現在、若手のなかでひときわ熱い注目を浴びている女優、二階堂ふみ。NHK大河ドラマ『軍師官兵衛』では、豊臣秀吉から寵愛を受ける茶々(淀君)の"小悪魔ぶり"を表現し、映画でも『私の男』『渇き。
このように群を抜いた演技力でいまや引く手あまたの二階堂だが、一方で芸能界を代表する"サブカル女子"としても有名。セックス・ピストルズのジョン・ライドンをこよなく愛していたり、親交のあるOKAMOTO'Sのアルバムにコーラスとして参加するなど音楽にも明るく、さらにTwitterでオススメの本を尋ねられて、「室生犀星の『性に目覚める頃』今のところ1番好きです。」と答えたり、好きな作家に泉鏡花を挙げるなど、いちいち文化系のツボを押さえまくる"筋のよさ"に、サブカル男子&おじさんたちは歓喜。他方、現在通っている慶應義塾大学では「テニスの王子様サークル」に所属しているという腐女子的な一面も"幅の厚さ"を感じさせる。
そんな二階堂が新たに挑戦しているのが、小説の執筆だ。「小説新潮」(新潮社)10月号からスタートさせた連載では、なんと「毎回一冊の本を取り上げ、そこから触発されて生まれた物語」を綴っている。いわば"書評小説"ともいえるものだ。
なにせ、近親相姦というタブーを描いた桜庭一樹の『私の男』を中学生にして読み込んでいたという二階堂。しかも、出演した『脳男』の撮影中エピソードとして「みんな死ねって思ってました」と答えたり、インタビューで「もっと変態と仕事がしたい」「かくいう私も変態です」と言い出すなど、かわいいルックスに似合わぬ奔放な発言と毒舌で鳴らす彼女なだけあり、どんな刺激的な小説を描くのかと否が応でも期待は高まる。だが、掲載された小説は、そんな思惑を大きく裏切るものだった。
この連載第一回目で二階堂が取り上げたのは、長野まゆみの『団地で暮らそう!』(毎日新聞社)。
〈貴方のお隣の近藤さんに煮物のお礼をしにいこうかと『煮物の基礎』という本を買いました。最近「オレンジページ」が愛読書です〉
〈築四十七年の団地で、ベランダに遊びにくるハトに餌を撒きつつ、貴方の帰りを待つのも悪くないのかなと思ったのです〉
──長野の小説のほうは、青年の物語というよりも昭和の懐かしさが漂う団地への郷愁感が強いが、二階堂は架空の女性を主人公にして、新たな"団地小説"を描きつつ作品に呼応する。短い文字数のなかで、書評と短編小説を見事に融合させているのだ。
たしかに、二階堂のオフィシャルイメージから期待した辛辣さや刺激はないが、その文章力と発想力は目を見張るもの。インタビューでも「割と何気ない日常に喜びを覚えるタイプです」と答えていたこともあるように、彼女の演技力の源泉は、この短編小説にも顕著な"日常の細部を大事にする視点"にあるのかもしれない。
以前、Twitterで「不思議ちゃん・天然ちゃんイメージは脱却できたから、そろそろサブカルとかこじらせっていう類のイメージを脱却したいな☆」と表明していた二階堂。この短編連載は、そんな彼女の新しい一面、新たな才能を引き出すものになりそうだ。
(サニーうどん)