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前回、前々回と、テレビ番組のプロデューサーとして筆者が体験し、驚かされた(?)「ビートたけし」のエピソードについて書きてきた。今回は全三回となる「ビートたけし論」のいよいよ最終回。
今回のエピソードの舞台は前回の記事と同じく、15年ほど前の「番組対抗スペシャル」という番組収録時でのことである。
実はこの番組収録の1年前に、たけしさんは、四谷の権田原でバイク事故を起こし頭部に大変な外傷を負っていた。誰もが復帰を危うんだが、奇跡の治療と本人の気力で比較的短期間に現場復帰することが出来た。
しかし、その顔面は歪み、芸人としての将来を危ぶむ関係者もいた。そのたけしが「番組対抗スペシャル」に出る。不可能だろうと思った。他の番組には出演していないし、入手した情報によるとまだ顔面の半分が大きく腫れているそうだ。
でもこの番組にビートたけしがでれば、話題沸騰だろし、番組的にはオイシイと担当プロデューサーは考えた。たけしさんは義理堅い。出演を了承してくれたのだ。
スペシャルゲストという扱いでたけしさんを衝立(ついたて)で隠し、他のタレントが「誰が来ているのか?」を当てるというもの。当日たけしさんが現れる。
「この状態でテレビに出るのか?」
正直、筆者はそんな思いを持った。
ADが出番を告げる。登場口に立つ。たけしさんは淡々としている。カーテンが開きゲストがたけしであることが200人の観客に分かる。笑いは一切ない。一瞬の間の後、拍手が。
たけしは椅子に座り、らくだのモモヒキを下し、ブリーフ一丁になる。一笑い、二笑い。たけしは覚悟を決めたように無表情だ。
クイズのVTRが始まる。
一流の芸人というのは自分を客観視できる。超一流ともなれば、客席の観客ばかりでなく、ブラウン管の前の視聴者やスクリーンの向こうの観客の気持ちまで分かってしまう。
あの時のたけしさんが自分の顔面を見せて「視聴者含め、みんながどう思うか?」を理解していなかった訳はない。すると「義理で出演した」ということもあるが、何か腹を括った上での出演という気がしてならない。
あの時、あのまま隠れるようにして舞台から逃げ続けていたら復帰は遠のくし、「ありのままのオイラを見てもらってもいい」と判断したのかもしれない。
「オイラは今日から始めるよ」という不敵な宣言だったのかもしれない。現在、我々は「平和にビートたけしを楽しんでいる」が、あの出演の後、顔面が治らなかったら・・・と考えるとビートたけしのあの時の胆の座り方がわかる。
ビートたけしの死生観・芸に対する凄まじい考え方を見た・・・と言ったら大げさだろうか。
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