォーカスを当ててしまっただろうけれど、今はファンの皆さんだけでなくチームのみんながいて、決してソロアーティストは1人ぼっちではないということを知っている。“降り注ぐ”という言葉も1粒じゃなく絶え間なく降り注いでくるものなので、たくさんの人たちが自分と出会ってくれたことで、 私の思い出が反射するように降ってきているのだろうなと思うと、苦しかったことや悲しかったことにもちゃんと意味があって今に繋がっていると感じられて。それを『heart bookmark』の制作のために訪れたパリで聴くという状況も含めて、自分の中ですべてがエモい感じで繋がってしまって、感情がバーッとなってしまいました(笑)。

――そのダイヤモンドのフレーズのあとにある“ありがとうが言いたくて あせって 悔やんで 笑って”も琴線に触れるポイントだと思います。

水瀬 アーティスト活動をしているにも関わらず、目立つことに対してポジティブになれない恥ずかしがり屋な自分がいつまでもいることに、いいのかなと迷う部分が未だにあるんです。でも、みんなへのお礼をどんな形でも伝えたいという気持ちはずっとあって。私は「ありがとう」を完璧なスマイルで言える人ではないので、だからこそ“あせって 悔やんで”がすごく自分を映し出しているなと思いました。「あのときは焦ってありがとうと言ってしまったな」とか、逆に「上手くありがとうと言えなくて悔やんだこともあったな」とか、歌詞のフレーズ1つ1つに思い当たる節がたくさんあって、それも自分だなと思えるような9年を迎えられる幸せを今噛み締めています。

――このフレーズは岩里さんが水瀬さんの活動をしっかり見ていないと書けないフレーズだと思うので、そういった面でもすごく素敵ですよね。

水瀬 私自身ですらこの歌詞を読んで気づかされる私の一面があるので、私の先を行く岩里さんには未来の私がどう見えているのでしょうね? “未来のわたしは今日のわたしと歩いてる”というフレーズは、アーティスト活動をしていく中で常に感じている部分ではあったので、振り返った時にまさに私の活動がこの「heart bookmark」と思える曲になって本当に幸せです。

――個人的にはサビの“誰も味方がいない日も”という部分は、水瀬さん自身が活動を通して伝えたいことのように感じました。

水瀬 まさにそうですね。

私のモットーとして、会場や聴いてくれる人数じゃなくて、そこに1人しかいなくても私は全力で歌うという気持ちをずっと持ち続けているので、“誰も味方がいない日も 味方になれるそんな歌を歌って”という言葉も、私のアーティスト活動をより近くに感じてもらえるフレーズになっていると思います。曲を通して聴いてくれるあなたに「ずっと側にいるんだよ」というメッセージが届いたら嬉しいです。

――ほかにも、2番の“あの日、蕾が開きました。”から始まる一連の歌詞も素晴らしいです。

水瀬 皆さんも歌詞を読んでいただけたら気づくと思うのですが、このフレーズは1stシングルの「夢のつぼみ」と、花が開いた1stアルバムの「Innocent flower」のことです。続けて“青い海”が「BLUE COMPASS」で、“虹の向こう”が「Catch the Rainbow!」、“瞬く光”が「glow」と、今までのアルバム4枚とリンクする言葉が歌詞に入っていて、この「heart bookmark」に繋がっている。しかも“あの日”と“青い”と“いつか”の部分はいわゆるコーラスパートなので、ぜひファンの皆さんにはこの部分を歌っていただいて、みんなで楽曲を完成させたいです。

――まさにライブが楽しみになる曲ですね。

水瀬 歌いながら回復していくような、自分がどんどん前向きになっていく曲だと思ったので、ライブが本当に楽しみになりました。この曲をたくさん歌えることが嬉しくて、あと何回この期間で歌えるのか、1回を大切にしながらブックマークしていきたいですね。

“推し”という言葉の難しさ

――2曲目のアルバムリード曲「フラーグム」は、水瀬さんもベリーブロッサム(=乃苺佳寿)役として出演しているTVアニメ『アクロトリップ』のOP主題歌として制作された楽曲になります。この曲はどのように作品に寄り添って作られたのでしょうか?

水瀬 まず、この「フラーグム」というタイトルは作詞を担当したカノエラナさんが命名してくださって、「フラーグム」がラテン語で“苺”という意味なので、まさに私の演じる魔法少女のベリーブロッサムを表す言葉になっています。主人公の伊達地図子ちゃんはベリーがとにかく大好きで、ベリーがいるから色んなことが頑張れるという推し/推されという関係性なのですが、抑えようと思っても抑えられない、気づいてしまった憧れがどんどん赤い苺に実がなるように大きくなって弾けていく。

そんな世界観が歌詞に落とし込まれています。

――なるほど

水瀬 “好きが自分を変えていく”というのはこの作品のテーマにもなっていて、実際にベリーブロッサムを好きになった地図子は、その「ベリーが好き」という気持ちを原動力に、新しい1歩を踏み出して変わっていく。その進んでいく道自体はベリーとは全然違う方向で、「えっ!?そっちに行くの?」というコメディチックな展開なのですが、同じ道を行かない面白さ、“応援する/される”ことの相乗効果みたいなところも描かれている作品なんです。あと、魔法少女は変身すること自体がテーマなので、「フラーグム」でも主人公の精神面や考え方が変身をして前向きになっていく。そういったところが作品にすごく寄り添った1曲だと思います。

――この曲は “推し“がテーマになっていますが、水瀬さん自身は推しに対してどういう風に考えていますか?

水瀬 地図子ちゃんのように近い存在の憧れの人、私で言うと声優の世界の中での憧れとなると、私にとってはやっぱり水樹奈々さんになります。自分が夢を持ったきっかけの方でもあるので。……ただ、“推し”ってどこか少し無責任じゃないですか。

――たしかに、感情としては随分一方的ではありますよね。

水瀬 相手に拒否権がないというか、近すぎる人に対して推し/推されの関係は難しいなと思ってしまうんです。同じ業界にいながら(水樹)奈々さんのことを推しと言ってしまうと「それはプロとしてどうなんだ」みたいな気持ちにもなりますし、私にとって奈々さんは推しではなくリスペクトする存在という言い方が近くて。とはいえ、この曲の中で歌っている好きの気持ちは、私が学生時代に奈々さんに抱いていた気持ちとシンクロするもので。

私は奈々さんがいてくれるからこそ頑張れたこともたくさんありましたし、奈々さんの音楽やライブ、アニメに癒しと感動をもらって、今この業界にいるので、そういった気持ちはこの曲にすごく入っています。

――作曲・編曲は白戸佑輔さんが担当していて、かなりインパクトの強い楽曲になっています。

水瀬 トリッキーですよね。“予想していた音に行かない”というのは私的には白戸さんあるあるで、色んな方向に行くんだけど、それがしっかり1つに繋がっているという遊び心のようなものがすごく巧みで、もはや白戸さんのブランドだなと思います。難しいことをしているはずなのに、聴いた人にとってはなんだかそれが心地良く感じる。白戸さんにしか出せない“心地いい違和感”が本当にすごいなと思います。アレンジの部分でも白戸さんの調理過程がどうなっているのか私には想像がつかないんですよね。材料はよくわからないけどすごく美味しいご飯が出てくる、みたいな感じです(笑)。

――そういった楽曲を歌で表現するにあたって苦労された点はありましたか?

水瀬 白戸さんの楽曲の難しいところは、本線だけでなくハモがえぐいんですよ。ハモれているのか自信がないくらいにゅわんにゅわんした音というか(笑)、「2度は歌えないぞ!」というような音なのに、結果的にそれを合わせるとしっかりハモれているので逆に怖いくらいで。だから本線の歌録りが終わっても試練が割と残っているのが、白戸さんの楽曲のレコーディングで頑張らなくてはいけないポイントです。

――ちなみに歌詞の中でお気に入りのフレーズはありますか?

水瀬 私のお気に入りのフレーズは、(ラスサビの)“もらった愛をかえしたい”のところです。

トラックダウンの時に大胆に声のエコーをなくす、ドライと呼ばれる手法を使って、かつオクターブ下の低い音で同じメロディが歌われているテイクを重ねているんです。それによって2人いる感じがするというか、推される側も推す側も“もらった愛をかえしたい”という気持ちをお互い持っているように感じられると思います。それはベリーと地図子だったり、ベリーとマシロウだったり、『アクロトリップ』はキャラクターごとに愛を交換し合っているので、それがすごく作品を表現したフレーズで好きです。

――MVもとても素敵な映像でしたね。

水瀬 熱帯植物園に行ってきました。たくさんのお花と草に囲まれて、マイナスイオンがたくさん出ていて、ちょっと汗をかきながらでしたけど、まだこんなに暑くなる前だったので頑張れました。MVの中では最後に私が変身するんですけど、眼鏡姿から花冠をつけたちょっと大人っぽい赤いドレスにおめかしした姿に変わるので、そこはMVの注目ポイントとして見てもらいたいです。

――水瀬さんの眼鏡姿はMVでは割と珍しいですね。

水瀬 「Catch the Rainbow!」ツアー(“Inori Minase LIVE TOUR 2019 Catch the Rainbow!”)のグッズで7色の色ごとにスタイリングを変えて撮影した際に、眼鏡っ子バージョンの私も撮影したことはありましたが、たしか映像では初めて眼鏡をかけました。でも、私は日常生活では眼鏡をかけているので、割と普段の自分すぎてだいぶ恥ずかしかったです(笑)。あと、美容院に行くシーンがあるのですが、髪が短いのでよく見るとずっと髪を梳かされているだけなのもちょっとかわいい見どころだと思います(笑)。

影のプロデューサー・大西沙織!?

――シングル曲の「スクラップアート」と「アイオライト」に関しては、以前のインタビューでお話を伺ったので割愛させていただいて。続く新曲「ほしとね、」はチルなエレクトロポップ系の浮遊感溢れるお洒落な1曲で、これまでとはだいぶ趣の違う楽曲になっていますね。

水瀬 だいぶ挑戦的なサウンドになっています。プロデューサーさんたちが揃って「これがいい!」と言っていた曲で、私もメロディを聴いた時に素敵だなと思ったんですけど、それこそほかのアーティストさんが歌ったものを聴いてみたいと思ってしまうくらい、自分がこのタイプの曲を歌っている姿があまり想像できなかったんです。私は困ったときや迷ったときには(許可を得たうえで)母、そして大西沙織に相談するんですけど(笑)、イントロとAメロの部分を沙織に聴いてもらったら、「すごく良い!いのりの声で歌ったら最高!」と言ってくれたので、その後 「大西さんも良いと言ってくれたので……やります」とプロデューサーさんたちにお伝えしました(笑)。プロデューサーさんたちからは、「いや、僕たちも最初から良いって言っていたよ」とは言われたんですけど。

――大西さんへの信頼が(笑)。もはや影のプロデューサーですね。

水瀬 沙織に私の歌声を入れて聴かせたいという、だいぶ私情を挟んだ楽曲になってしまいましたが、(作詞・作編曲を担当した)櫻澤ヒカルさんにも伝えたところ「まさか大西さんも良いと言ってくれるなんて」と喜んでくださったので、ある意味セーフだと思います(笑)。

――心配されなくてもすごく素敵な歌声になっていましたよ。

水瀬 ありがとうございます。この曲はアコースティックな空間のように自分の歌が割と前に出る楽曲で、本番もドキドキしながら歌っていたので良かったです。あと、“曖昧 感傷モードで”のラップっぽいパートは少しでも恥ずかしがったら絶対かっこ悪くなると思ったので、とにかく「イケてる!私は今イケてる!」と言い聞かせながらずっとレコーディングをしていました。そのおかげで手ごたえもありましたし、完成したものを聴いたあとは当初抱えていた不安が晴れるくらい自分の歌になったと思えたので、今はライブで披露するのが楽しみです。

――この曲は会いたい気持ちを歌っているので、ライブで映えそうですよね。

水瀬 「ほしとね、」という言葉は“星と音”と書いて「ほしとね」とも読めるダブルミーニングなタイトルで、会いたい気持ちが導き合う曲になっています。“私を見ていて”とか、“歌に隠すわ”という歌詞も、私の気持ちを音楽を通してみんなに伝えるという、まさにライブ空間にぴったりな内容なので、そこも意味を持って歌えたらいいなと思います。

――ちなみに櫻澤さんは「Starlight Museum」以来の楽曲提供となりますが、水瀬さんは櫻澤さんの楽曲に対してどのような印象をお持ちですか?

水瀬 やっぱりメロディラインが素敵で、メロディのセンスのある方だなと今回改めて思いました。先ほどお話したようにこの曲はコンペで選んでいて、最初は櫻澤さんの曲だとわからなかったんです。本人的にはバラードや「Starlight Museum」のようなエモーショナルな雰囲気の曲の採用率が高いらしいのですが、櫻澤さんご自身としてはエレクトロミュージックやEDMをやってみたいそうで。まだまだ知らない一面が見えた気がして、もし次があったらそういうジャンルも挑戦してみたいなという話題でちょっと盛り上がったりもしました。

日々生きている人たちに刺さってほしい

――6曲目の「グラデーション」はポエトリーのようなパートもあるアコースティックな1曲で、こちらも新鮮な雰囲気があります。

水瀬 この曲もコンペで選んだ曲で、「ほしとね、」と同じフォルダの中にあった曲だったと思います。(コンペの楽曲を聴きながら)踏切に引っかかってしまったときに偶然この曲のイントロが流れたことがあって、“カラスが鳴いている夕暮れ時に下りる踏切”という光景が目の前に広がった瞬間、まさにこの曲のためのシチュエーションのように思えて「これだ!」という確信に変わり、今回選ばせていただきました。なので、歌詞も現実味のある世界観で、かつ等身大で多くの人に届くような曲というイメージで書いていただきました。時間のグラデーションも日単位ではなくて年単位となっているので、よりドラマ性のある1曲に仕上がっていると思います。

――作詞を担当するのはやぎぬまかなさん。水瀬さんとはアニメ『阿波連さんははかれない』のキャラクターソング「AHAREN HEART」でご縁がありますね。

水瀬 今回のレコーディングではお会いすることができなかったんですが、やぎぬまさんの繊細な言葉の選び方や、サビの“ション”で韻を踏む遊び心のおかげで、とても癖になるサウンド感になっています。最後は鼻歌で終わるのも1歩踏み出した感じがしてすごく良くて。余韻がある1曲になったので、頑張った皆さんはもちろん、今日頑張れなかった人にも聴いてほしいです。悲しさや残念な気持ちをそのままにしておかない曲なので、この曲を聴くことで明日また頑張ろうと思ってもらえたら嬉しいです。

――個人的にはサビ前に入っている呼吸音も癖になります。

水瀬 あれも何種類か収録しまして、レコーディング中には答えが出なかったので、(作編曲を担当した)近藤世真さんに持ち帰ってベストオブため息を選んでいただきました(笑)。

次のページ:YDから水瀬いのりとファンへ贈る“祈り”の形

YDから水瀬いのりとファンへ贈る“祈り”の形

――最後の曲である「燈籠光柱(とうろうこうちゅう)」は、水瀬さんの楽曲ではお馴染みの栁舘周平さんの楽曲です。

水瀬 こちらは栁舘さんにお願いして書いていただきました。2~3月に開催したアコースティックライブ(「いのりまち町民集会2024 -ACOUSTIC LIVE Wonder Caravan!-」)から色々インスピレーションを受けて、音の数に囚われず少ない音でも色んな表現ができるものを作りたい、というのが始まりだったのですが……。

――いやいや、音数をすごく重ねた楽曲で全然真逆じゃないですか(笑)

水瀬 これは栁舘さんあるあるで、迷わず壺を割れるタイプの人といいますか、最初にこうかもと思っても次にはもうガラッと変わっているんですよ。「While We Walk」のときも、私たちはOKと思っていた作品が、「あの曲はもうやめました」と途中でまったく知らない曲になったことがありましたし。もちろん制作過程で「こういった雰囲気にいくので大丈夫ですか?」というような確認はあるんですけど、自主リテイクを繰り返しされる方で歌詞もどんどん変えていくから、どのタイミングで練習すればいいのかいつもドキドキするんですよ。「当日変わるとかもある!?」って。

――それはシンガーとしては悩みどころですね(笑)

水瀬 今回は確定されたものが来たので練習して臨めましたけど、当日変更となっても対応できるくらいの気持ちでいつもいるし、むしろそれを楽しみにしている自分もいるくらい、何が出るかわからないお楽しみ感が栁舘さんのサウンドにはありますね。「クリスタライズ」「スクラップアート」の時にもあったのですが、栁舘さんは楽曲の世界観や自身の想いを言葉で表現するのが難しいからと、音楽を作るにあたって参考にした絵や画像を見せてくれるんです。今回の「燈籠光柱」に関しては絵ではなかったのですが、いわゆるお祭り曲っぽい、「これが曲になるの!?」と思うような参考資料を聴かせていただいて、最終的に栁舘さんから返ってきたのがこの曲だったので、やっぱりすごいなと思いましたね。

――“お祭り”というワードのとおり、日本の祭囃子っぽいリズムからブラジルのサンバ、ニューオーリンズのセカンドラインまで、世界各国のお祭りやカーニバルのサウンドが混ざっていますよね。

水瀬 地球の裏側に行ってしまっているくらい目まぐるしく音が変わっていくんですけど、でも「燈籠光柱」というタイトルどおり、1本の光の柱はしっかりあるんですよね。お祭りと一口に言っても、みんなが同じ踊りを踊るのではなくて、お酒を飲んでいる人もいれば、ご飯を食べている人もいるし、なんなら川で遊んでいる人もいる。サウンドからその雑多な世界の情景が浮かぶのは、やっぱり“YD”だと思いました。

――“YD”?

水瀬 楽曲のファイル名がいつも“YD”なので、私はいつも栁舘さんのことを“YD”と呼んでいるんですよ。栁舘さんにはもう公認していただいています(笑)。

――なるほど(笑)。灯篭ってあまり身近な存在ではないと思いますが、水瀬さんはどのようなイメージを持たれていますか?

水瀬 弔う気持ちや願いを込めて灯篭を川に流すお祭りが各地で行われていて、吹けば消えてしまうような脆さも含めて、そこに哀愁が感じられるのが灯篭の素敵な部分で。その光がだんだん遠くなっていくところに切なさと美しさが感じられて、本当に雅な空間だと思います。

――そういった雰囲気をどういうふうに歌で表現させていったのでしょうか?

水瀬 「heart bookmark」とはボーカルのイメージがガラッと変わる曲になっていて、少しやりきれない思いを抱えながらも色んな障害を乗り越えて進んでいくというところに美学がある。そんなかっこよさを意識して歌いました。間違いなく10周年に近いポジションをこの曲は担ってくれるはずなので、改めてファンの皆さんと私たちの絆が深くなる1曲 になると思います。栁舘さんは今までの活動を振り返った時に本人にとって意味のある言葉にしたほうが良いとおっしゃっていて、例えばDメロの“振り返れば静かに旗めく”の部分を“旗めく”に変えてくださったのも栁舘さんの自主リテイクだったんですよ。

――水瀬さんのラジオ番組「MELODY FLAG」に掛けているんですね。

水瀬 ほかにも“旅を続けた”という言葉は(1stアルバム収録の)「旅の途中」という曲にかかっていたりします。今までの自分を形作ってくれたワードをふんだんに使いながら新しさも入れていく形は、振り返れば頑張ってきた過去の自分がいて、前を向けば未来の私が待っているというふうに思えるので、これから先も楽しいことが待っているのだと確信できる1曲になりました。

――そういえば“私たちの祈りを”の部分は、ストレートに水瀬さんの名前とのダブルミーニングになっていますよね。

水瀬 栁舘さん曰く、“祈り”というフレーズは彼の中では簡単には使わないように決めていたそうなんです。今回使ったことに対して「良かったのだろうか?」とおっしゃっていたんですけど、私は意味のあるフレーズとして“祈り”という単語が入ったことで、“私の歌”として確固たるものになってくれたと思っています。最後にラララと歌うパートも含めて大団円感もあるので、この部分はファンの方にも歌ってほしいですね。

――実際に意識されたかはわかりませんが、ファンと一緒に大合唱できるパートや大団円感を含めて、Elements Gardenの藤永龍太郎さん提供による「僕らは今」にも通じるものというか対抗意識を感じたりもしました。

水瀬 栁舘さんと藤永さんは、私のライブに来てくれたときに私が目の前にいながら2人だけでライブの感想を話し合ってしまうくらいすごく仲良しで(笑)。かつ、お互い意識し合っている関係でもあって、そういったお互いのリスペクトがありながらお互いのサウンドを自分たちが塗り替えていくぞと切磋琢磨し合う関係性ってすごく良いなと思います。それだけ一生懸命楽曲作りに魂を込めてくれている分、それに応える歌を歌わなきゃいけないので、私も一緒にスキルアップしていけたらいいなと思いますね。ちなみに藤永さんは「燈籠光柱」でギターを弾いているので、藤永さんファンの皆さんもここで藤永さん成分を堪能してもらえたら嬉しいです。

誰も置いてけぼりにしない、心の距離が近いライブに

――そんなハーフアルバムを引っ提げて、9月からは“Inori Minase LIVE TOUR 2024 heart bookmark”もスタートします。昨年の「SCRAP ART」ツアーはかなり新しい挑戦を盛り込んだツアーになっていましたが、今回はどんなライブにしようと考えていらっしゃいますか?

水瀬 「SCRAP ART」ツアーはこちらから一方的に見せるライブで、状況を把握するのに時間が欲しいと思うことも皆さんあったと思うんですけど、今回は「heart bookmark」という“心の栞”のコンセプトに忠実な温かいライブ空間を作りたいなと思っています。ブックマークという言葉どおり、皆さんがまた帰ってきたくなるようなライブ空間になってくれたらベストですし、一体感やライブに来たからこそ体験できることも大切にしたいです。今日だけじゃなく私たちはずっとここで歌っているんだよと示せるような、温かくて距離が近い空間を築けるように現在鋭意制作中です。

――ライブでそういった関係性を水瀬さん自身も作りたいという気持ちが強いってことですよね。

水瀬 やっぱり広い会場になるとどうしても見えやすい/見えづらいという部分に囚われてしまいがちなんですけど、心の距離の部分で満足していただけるようなライブができないとダメだと思うので、寂しい思いをさせないためにも、色々工夫しながら温かい空間にできたらいいなと思っています。

――その日はきっとファンにとっての「heart bookmark」になるでしょうね。

水瀬 そうですね。便利な言葉ですね、ブックマーク(笑)。

●リリース情報
オリジナルハーフアルバム
『heart bookmark』
発売中

【初回限定盤(CD+Blu-ray)】

価格:¥3,300(税込)
品番:KICS-94166
・初回限定盤特典:特製BOX、別冊40Pフォトブック
・封入特典:特製トレカ

【通常盤(CD)】

価格:¥2,200(税込)
品番:KICS-4166
・初回封入特典:特製トレカ

<CD>
01. heart bookmark
作詞:岩里祐穂 作曲:武田将弥 編曲:白戸佑輔
02. フラーグム
作詞:カノエラナ 作曲・編曲:白戸佑輔
03. スクラップアート
作詞・作曲・編曲:栁舘周平
04. アイオライト
作詞・作曲:志村真白 編曲:EFFY
05. ほしとね、
作詞・作曲・編曲:櫻澤ヒカル
06. グラデーション
作詞:やぎぬまかな 作曲・編曲:近藤世真(Elements Garden)
07. 燈籠光柱
作詞・作曲・編曲:栁舘周平

<Blu-ray>
Music Video 4曲
01.アイオライト
02.スクラップアート
03.フラーグム
04.heart bookmark

●ライブ情報
水瀬いのり 2024年ライブツアー「Inori Minase LIVE TOUR 2024 heart bookmark」
9月15日(日)【兵庫】ワールド記念ホール
9月21日(土)【広島】上野学園ホール
10月5日(土)【愛知】名古屋国際会議場 センチュリーホール
10月12日(土)【福岡】福岡サンパレス ホテル&ホール
10月19日(土)【北海道】カナモトホール(札幌市民ホール)
11月2日(土)【千葉】LaLa arena TOKYO-BAY
11月3日(日)【千葉】LaLa arena TOKYO-BAY

特設サイトはこちら
https://www.inoriminase.com/special/2024/hb/

●作品情報
TVアニメ『アクロトリップ』
2024年10月よりTOKYO MX、BS日テレにて放送開始
FODにて最速見放題配信

【キャスト】
伊達地図子:伊藤美来
クロマ:島﨑信長
ベリーブロッサム=乃苺佳寿:水瀬いのり
マシロウ: 河西健吾
大溝芭隆:森久保祥太郎
心亜:花井美春
月:沢城千春

【スタッフ】
原作:「アクロトリップ」佐和田米(集英社 りぼんマスコットコミックス刊)
監督:小竹歩
シリーズ構成:猪爪慎一
キャラクターデザイン:川村敏江
プロップデザイン:久保川絵梨子
美術デザイン:藤瀬智康
美術監督:川崎美和
色彩設計:長谷川美穂
撮影監督:木田健斗
編集:柳圭介
音響監督:田中亮
音響制作:Ai Addiction
音楽:TECHNOBOYS PULCRAFT GREEN-FUND
音楽制作:キングレコード
アニメーション制作:Voil
オープニング主題歌:「フラーグム」 水瀬いのり
エンディング主題歌:「リバーシブルベイベー」 カノエラナ

<イントロダクション>
みつけた、熱くなれるもの(魔法少女)をー
祖父のもとを訪れた地図子は、街を守る魔法少女・ベリーブロッサムと出会い、たちまち夢中に。 しかし、敵対する悪の組織「フォッサマグナ」総帥・クロマの攻撃があまりにもパッとせず、2人の戦いは見応えゼロ。もっと、ベリーの活躍を愛でたい地図子はモヤモヤを募らせていく・・・。
「魔法少女をもっと輝かせたい・・・強いてくれ、苦戦を!」
その欲望(?)が、内気な少女を悪の路に導いてゆく―。

©佐和田米/集英社・「アクロトリップ」製作委員会

関連リンク

水瀬いのりオフィシャルサイト
https://www.inoriminase.com/

水瀬いのりオフィシャルX
https://twitter.com/inoriminase

水瀬いのりオフィシャルYouTube
https://www.youtube.com/channel/UCYBwKaLwCGY7k3auR_FLanA/

編集部おすすめ