柴川淳一[郷土史家]

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「花咲舞が黙ってない」(日本テレビ)の第三話までを見た。池井戸潤・原作のイメージが活きていて面白い。
安心して見ていられる。劇中、花咲舞役の杏のせりふで、

 「私もテラーをしていたから(あなたの気持ちは)よく分かります。」

という一言があるが、これが良い。「杏は役者になる前は銀行員だったのか?」と錯覚してしまう。筆者の年金受給口座も東京第一銀行の支店に指定換えしようと思ってしまう。(もちろん、東京第一銀行は架空の金融機関なので無理なのだが)

「テラー」とは金融機関の窓口担当者を指すが、「テラーは銀行の顔」、「テラーは銀行の花」とも言われる。腕も度胸も必要で、接客も業務知識も支店ではトップの人が担当するのが普通である。

さて、このドラマを見て、元銀行員であった筆者としては、黙っていられない一点目。

第二話で東京第一銀行五反田支店が近隣のスーパー二社に同時に融資していると言う設定。そもそも、近隣で営業している同業種企業に同時期融資することは、企業の共倒れや一方の弱体化につながるリスクがあるため、絶対にしてはいけない。クレジットポリシーで禁止しているのでないか?しかし、ドラマの設定としてはこれ以外の方法はなかったのかなとも思う。

黙っていられない二点目。

第三話の冒頭で相馬が「現金その場限り」というバンカーの基本を口にする。
支店で三百万円の違算(現金紛失事故)が発生する。臨店班も協力して支店全員で消えた現金の探索と事故原因を調査するが分からない。顧客に過払いしていないとの事で行員の持ち物検査をしても分からない。

結果、支店長は行員を全員帰宅させてしまう。これはおかしい。消えた現金の情報や解決のヒントは、ますます遠ざかってしまう。しかし、これもドラマの進行上、止むを得ない気がする。

黙っていられない三点目。

第三話の後半で(現金事故の翌日)支店のベテランテラーが本部臨店班の花咲舞に向かって「現金不足はどのように処理をしましたか?」と訊ねる。まるで他人事のようだ。ありえない。

これに対して舞が「仮払い処理をしました。」と答える。
紛失した現金は支店勘定であるから本部の者が「現金不足はどう処理したか?」と問いかけて支店長(営業店側の責任者)が「仮払い処理にしました。」と報告するのが筋だ。しかし、これも視聴者に説明しているだけだから誰に言わせても許容範囲だろう。

些末なことをいちいち、あげつらっているとせっかくのドラマが面白くない。原作との相違点もいちいち気にするまい。

ドラマはドラマ、小説は小説の楽しみ方がある。それにしても杏演じる花咲舞は屈託がない。はまり役と言って良いだろう。知人の銀行役員は「あんなテラーが当行にも欲しい。」と話していた。

花咲舞(杏)は筆者が見たところ、フィクション、リアルを問わず最高の「テラー」である。第四話以降にも期待したい。

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