あの厚切りジェイソンが"日本スゴい番組"を批判して、炎上している。

 発言が飛び出したのは、2月19日放送『ボクらの時代』(フジテレビ)でのこと。

SHELLY、パトリック・ハーラン(パックン)との座談会のなかで、厚切りジェイソンは、外国人タレントとして仕事をするなかで感じるデメリットについて話を振られ、このように語った。

「本当はそんなにすごくない日本の文化に対して感動しないといけない場面とかが多い。こういう話していいかどうかわからないけれど、たとえば、日本がなんでスゴいかという番組のなかで、四季があるから、季節がいっぱいあるからという意味だったんですけど、アメリカにも季節は四つあるんだよね......。でも、と言ったら、もう全面カットだから『四季スゴいよねー』と言わないといけない。四季はどこでもあるよ!」

 この厚切りジェイソンの発言に、ネトウヨたちがヒステリーを起こしているのだ。

〈いちいち五月蠅えな、ハエ外人。気に入らないなら国へ帰れ〉〈文句があるなら日本から出て行け〉〈厚切りジェイソンって日本の文化にあだこだ言ってるけどあだこだいうくらいなら国に帰れよって毎回思う〉

 批判されると、すぐに「出て行け」攻撃を加えるネトウヨたちの排他性には毎度ながらうんざりさせられる。しかも、今回については、ジェイソンの言っていることのほうが明らかに正論だろう。いまテレビでは、『所さんのニッポンの出番』(TBS)、『世界が驚いた→ニッポン! スゴ~イデスネ!! 視察団』(テレビ朝日)、『YOUは何しに日本へ?』(テレビ東京)、『和風総本家』(テレビ大阪)──ゴールデンタイムにテレビをつけるとどこかしらのチャンネルで「日本スゴい」をテーマにした番組が毎日のように放送されている。

 だが、そこで紹介されている「日本スゴい」は、別に日本固有のものでも日本だけが優れているものでもなく、単に文化の違いだったり、無理やり自己慰撫のために「日本にしかない」ことにしている"愛国ポルノ"が大半なのだ。

 その典型が、ジェイソンも言っていた「日本には四季がある」というやつだ。改めていうまでもないが、四季は赤道近くや北極圏、南極圏以外なら、ほぼどこにでもある。
実際、この『ボクらの時代』でも、ジェイソンの発言を受けたSHELLYが「それ、外国の人はよく言うよね。(日本人は)四季を感動させたがるけど、世界中に四季はあるって」と同意していた。

 ところが、こうした発言に、ネトウヨからは〈でも四季の変化を愛でる文化は日本だけ〉なんて唖然とするような反論が出てくる始末。

 連中はヴィヴァルディの協奏曲「四季」を聴いたことがないのだろうか。西洋絵画には、ミレーをはじめ四季をモチーフにした絵画はたくさんあるし、日本でも使われる「青春・朱夏・白秋・玄冬」というのはもともと中国に由来するものだし、フィンランドのムーミンだって春の訪れをよろこび、短い夏を思いっきりたのしみ、秋になればスナフキンが南へと旅立ち、冬は冬眠したり雪とたわむれたり......季節の移ろいが描かれた文学や映画は世界中にいくらでもある。自分のプライドを満足させるために、どこの国にでもあるようなものを自分の国だけのようにがなり立てて、恥ずかしくないのか。

 最近よくもてはやされている「おもてなしの心」なんかも同様だ。どこの国にもそれぞれのもてなし方があるし、一方で日本には「郷に入れば郷に従え」などと自文化を強要する考えや、よそ者に対して排他的な面だってある。

 ちょっと冷静に考えればわかることだと思うが、そうした留保を許さずただひたすら日本を礼賛しなければいけない空気が、「日本スゴい」番組にはある。いや「日本スゴい」番組に限らず、情報バラエティやニュース番組にもそういう空気は流れている。

 そして、これらの番組ではスタジオにコメンテーターとして外国人タレントが招かれ、日本の文化風習についてコメントを求められるのがお決まりのパターンとなっている。

 こういった「日本スゴい」番組が跋扈する状況については、過去にも、モーリー・ロバートソンがこのように揶揄するツイートをしたことがある。


〈マスコミの「日本はすごい!」コンテンツは、むしろ制作費が底をついていることや、判断力が高い人達がテレビ・活字メディアから離れたことに関係しているかもしれません。ぼくにも往々にして「日本をほめる外人」枠で仕事が回ってきます。ギャラ激安で。〉

 確かに、彼が指摘する通り、「日本スゴい」番組の隆盛の背後には、メディアのコンテンツ力が劣化したというのもあるだろう。ただ、それ以上に大きいのは、日本社会が日増しに内向きになり右傾化していっているということだ。

 それは外国人タレントだけの問題ではない。日本人タレントでも日本批判めいたことを公の場で発言すれば、「反日」「在日は帰れ!」などといった中傷が殺到する。それどころか、外国のスポーツ選手を応援しただけで国賊扱いされる。

 少し前まではこんな状況ではなかった。1998年から2002年にかけてTBSで放送されていた『ここがヘンだよ日本人』をはじめ(この番組はこの番組で多数問題はあったが)、出演した外国人タレントが日本社会のネガティブな側面を指摘することは普通に行われていた。

 今回の『ボクらの時代』では、3人の娘をもつ厚切りジェイソンが、日本はいまだに女性が働きづらい国であることを指摘し、子育てについてこのように語るくだりがあった。

「アメリカの方がいいかなと思うときもありますし。
特に、女性ですから。女性は、日本はまだちょっと遅れてるかなという感じもありますけどね。キャリアをもちたければアメリカの方がいいと思います。そうすると、アメリカで成功するには、アメリカで教育を受けた方がいい。すると、早くアメリカに帰った方がいいかもしれないと思うときもある」

 こういった指摘は、当然常々なされるべきことだろうが、バラエティ番組、それこそ「日本スゴい」系のバラエティ番組のなかで語られれば、厚切りジェイソンが言うように、確実に「全面カット」になるだろう。また、もしも、そのままそのコメントが使われれば、放送直後からSNSは火だるまになること必至だ。

 もちろん自国のいいところをことさらアピールしたり、自国がいちばん好きと思ってしまう愛国的なメンタリティ自体は、日本に限ったことではなくどこの国にもあるものだ。しかし、この批判や異論を受け付けない姿勢は非常に危険だ。

 先日本サイトでも報じたが、アパグループの元谷外志雄代表によるユダヤ差別発言について、ジャパン・タイムズの取材に応じたユダヤ系団体の関係者のひとりは元谷氏とアパグループの思想を「元谷氏は日本の擁護者で、日本や日本人が他の世界の国々やその人々よりもすぐれていると考えているように思えます」(「The Jewish Federation of Edmonton」のCEO)と分析していた。

 自国に対する"無批判な"礼賛は、他民族や他文化を見下したり排除することや、蔑視や差別とも、根っこのところでつながっている。いまの日本の愛国ポルノブームも、右傾化・排外主義傾向と決して無関係ではない。

 内向きになっているからこそ、厚切りジェイソンのこのような批判にこそ価値があると思うのだが......。

(編集部)

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