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「The Art Of McCartney」が昨年2014年12月に発売されました。ポール・マッカートニーへのトリビュートアルバムです。
タイトルの「The Art Of McCartney」 は「ポールの芸術」と訳すよりは、「ポールの技」と訳したくなるようなポールの技が詰まった素敵なアルバムではないでしょうか。二枚組CDで34曲。(日本版は基本34曲にボーナストラック1曲、 色々なフォーマットでバーナストラック、DVDのつきかたなど色々なversionあるようですが)いずれも耳に馴染んだ名曲ばかりです。
井上陽水が「I WILL」で日本版に参加していることでスポーツ新聞などでも昨年末に話題になっていました。
参加アーティストは以下。
・50年代組:BBキング、スモーキー・ロビンソン
・60年代組:ボブディラン、ブライアン・ウィルソン(ビーチボーイズ)、ロジャー•ダルトリー(ザ・フー)、バリー・ギブ(ビー・ジーズ)
・70年代組:ビリー・ジョエル、クリッシー・ハインド(プリテンダーズ)、KISS、ポールロジャーズ(フリー)
・80年代組:ロビン・ザンダーとリック・ニールセン(チープトリック)、サミー•ヘイガー(ヴァンヘイレン)
これらに加え、79年生まれのコリーヌ・ベイリー・レイ、ジェイミーカラム、86年生まれのアウルシティーとロックの殿堂入りの人たちから若手中堅までという錚々たるメンバーです。
個人的には故ジョージ・ハリソンの仲間で、彼を「クラウドナイン」で再生させた辣腕プロデューサーのジェフ・リンがこのプロジェクトに参加していて、なおかつ「ジャンク」を歌っていることには感動しました。この曲は、インド帰りのポールがジョージの自宅でデモを録音したとされています。同じジョージの友達エリック・クラプトンがいないのが、やはりというか面白い感じです。
コンサートに行った時の格言で「知っている曲が良い曲だ」と言いまくった時期がありました。お分かりになると思います。ライブの最中知っている曲をやって貰うと「ホッ」として嬉しくなるんです。
ポールのライブはたとえそれが3時間の公演でもセットリストはヒットパレードです。そんな歌手は世界にもいないと思います。ブリティッシュ・インヴェイジョン(1960年から80年代の一時期に集中的に数々のイギリスのアーティストが世界中でヒットし、ブームを巻き起こした現象)以来、ポピュラー音楽が国際化してからの最大のヒット歌手であることは間違いありません。たくさんヒット曲がある人でも、多くの場合、自分のライブでヒット曲ばかりやるのは避けるものです。
つまり、「過去の自分ではない今を聴いて」という姿勢のミュージシャンは多いと思います。アンコールでお待たせ名曲なんてよくありますよね。今のツアーはニューアルバムのプロモーション的な要素が大きいので余計にその傾向は強いように思います。
しかし、ポールの場合はヒット曲しかありません。
ローリングストーンズとダイアナロスもそうなのかも知れませんが、それでもポールほどの一般性はないと思います。2000年以降のポールのワールドツアーはその伝説をより強固にしています。
なお且つ、セットリストにバラエティをと思っても、過去のキャリアから加えてもそれはビートルズの曲でしかなく、ポールのソロ以上に、もっとポピュラーになってしまいます。
「聞いたことがない持ち歌は新曲だけ」という、どうやってもセットリストがヒットパレードにしかならない稀有なアーティストなポール・マッカートニーなのです。彼の音楽キャリアは半世紀以上、全て衆人の目の前に晒されてきたのです。逆に考えれば、ポールは、それに耐えられたアーティストと言うことなのでしょう。
お正月明けのNHKラジオ「すっぴん」でダイアモンド⭐︎ユカイ氏がこのアルバムの中から、ビリー・ジョエルが歌う「007死ぬのは奴らだLive and Let Die」をかけていた時のことです。曲終わりでユカイ氏の番組アンカーの女性の間で次のようなやりとりがされていました。
ダイアモンド⭐︎ユカイ氏「そっくりでしょ」
アンカーの女性「ええ、ビリー・ジョエルだったんですね」
その通り、サビの最後で「live and let die ~」と声を伸ばすところで、ビリー・ジョエルのしわがれ声が出るところ以外は、ポールの別バージョンと言われても納得したかもしれないほどの出来になっていたからです。
多くの曲が、アレンジがカヴァーなのに同じ風。メロディラインだけではなくイントロ間奏のリフも同じで、ヴォーカルの声質以外にはオリジナルとそんなには離れていません。
そういった現象をみると、筆者としては、
「ポール・マッカートニーの歌はアレンジ不可能なのではないか?」
という仮説まで考えてしまいます。稀代のメロディーメイカーの作るメロディラインは変えられず、なのではないか、と。編曲しても、あまりに印象的なメロディやリフは目立ち過ぎてしまうのではないか。「ジェット」や「バンド・オン・ザ・ラン」がどう加工しようが変わらないのはわかるのですが、同じように「ドライブマイカー」や「ヘルタースケルター」も別な曲にならないのです。
しかし、別の考えも浮かびました。ビートルズの曲は、ポール以上に様々なナーティストに、もっとカヴァーされています。その中には原曲の良さを生かしながらさらに異なる魅力を付け加えているものも少なくありません。ヴァニラファッジの「涙の乗車券Ticket to ride」はカヴァーであると同時に「解釈」でしょう。
では、どうしてこのポールのアルバムは原曲を大きく壊さず皆歌ったり演奏するのでしょうか。
その答えは、「どのアーティストも自分の好きな曲をカヴァーしているから」という部分にあるように思います。ビリー・ジョエルなど、自身のライブの時のサウンドチェックにはいつも「007死ぬのは奴らだ」を使っていると言われています。「大きな声を出せる曲だから」と愛唱歌ぶりを語っています。
おそらく参加アーティストはポールへのリスペクトから、オマージュの意味を込めて「解釈」せずに「コピー」で歌っているのではないでしょうか。
しか、しいずれにしろビリージョエルの「Live and Let Die~~ ~♫」の嗄れ声を聞くだけでもれだけのアーティストのポールに対するリスペクトが分かります。良い歌と良い声はどう組み合わせても心地よいものです。お薦めです。
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