時田秀一(本誌ライター)

***

美容医療がかつてないほどの広がりを見せている。若年層の低年齢化に加え、中年層のメンテナンス目的の定期的な通院が一般化している。
さらには言えば、男性の美容医療利用も珍しくないという現状だ。

一方で、美容医療におけるクオリオティについて、メディアで話題になることも多くなった。甘い謳い文句に釣られてトラブルを起こすケースは、美容医療市場の拡大が、そのまま玉石混合になっていることも意味しているのかもしれない。

もちろん、SNS などを通じた口コミで、消費者の目も肥え、評価は厳しい。「安い!早い!」といった売り出し方で中身がないようでは、絶対に長期的な患者確保にはつながらない。美容医療の拡大とは裏腹に、クリニックの倒産件数は、毎年最高を更新しているのが実態だ。

そう言った状況下では、ユニークなCMで話題を集めている美容医療クリニックが、AND medical groupだ。

同グループが先日リリースした新CMでは、競合他社に多く見られる「安さ」や「効果」の訴求をあえて封印し、「安心の三原則」と「スタッフの誓い」という独自のキャッチコピーとメッセージで構成された異例のクリエイティブだ。「今なら税込9800円!」といったSNS美容広告が跋扈している今、CMのあり方へのアンサーなのかもしれない。

今回は、AND medical groupの代表理事・草野正臣氏に、新CMに込めたメッセージと、今後の業界展望について詳しく話を伺った。

***

(以下、インタビュー)

<AND medical group・草野正臣代表に聞く>価...の画像はこちら >>

<社会課題化するトラブルと、新CMの背景>

インタビュアー 時田秀一(本誌ライター・以下、時田):年末から年明けにかけて、私はタクシー広告でAND medical groupの新CMを拝見しました。『安心の三原則』篇と『スタッフの誓い』篇という2つのバージョンが公開されていますが、最近の美容広告とはかなり路線の違う印象です。
今回の新しいCMを制作された目的について聞かせてください。

AND medical group代表・草野正臣氏(以下、草野氏):ありがとうございます。今回の新CM制作の背景には、美容医療業界全体を取り巻くイメージへの危機感があります。現在、美容医療はメディアでも存在感が大きくなり、裾野が広がっていますが、同時にネガティブなニュースも目立つようになりました。

時田:高額請求に関する消費者センターへの問い合わせが一年で倍増したなど、社会的に厳しい関心も集まっている印象です。

草野氏:業界全体のイメージが下がりかねない状況の中で、我々AND medical groupは「不誠実な医療とは明確に違う」ということを対内外へ伝える必要があると考えました。我々は全国で40近くの拠点を展開する規模に成長しており、業界を代表する立場として、正しい取り組みを示したいというブランディングの意図が根底にあります。

時田:社会課題となっている課題に対するアンサーという側面としてのCMですか。他社のCMを拝見していると、やはり「金額の安さ」や「各施術の具体的な効果」への訴求が多い印象を受けます。消費者にとって価格や効果は重要な情報だと思うのですが、今回のCMではそういった内容に一切触れていません。この点にはどのような理由があるのでしょうか。

草野氏:おっしゃる通り、価格や効果の訴求を重視するのは、この業界では一般的ですし、患者様にとっても重要です。
しかし、公的機関からの指摘事項にもあるように、強引なアップセルやアフターフォローの不備等が、今業界で問われている部分です。だからこそ、我々はあえてメニューや価格を謳うのではなく、「強引なアップセルを行わない」「充実したアフターフォロー」「一人ひとりに寄り添う安心できる医療」という『安心の三原則』を改めて明示しました。これは、我々の遵守姿勢を患者様にわかりやすくお約束し、また我々の従業員の皆様にも再認識頂くことで、全てのステークホルダーの信頼を醸成するためのものです。

<ターゲットに合わせた媒体選定と、顔の見える広告の力>

時田:今回のCMは、主にタクシー広告として展開されていると伺いました。これまで主戦場だったWeb広告やSNSからタクシーという媒体へとシフトさせた理由は何かあるのでしょうか?

草野氏:大きく2つの理由があります。1つは、広告の開始時を12月半ばからの忘年会・年末シーズンという、タクシーの利用者が非常に多くなる繁忙期に合わせていた点です。露出効率を最大限に高めたいという狙いがありました。そして、もう1つは、ターゲット層との適合です。タクシーを利用される方は、年齢層がやや高めで購買意欲が高い方が多い傾向にあります。したがって、我々の提供する美容医療に興味を持っていただけるターゲット層と重なるため、費用対効果が見込める媒体としてタクシーを優先的に採用しました。実際、開始当日の朝から経営者仲間から「タクシーで見たよ」という連絡をたくさんいただき、広範な訴求ができている手応えを感じています。

時田:もう一つの『スタッフの誓い』篇についてもお伺いします。
こちらは、草野代表をはじめ、実際のドクターやナース、受付カウンセラーの方々からの言葉で構成されています。出演者もプロのモデルやタレントではなく、実在のスタッフで構成する方法を採用されていますが、その狙い何でしょうか。

草野氏:患者様が美容医療において最も重視し、同時に不安に感じるのは「誰が自分を担当し、どんな人が対応してくれるのか」という点です。ですから、作られたイメージ映像ではなく、現場で実際に働いている実在の人物の顔を見せることが、一番の安心感と信頼につながると考えました。 顔が見えるコミュニケーションを重視し、ブランドの誠実さを直接訴求したかったのです。私自身、カメラの前で意図したことが十分に伝わっているか不安に思う部分もありましたが、他社の事例も参考にしながら、顔の見える形で継続的に発信していく重要性を再認識しています。

<季節ごとの最適な訴求と、ブランディングがもたらす社内への波及>

時田:年間を通じた広告戦略という観点では、商品訴求とブランディングをどのように使い分けられているのでしょうか。

草野氏:私たちも、決して商品訴求を否定しているわけではありません。たとえば春から夏にかけての繁忙期には、痩身プログラムなど価格やメニューに特化したCMを展開しています。 一方で、当グループの主力メニューにおいては冬場は比較的閑散期にあたります。この時期に無理に商品を訴求するよりも、グループ全体の理念や姿勢を知っていただくためのブランディングに注力するほうが効果的であると判断しました。季節に応じた最適な投資配分を行っているのです。


時田:そうした対外的なブランディングの強化は、社内でも影響を与えているのでしょうか。

草野氏:はい、非常に大きな波及効果があります。時期を問わず定期的にブランディング広告を実施することは、患者様へのリーチ拡大だけでなく、社内で働くスタッフのモチベーション向上にも直結します。自分たちのクリニックが社会に対してどのような約束をしているのかを再確認し、影響力の大きさを実感することで誇りを持って働けるようになります。
さらに、現在多くのクリニックが医師や看護師の採用難に直面していますが、我々のクリーンな姿勢を周知することは、採用面でも強力なプラスの効果をもたらすと期待しています。

時田:現在、美容医療業界には多様な特徴を持つクリニック、ユニークなアピールを展開するクリニックが多数存在しています。いわば、多種多様な強敵たちが渦巻いているという状態です。そんな中で、AND medical groupの強みや業界内での立ち位置をどのように捉えていますか?

草野氏:「一部位いくら」という単発販売を主としたり、若年層向けの低価格帯プランを豊富に揃えるのではなく、我々は「特定のニーズを持つ患者様に対する専門性・希少性の高さ」と「オーダーメイド処方」に力を入れています。 たとえば痩身の分野では、従来の脂肪冷却等に加え国内初導入の脂肪溶解注射などを組み合わせたパッケージプランを提供し、結果に対するコミット力を強みとしています。透明性の高い料金提示や、手厚いアフターケアが、SNS上でも「信頼できる」と評価していただいています。

時田:美容医療業界全体をどうしていきたいのか。今後の展望を聞かせてください。


草野氏:美容医療に対するハードルが下がり、市場の裾野が広がっている中、我々も健全化に向けたリーダーシップをとるべきだと考えています。今後は全国どこにいても質の高い美容医療にアクセスできる環境を作るという目標に向け、今後も「美しくなる権利」を全ての人に届けるための挑戦を続けてまいります。

(以上、インタビュー)

***

美容医療が「特別なもの」から「日常のケア」へと大衆化し、若年層からシニア層まで幅広い世代がクリニックを利用する時代になった。こうした中で、美容業界内でも、大手、準大手の一角を担うと言われているAND medical groupのようなクリニックが、単なる企業のPRを超えた、業界全体の健全化に向けたCM展開を進めていることには、社会的にも大きな意味があるといえるだろう。

本誌では、草野代表へのインタビューをこれまでも紹介してきたが、その私の経験からは、自社の利益だけでなく、美容医療業界全体の社会的信頼を引き上げに腐心する姿勢は、むしろ消費者にとっては、クリニック選びの判断基準の重要な柱になっているようにも思う。

「安い!早い!」といった謳い文句よりも、ブランディングとしてははるかに成功しているという印象だ。「初めての美容医療で不安がある」「丁寧なカウンセリングと確実なアフターフォローを求めたい」と考えているような初心者であれば、AND medical groupが醸すこの安心感はかなりプライオリティが高いと言えるだろう。

本誌は今後も、変革期を迎えた美容医療業界の最前線を取材し、読者が納得して選択するための正しい情報を発信し続けていく。
編集部おすすめ