今期、大注目のTVアニメ『葬送のフリーレン』のOPテーマを担当するのは、様々なタイプの作品に対して確かな解釈力を発揮しつづけ、厚い信頼を獲得してきたアーティスト・YOASOBIだ。2人はこの作品に対してどのようにアプローチをしてこの「勇者」を作り上げたのか。
話を聞くと、フレーズや音の1つ1つにおける繊細かつ非常に丁寧に仕上げたようすが浮き彫りになった。このインタビューで語られた想いとともに、ぜひフルコーラスでじっくりと味わってほしい。

INTERVIEW & TEXT BY 日詰明嘉

作品をリスペクトしつつ、新たなOPテーマの形を作れた喜び
――Ayaseさんは『葬送のフリーレン』は元々原作コミックスのファンだったそうですね。どんなところが魅力的に映りましたか?

Ayase 綺麗な絵柄やストーリーももちろん魅力的ですが、この作品はやっぱり“言葉”ですね。フリーレンが語る言葉や、かつてヒンメルが言っていた言葉もそうですし、1つ1つのシーンにおける言葉が、しっかりと読者の心に残っていくマンガだという印象がありました。

ikura 勇者ヒンメルの想いや貫いてきた精神、そして身の回りの人に与えてきた言葉が繋がれていく感じ。
読んでいて、そうした精神というものはやっぱり残っていくんだなと、読んでいて思いました。その人がいなくなったときに残るのは、誰かに与えたものだったり、与えられたものだったりと、目に見えないものが受け継がれていく。いなくなってしまってからも誰かにとって光になっていくというのは、読んでいて真理だなと思いました。日々生活しているなかでも、そういった大切な人の言葉によって生かされているなと思う瞬間があるので、今回の楽曲「勇者」も、彼が残してくれたことに対して思っていることに強く共感しながら歌っていきました。

――楽曲作りについてはどのようにアプローチされましたか?

Ayase 元々原作のファンでずっと読んでいたことがまずあり、その上で楽曲用原作小説の『奏送』をいただきまして、ここには管楽器などがたくさん出てくるので、そういったところを拾いつつ考えていきました。アニメ化してオープニング映像とともに流れてきたときに、どんな楽曲だったら格好良くワクワクするかという視点も入れつつ作っていきました。
作曲については、今までまったくやったことないリズムを試みました。エスニックな空気感やレゲエに近いリズム感はほかの曲でも試みたことはありましたが、このリズムは初めてです。

――それを試みようと思ったのはどんな理由から?

Ayase 『葬送のフリーレン』の壮大なファンタジーの世界観を表現したい、と思ったときに浮かんだリズムとメロディーを思ったままに書いていった形です。その意味で、かなりストレートに作れましたね。異国情緒的なこともそうだし、民族っぽい雰囲気だったり。踊り子が緩やかに舞っているような感じにしたいなと思って書いた結果として、この形になりました。


――ファンタジー作品の場合、楽曲作りの幅の広がりは感じられましたか。

Ayase そうですね。楽曲としての幅ももちろんそうですけど、作品をしっかりとリスペクトしつつ、アニメのオープニング楽曲として新しい形に挑戦出来たと感じているので、個人的にも楽しかったです。その意味での幅が見せられたかなと思います。

――ikuraさんは、仕上がってきたサウンドを聴いてどんな印象をお持ちになりましたか?

ikura Ayaseさんが『葬送のフリーレン』の物語と、楽曲用原作小説『奏送』を読んだうえで、オープニングとしてこの道を選んだのだという、確固たる意志を強く感じて素晴らしいなと思いました。楽曲が始まるところは、フリーレンが一つの旅を終えて、また歩き出した足音が聞こえてきそうな感じのするリズム。
走り出すというよりも、一歩を踏み出すような力強さを感じて、とても素敵だと思いました。小説のなかにも様々な楽器が出てきたりと色々な描写があるなかで、自分が思い描いていた景色や楽器の音色が、まさにそのまま飛び込んできたんですよね。小説全体のことを音に落とし込んだ、『葬送のフリーレン』に寄り添った楽曲になっていると感じています。

――レコーディングについては、どのようにプランニングされて臨まれましたか? 

ikura まず、フリーレンが喋っている様子を想像しました。彼女はどんな声色なのかとか、かわいらしい感じの可能性もあるし、でも見た感じはやっぱりクールな印象だから意外と低めなのかな……と、色々と考えを巡らせ悩みましたが、実際にレコーディングブースに立って、冒頭の歌い出しのところから声色とニュアンスを話し合いながら作っていきました。レコーディングに行く前は歌詞の読み込みだったり、楽曲用の原作小説と、『葬送のフリーレン』の原作コミックスを読んでのイメージを膨らませて、いくつかのパターンを想像するという形でした。


――歌い方について意識されていたことを曲の展開に沿って教えていただけますか?

ikura 最初のパートは、ちょっと語り部っぽく、ストーリーテラー的な立ち位置で物語を説明しているようなところもあるので、あまり感情を乗せずに歌っていきました。

――そして“それでも君の”からフリーレンの感情が広がっていきますね。

ikura このパートからフリーレンの視点で、彼女の言葉として発していくので、ニュアンスを調整しつつ挑んでいきました。ただ、1番のサビではまだそこまで感情を顕にしていない印象でした。フリーレン自身、「これは何なのだろう、でも確かに胸の中で動いてるものがある」というような、迷いがありながらも葛藤しているという、絶妙なバランス感を探っていきました。フリーレンは、あまり感情的にならないイメージのキャラクターなので、少し冷めているというか、感情を抑えてるほうがグッとくるポイントでもありました。
このあたりは、歌詞の一行、一文字レベルで「フリーレンが今、この気持ちで歌ったらどういうことになるのか」と細かく突き詰めて歌っていきました。

――そして、2番からはいかがでしょうか?

ikura 2番でスピードが早くなる部分の“それすら未来でいつか”という部分を聴いたときに、この曲の空気感が変わるような印象を受けました。今まで色んな楽曲を歌ってきて、徐々に感情が溢れ出すような表現もしてきましたが、こうしたイメージを歌にするのは初めてだったのでより慎重に録っていきました。ここから景色が1つ変わるような歌声として届いてたらいいなと思っています。終盤、特に落ちサビからのラスサビは歌声でも皆さんの心を持っていきたいポイントでした。ここはフリーレンが「この気持ちに突き動かされていたんだ」、「これが大切だったんだ」と、気づいた瞬間の感情の高ぶりを表現できたかなと思います。

――Ayaseさんは、今ikuraさんがおっしゃった辺りのパートはどのように考えて構築されていきましたか?

Ayase サウンドメイク的に言うと、1サビまではフリーレンが「もっと人間のことを知ろうとすべきだった」と思い旅に出る状況を説明しています。そして2番からフリーレンの旅が始まります。楽曲用の小説『奏送』が原作になってるので、まだほかの仲間たちには出会っていないのですが、色んな描写でもあるように、割とコミカルな旅をしていたりもするので、色々な人との出会いや景色を見たりという旅のおかしさや楽しさ、奇天烈さを表現できればと考え、色々な音の展開をしている感じに仕上げました。

一言一句、逃さずに伝えられる歌声を目指して
――ikuraさんの声の立て方とリズムとの一体感が印象的でした、どんな工夫をなさっているのでしょうか?

ikura 特に歌い出しのところとサビは、グサッと飛び込んでくるけれども、聴いてくれる人が一言一句逃さずに聞き取れる声であることを意識しています。サビはそこまで伝えてきたものを総括した、一番聴いてほしい部分になる言葉だと思うので。技術的なところで言うと、滑舌を大事にして歌詞を読まずとも物語がきちんと入ってくることを意識しています。声の立て方というのは、そのうえでの作業で、本当に感覚的ですね。ある言葉だけ子音を立てたり、母音を消したり、流れの強弱や抑揚をつけたりといったことを曲に詰め込んだ感じですね。

――伝えたいという気持ちがまずあり、それを全面に出すことで音に表れていくんですね。

ikura そうですね。レコーディングに入る前に、このとき登場人物はどう思っているかとか、どういう感じでこの言葉が出ているのかを、一度振り返ってから歌うようにしているので、そのときに自然と出てきたニュアンスや表現をすごく大事にしています。

――そして、楽曲の演出としてクワイアを導入しています。この意図について教えてください。

Ayase 旅の始まりを見送ってくれるような歌でもあるし、ヒンメルに対するレクイエムというか祈りも込めた表現として、クワイアが良いだろうと考えました。

――最近は特に作品に対する解釈の姿勢が厳しく求められている気がしますが、そうしたなかでもYOASOBIの解釈力の高さは多くの支持を受けています。これが1つの作品だけでなく、いくつもの作品に対してやり遂げられているのはどんな秘訣があるのでしょうか?

Ayase 秘訣というよりも、ひたすらその作品のことを考え続けた結果、そう言っていただけているのかなと思っています。その作品を作っている間は、寝ているとき以外はずっとその事を考え続けて頭の中にそのことがあり続けている状態にしているんです。恐らく皆さんが想像されている何十倍も原作や小説を読んで、作者の次に理解しているのは自分でありたいと思うくらい、深く潜って、細かいところを拾おうとします。単純に努力、ですね。

――作るとなったら没頭する。そのときに多角的に考えたり、客観視することは?

Ayase 場合によりますが、必要なときはどちらもあります。基本的には楽曲を作る集中モードに入ったら、そのことだけをただひたすら考えています。それは原作のことだったり、メロディーのこともありますが、とにかく目の前にあることに対して一本集中です。最近の僕のテーマとして「集中」があって。多角的にも深める方向でも、とにかく考えた時間の差で勝つようにしています。レジェンドの方たちはめちゃくちゃ音楽に長く向き合い続けてきたと思うので、僕が生きてきた時間で勝てるとしたら、この方法しかない。僕はその短い時間で勝ちに行きたいので、理想を高く置いています。

――ikuraさんの方はボーカリストとして解釈についてどんなことを大事にしていますか?

ikura どの作品も全力を注いでいるので、一つ一つしっかり向き合っていると言ったらそれだけになってしまうんですが……姿勢としては、自分が最後の大事な役割をもらっているという心づもりでいます。原作小説を書いてくださった方の想い、そしてAyaseさんが楽曲を作ったときの想いのバトンを全部もらって、私が最後に歌声をのせてちゃんと届けなければ、それまでの過程を台無しにしてしまうことになるんですよね。その意思をしっかりと繋いでいなければ、という責任感をいつも感じているので、レコーディングのときは全員が納得のいくまで、1行1行に時間をかけ、作品の最高の歌にできるよう追い求めています。

――先ほど一言一句にもこだわるというお言葉がありましたし、そうした一つ一つの要素へのリスペクトと、リスナーの方に届けたいという想いなんですね。

ikura そうですね。本当に、たった1音・1文字だったとしても、作者の方やAyaseさんは色んな過程を経て作っていると思いますので、そこを軽い気持ちで終わらせてしまっては、届くところまで届かなくなってしまう。皆がそれぞれ出してきたエネルギーにふさわしい歌声を出さなければいけないなと思って挑んでいます。

●配信情報
YOASOBI
「勇者」

作詞・作曲・編曲:Ayase/歌唱:ikura
楽曲制作用書き下ろし小説:『奏送』(著:木曾次郎、監修:山田鐘人)

配信リンクはこちら
https://orcd.co/yuusha_0929

●作品情報
TVアニメ『葬送のフリーレン』

<イントロダクション>
「週刊少年サンデー」(小学館)で連載中、山田鐘人(作)とアベツカサ(画)による漫画『葬送のフリーレン』。勇者とそのパーティーによって魔王が倒された“その後”の世界を舞台に、勇者と共に魔王を打倒した千年以上生きる魔法使い・フリーレンと、彼女が新たに出会う人々の旅路が描かれていく。コミックスは累計発行部数1,000万部を突破し、そして2021年には「マンガ大賞2021」大賞、「第25回手塚治虫文化賞」の新生賞を受賞するなど、漫画ファンの間で旋風を起こしている本作が、いよいよTVアニメ化!

<あらすじ>
勇者ヒンメルたちと共に、10年に及ぶ冒険の末に魔王を打ち倒し、世界に平和をもたらした魔法使いフリーレン。千年以上生きるエルフである彼女は、ヒンメルたちと再会の約束をし、独り旅に出る。それから50年後、フリーレンはヒンメルのもとを訪ねるが、50年前と変わらぬ彼女に対し、ヒンメルは老い、人生は残りわずかだった。その後、死を迎えたヒンメルを目の当たりにし、これまで“人を知る”ことをしてこなかった自分を痛感し、それを悔いるフリーレンは、“人を知るため”の旅に出る。その旅路には、さまざまな人との出会い、さまざまな出来事が待っていた―。

【スタッフ】
原作:山田鐘人・アベツカサ(小学館「週刊少年サンデー」連載中)
監督:斎藤圭一郎
シリーズ構成:鈴木智尋
キャラクターデザイン・総作画監督:長澤礼子
コンセプトアート:吉岡誠子
魔物デザイン:原科大樹
アクションディレクター:岩澤亨
デザインワークス:簑島綾香/山﨑絵美/とだま。/長坂慶太/亀澤蘭 /松村佳子/高瀬丸
美術監督:高木佐和子
美術設定:杉山晋史
色彩設計:大野春恵
3DCGディレクター:廣住茂徳
撮影監督:伏原あかね
編集:木村佳史子
音響監督:はたしょう二
音楽:Evan Call
オープニングテーマ:「勇者」YOASOBI
エンディングテーマ:「Anytime Anywhere」milet
アニメーション制作:マッドハウス

【キャスト】
フリーレン:種﨑敦美
フェルン:市ノ瀬加那
シュタルク:小林千晃
ヒンメル:岡本信彦
ハイター:東地宏樹
アイゼン:上田燿司

●ライブ情報
■「YOASOBI ZEPP TOUR 2024 “POP OUT”」

1月25日(木) 東京・Zepp Haneda(TOKYO)
1月26日(金) 東京・Zepp Haneda(TOKYO)
2月1日(木) 北海道・Zepp Sapporo
2月2日(金) 北海道・Zepp Sapporo
2月8日(木) 神奈川・KT Zepp Yokohama
2月9日(金) 神奈川・KT Zepp Yokohama
2月15日(木) 福岡・Zepp Fukuoka
2月16日(金) 福岡・Zepp Fukuoka
2月22日(木) 大阪・Zepp Osaka Bayside
2月23日(金・祝) 大阪・Zepp Osaka Bayside
3月8日(金) 愛知・Zepp Nagoya
3月9日(土) 愛知・Zepp Nagoya

★3rd EP『THE BOOK 3』購入者 FC会員限定 CD封入最速先行抽選受付
受付期間:10月3日(火) 12:00~11月5日(日) 23:59
枚数制限:シリアルナンバー1件につき1申込み限り。 (1申込み2枚まで *2Fファミリー席に限り4枚まで)
アルバム予約はこちら:https://yoasobi.lnk.to/thebook3_CD

©山田鐘人・アベツカサ/小学館/「葬送のフリーレン」製作委員会

関連リンク
YOASOBI
公式サイト
https://www.yoasobi-music.jp/

公式X(旧Twitter)
https://twitter.com/YOASOBI_staff

TVアニメ『葬送のフリーレン』公式サイト
http://frieren-anime.jp