秋元康、つんく♂、指原莉乃、後藤次利、近田春夫といったプロデューサー陣がアイドルグループをプロデュースし、オーディションで競い合う番組『ラストアイドル in AbemaTV』(6月10日放送回)で披露された楽曲が、現在一部で批判を浴びている。

 この番組では、秋元康がプロデュースするSomeday Somewhere、つんく♂がプロデュースするシュークリームロケッツ、指原莉乃がプロデュースするLove Cocchi、後藤次利がプロデュースするLaLuce、近田春夫がプロデュースするGood Tearsが、それぞれ自身のオリジナル楽曲を披露し合い、視聴者や審査員票によって選ばれた勝者のグループが、この秋以降発売予定のラストアイドルのシングル表題曲に選ばれる。



 そのなかで波紋を呼んだのは、近田春夫がプロデュースするGood Tearsによる楽曲「へえ、そーお?」。ベリーダンスの衣装と振り付けを取り入れ、「ヘソ出し」をコンセプトにしたものだから、「へえ、そーお?」というタイトルにしたという、思わず脱力してしまう解説の後に披露された楽曲では、ジョルジオ・モロダー風なエレクトロディスコのトラックに乗せてこのように歌われていた。

〈へぇ、そーお?あ、そう?うっそーお!偉そう このたこ!〉
〈おうちに戻っておみおつけで おっととい/顔洗って出直しなさいね あっ別チャン
〈じゃあジャンジャンジャンケンポイポイそっちの負けよ/あそこしばってもいーかしら?/HOOKだ、さぁ!〉
〈ドンキホーテがお似合いね へえそぉ?嘘ばっかついちゃイヤよ あそう/ドンキホーテのお願いね うそ 屁理屈ばっかいっちゃダメよ AB〉
〈ヤベー あべー、あっキレちゃんたらもう〉

 曲を聴かないと、一見無意味でシュールな歌詞のどこが批判されているか理解できないと思うので、無粋を承知で、敢えて捕捉をつけてみる。

〈へぇ、そーお?あ、そう(麻生)?うっそーお!偉そう このたこ!〉
〈おうちに戻っておみおつけで おっととい/顔洗って出直しなさいね あっ別チャン(安倍ちゃん)〉
〈じゃあジャンジャンジャンケンポイポイそっちの負けよ/あそこしばってもいーかしら?/HOOKだ(福田淳一前事務次官)、さぁ〉
〈ドンキホーテがお似合いね へえそぉ?嘘ばっかついちゃイヤよ あそう(麻生)/ドンキホーテのお願いね うそ 屁理屈ばっかいっちゃダメよ AB(安倍)〉
〈ヤベー あべー(安倍)、あっキレちゃん(昭恵ちゃん)たらもう〉

●「へえ、そーお?」が「反安倍ソング」「政治色つけるな」と批判される日本の言論状況のヤバさ

 このカラクリに気づいた人の一部から批判の声が出た。

〈近田春夫がGoodTearsに政治色を付けた
アイドルにこんな真似許される訳が無い。4人はこの歌を断る権利がある。偏った思想信条を歌わせる近田は即刻永久追放でお願いします。やっぱ近田は老害だったわ〉
〈ここまで露骨な歌詞をアイドルに歌わすのはちょっとひきますね・・・
Good Tearsはジョーカーを引いたと思う。いや番組が近田春夫というジョーカーを引いたのか〉
〈テロ朝から近田春夫に「ギャラが欲しけりゃ反安倍ソングを巧妙にアイドルに歌わせろ」ってオーダーしてるかも知れませんね(´-`).。oO(
アベガーソングにうんざりしますね(´・_・`)〉

 まるでとんでもない政権批判ソングを歌ったかのように捉えられているが、そこまでのものでもないだろう。おふざけのなかにサラッと社会風刺を入れるこの手法は、これまでの近田春夫の作品の延長線上にあるものだし、もっと言えば「オッペケペー節」をはじめ、日本文化のなかに古くから脈々と受け継がれているものの流れにあるともいえる。事実、近田春夫は番組のなかで「へえ、そーお?」について、このように解説している。

「歌詞の意味とかあんまないんですよ。
どっちかっていうと、(歌っていて)口が気持ちいいとか、なんかこう景気がつく『アラ、エッサッサー』みたいなそういうね。響きとか、口を動かしてなんか楽しいとか、そういうことを考えてつくったもんで」

 先に少し触れた通り、近田春夫という作家は、おふざけのなかに権力への揶揄など社会風刺を混ぜる作風を持ち味のひとつとしてきた。24時を過ぎたらクラブを閉めなくてはならないよう定める風営法を〈Hoo!Ei!Ho!は単なる嫌がらせに決まってるんだから/本気で怒っちゃ損する/ドアとか閉めとけきゃバレないさ バレないさ〉(「Hoo!Ei!Ho!」)と茶化したり、〈週刊誌のページも逃げ道だらけ〉〈本当のタブーに挑戦してみてよ/そしたら僕も応援するから〉(「MASS COMMUNICATION BREAKDOWN」)と、二枚舌を使い分けるマスコミを皮肉ったりしてきた。

「へえ、そーお?」に対して「歌詞の意味とかあんまないんですよ」と言うのは、さすがに照れ隠しのポーズな気がするが、いずれにせよ大枠では「コミックソング」の範疇に入るものだろう。皮肉や茶化しが主で、政治や思想はほとんど含まれてはいない。やりたい放題の政権を茶化すくらいのこと、それこそネトウヨや中立厨がよく言う「右でも左でもない」というやつだろう。

 しかし、2018年の閉塞した日本の言論状況では、「へえ、そーお?」程度のくすぐりですら、権力者への悪口は過剰な反応を呼び起こす。そのことがよくわかる象徴的な出来事であった。
(編集部)

編集部おすすめ