「そ、そんなぁ~、蛭子さん!」
思わずそう叫びたくなったのが、9月20日放送『ワイドナショー』(フジテレビ系)に出演した蛭子能収の発言だった。
この日の『ワイドナショー』の話題のひとつは、18日未明に成立した安保法案。
「松本人志さん(52)に対して、SMAPの中居正広さん(43)が「若い子が声を上げるのはいいことだと思う。僕はうれしかった」と反論する一幕もあった」
これまで本サイトでも松本の「安保法制反対は平和ボケ」「対案を出せ」などのトンチンカンな主張に中居が毅然と反論したことを報じたが、松本はこの毎日新聞での取り上げられ方にご不満なようで、「俺のそこを切り取るかね」と漏らし、続いて司会の東野幸治やゲストの古市憲寿、ヒロミがそれぞれコメントをしたのだが、最後に東野から「さあ、蛭子さん!」と振られた蛭子さんは、びっくりしたようにしばし困惑し、こんなことを発言したのだ。
「う~ん。こういう話になるとねだいたい芸能人とかはね、反対するほうの立場なんですよ。でも、松本さん、賛成って言ったのはビクッとした、勇気ある発言だなって」
なんと蛭子さんは「安保法案賛成」と取れる発言を繰り返す松本を「勇気ある」と礼讃したのだ。それだけではない。「蛭子さんは賛成なんですか?」との東野からの質問に、ちょっとはにかみながら「俺はわかんないんですよね、はっきり言って」と態度を濁す発言に始終したのだ。
おい、おい、である。これまで蛭子は戦争や安保法制に対し、さかんに発言してきた。
例えば、昨年6月24日の朝日新聞では、集団的自衛権についての取材を受け、戦争は断固として反対だとしてこんなコメントをしている。
「正直、難しいことはよく分かりませんが、報復されるだけなんじゃないですか。 『集団』っていう響きも嫌いですね。集団では個人の自由がなくなり、リーダーの命令を聞かないとたたかれる。自分で正しい判断ができなくなるでしょ。(略)手を出すと倍返しされ、互いにエスカレートして、ナイフを持ち出すことになりかねません。歯止めがかからなくなり、最後には死を想像してしまう。漫画ならいいけど、現実に起きてはいけない」
また、著書『ひとりぼっちを笑うな』(角川oneテーマ21)でも、「ここ最近の右翼的な動きは、とても怖い気がします。安倍首相は、おそらく中国と韓国を頭に入れた上で、それ(集団的自衛権)をとおそうとしているのでしょうけれど、僕はたとえどんな理由であれ、戦争は絶対にやってはいけないものだと強く思っています」と集団的自衛権反対を強く表明していた。
それなのに、なぜ一体──。
いや、しかしそれこそが蛭子さんの蛭子さんたる所以かもしれない。
しかも、空気を読まないとよく言われる蛭子さんだが、人と争うのはもっと嫌い。だから、すぐに長いものに巻かれてしまうし、テレビ番組では、あくまでヘラヘラと周囲に同調する。それが蛭子さん個人にとっての"平和"なのだろう。
だから、この発言もたんに、番組で一番の権力者である松本にテキトーにあわせただけで、まったく信用できない。『芸能界 蛭子目線』(竹書房)という本では、共演した有吉弘行を「必死」、坂上忍を「キャラ」と一刀両断したように、後になって松本批判をする可能性も大いにある。
しかし、松本はそうは思わなかったらしい。蛭子からの「勇気ある発言」を真に受けたのか、これまで安保など複雑な社会問題に対してはとぼけた笑いでやり過ごすのに、どこかご満悦な様子で、妙に自信たっぷりにこう続けたのだ。
「僕も賛成っていうか、日本が自立するための法案なら賛成なんですよ。ただ、アメリカに言われて泣く泣くやってる法案なら反対」
蛭子には是非とも、蛭子ならではの松本評を暴露してほしい。きっと、テレビとは違ったちょっと辛辣で自己中な蛭子節、もしかしたら平和への思いも聞けるかもしれない。
(林グンマ)