関西屈指の人口と産業を抱える兵庫県の財政に、厳しい現実が突き付けられています。今年8月には自治体の借金にあたる地方債の発行に国の許可が必要となる「起債許可団体」への移行が確実視されていますが、追い打ちをかけるように地方財政法に抵触する恐れのある前知事時代の不適切な会計処理までが明るみに出ました。
現在の急激な金利上昇を踏まえて最悪のシナリオを再試算した結果、2030年度には財政破綻の一歩手前を意味する「早期健全化団体」へと転落するおそれがあるというのです。
一体、兵庫県の財政に何が起きているのか、そして県民の暮らしや地域社会にはどのような影響が及ぶ可能性があるのか。
兵庫県の「持続可能な財政運営検討会」の会長を務める関西学院大学の上村敏之教授の見解を交えて、詳しく解説します。
震災復興の借金+金利状況で財政さらに厳しく…
兵庫県は阪神・淡路大震災の復興事業で膨大な借金があるうえ、金利上昇などで財政状況がさらに悪化しています。
こうした状況から、兵庫県はことし8月に新たな地方債の発行に国の許可が必要となる「起債許可団体」に移行することが確実となっています。
不適切会計処理が発覚 計算し直すと…
さらに、13日に開かれた有識者会議では、新たに用地取得のために借り入れた県債をめぐって、地方財政法に抵触する可能性がある不適切な会計処理があったことがわかりました。県によりますと、これを修正処理し、いまの金利などを踏まえて計算し直すと、2030年度に財政破綻の一歩手前である「早期健全化団体」に転落する可能性があるということです。
「数年間は厳しい行財政改革をやるということは避けられない。まずは公共事業の額に影響が出てくるということになるんじゃないかなと思います」(兵庫県・斎藤元彦知事)
県は財政状況を健全化するため、来年度から公共事業への投資予算を最低でも10%削減する方針を示していますが、もし財政が改善せず最悪の「破綻」となった場合、どうなってしまうのでしょうか。
「起債許可団体」になると…その財務的意味とは
兵庫県の財政の「ピンチ」を正しく理解するためには、国が定めている自治体の財政健全化を測る指標を知る必要があります。
自治体の財政状況は、国によって悪化の度合いが主に3段階で評価されています。
起債許可団体とは―地方債発行に国の許可必要
もっとも初期の段階が、自治体が自らの判断で借金(地方債の発行)をすることができず、国の許可が必要になる「起債許可団体」です。現在、全国でこれに該当しているのは北海道と新潟県のみ。
兵庫県は、自治体の収入に対する借金の割合を示す実質公債費比率が18%を超えた(3年平均)ことで移行が確実となっています。過去にも起債許可団体になり(2008年度-2013年度)、その際は公共事業を15%抑制することで健全化した経緯があります(2008年~10年間・兵庫県による)。
こうした状況は兵庫県の県政運営にどのような影響を与えるのでしょうか?上村教授は「『早期健全化団体』にならないために何ができるのかを考える段階」とした上で、「起債許可団体は地方債の発行に国の許可が必要ですが、財政運営が大きく制約を受けるものではなく、県政が完全に止まってしまうわけではない」としています。
「早期健全化団体」へ転落すると…
さらに兵庫県に追い打ちをかけているのが、前知事時代に行われていた不適切な会計処理の露呈です。
新たに用地取得のために借り入れた県債をめぐり、実質的に「借金を借金で返す」ような、地方財政法に抵触しかねない不適切な経理操作が行われていました。
このゆがんだ会計を是正し、現在の金利上昇傾向を加味して再計算を施した結果、最も最悪のシナリオの場合、2030年度以降に実質公債費率が25%を超え、財政破綻の手前とされる「早期健全化団体」へ転落する可能性が浮上したのです。
これを回避するためには、来年度から最低限20%の投資の削減が必要だということです。
仮にこの段階へ移行すれば、国による事実上の財政監視下におかれ、都道府県としては全国で初めてのケースに突入します。
「あってはならない」ガバナンスの欠如に対する専門家の厳しい視線
この不適切会計についても言及された有識者会議に出席した上村敏之教授は、県のチェック体制とガバナンスに対して極めて厳しい見方を示しています。
「第1回の検討会が5月の末で第2回が7月13日だったのですが、不適切な会計処理はこの間に発覚したのです。これは私も驚いたのですが、やはりあってはならない会計処理です」(関西学院大・上村敏之教授)
ただし、この会計処理については反省すべきものだとしつつ「この部分だけにこだわってしまうと未来志向にならない。今後何を行うべきかというところに注力すべき」との見方も示しました。
国の財政支援制度 阪神・淡路大震災当時に存在せず…
兵庫県がなぜ、これほどの重たい財政負担に苦しみ続けているのか。
その背景には、1995年の阪神・淡路大震災が発生した当時、国が被災自治体を直接財政的に救済する制度が日本に存在しなかったという歴史的事実があります。
「私有財産への公的補償はしない」という原則により、国からの十分な資金援助が得られない中、被災した当時の兵庫県は自力で街を復興させるという過酷な状況に置かれました。
この震災をきっかけに被災地を国全体で支える法整備が進み、後の東日本大震災や能登半島地震などでは国が直接支援を行う制度が確立されましたが、兵庫県はいわば「制度が整う前の期間」に被災したため、救済措置を受けることができませんでした。
31年が経過した今も県政の“重石”に
国による直接的な財政支援の枠組みがなかった結果、兵庫県では総額10兆円とも言われる莫大な被害総額の復興費用を、県と被災市町による「地方債(借金)」で調達せざるを得ませんでした。
県が負担した金額は実に2兆3000億円にのぼり、その大半を借金で賄ったことで、発生から31年が経過した今もなお、今年度時点で853億円もの震災関連債の残高が引き継がれています。
つまり、現在の兵庫県が直面している極めて厳しい財政状況には、復興の最前線で巨額の債務を背負い、それを今も返し続けているという構造的な重石が背景にあるのです。
兵庫県の「重石」処理して財政健全化できるか
この歴史的な経緯を考慮すれば、国が兵庫県に対して追加支援を行っても良いのではないかという意見もあります。しかし、上村教授は、国が今になって首を縦に振る見込みは極めて薄いのではないかと話します。
「阪神・淡路大震災の時と東日本大震災の時とでは大きく国の仕組みが違います。しかし、今となってはやはり、国はそこに対しては応じないかなと私は思っています」
兵庫県は自らの力でこの巨額の重石を処理しながら、財政健全化の道を切り拓くほかありません。
公共事業削減がもたらす県民生活へのリアルな影響と懸念
国からの救済が望めない中、財政再建を進めるにあたって、県民としては「暮らしのインフラの劣化」が懸念されます。
兵庫県は来年度から最低でも10%の投資的経費(公共事業)の削減を行う方針ですが、厳しい行財政改革を数年間継続することは避けがたい状況です。
公共事業の予算のカットが、老朽化が進む道路や水道管のメンテナンス遅延に直結するおそれはないのでしょうか。
有識者会議のメンバーでもある上村教授は以下のような見方を提起しています。
「13日の検討会においては、やはり10%程度の削減をしなければならないという話が出ました。ただし、単純に減らしてしまうと公共事業の規模が減ってしまうので、やはり国からの有利な財源や民間資金の活用など、県の支出がない形で、投資効率が落ちない形できっちり行っていかないといけないと思います」
投資の質と効率をこれまで以上に高めなければ、県民の安全が直接脅かされることになります。
2030年度の早期健全化団体への転落を回避するためには、金利上昇や経済状況を見据えた極めて緻密な舵取りが求められます。
上村教授は、今回の再試算について「金利をかなり高めに見積もった最悪のケース」と分析した上で、 「そうならないために何をすべきかということを考えないといけない。行財政改革が必要です」 と先行きを示します。
最悪の財政破綻シナリオを回避しつつ、県民生活を支える福祉や教育、プレミアム付きデジタル商品券のような地域経済刺激策などの行政サービスを守り抜くことができるのか。
いずれにせよ、兵庫県が地方債の発行に国の許可が必要となる「起債許可団体」に移行することは確実視されていて、対策は急務の状況であるといえます。
(2026年7月14日 MBSテレビ『よんチャンTV』より)

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