認知症を病気ではないと認識してほしい
まず認知症の診断時およびその後に受けた医療機関における説明または提供された情報についてです。
認知症の診断時には病名や治療薬について説明が多くあります。
認知症と診断できるのは医師しかいないので仕方ないことではありますが、言い換えれば、認知症は病気であるという間違った認識がここで生まれてくると思われます。
診断することは良いとしても、多くの医師は認知症が病気ではないことに早く気つくべきだと私は考えています。決して治るわけではない認知症について、介護する家族に対して病気であることや治るかのように薬の話をするのは慎んでほしいと思います。
認知症が病気として捉えられている現状は介護や福祉の領域で解決すべき問題と認識し、家族と話ができる医師が1人でも多くなることを願います。
専門職と会話する時間が大切
次に家族の認知症に対する相談についてです。認知症介護をしている家族はケアマネージャーを筆頭に、さまざまな人に相談していることがわかりました。
その一方、数としては少ないものの、誰にも相談しなかった人がいることに驚きました。調査で寄せられた回答を確認すると「家族が認知症であることを知られることに抵抗があった」という人や、「認知症に対する偏見がありそうだから」と考えている人がいました。
知られたくないという思いや罪悪感があるのは、まだまだ認知症に負のイメージがついているからでしょう。また、どこに行けば良いかわからなかったという回答もありましたが、急に介護が必要となった場合はわからないのも無理はありません。
認知症に対する誤った認識は正しい知識を広めることで解消しますが、ほかの理由もみてみると、専門職と呼ばれる立場で仕事をしている私にとって看過できないものもありました。
それが、「相談して良かった経験がなかった」「親身になってもらえなかった」ということです。
具体的な内容までは書かれていなかったので問題点はわかりませんが、同調査で明らかにされている「相談相手に求めていること」が参考になるかもしれません。
相談相手に求めることとして多かった回答は、「日常生活についての助言や接し方」「今後の見通し」についてでした。そんな中で私は時間的な問題が大きく関係しているのではないかと思います。
というのも、私の経験上、認知症介護をしている家族は問題に対する答えを求めている以上に、介護についての話を聞いてほしいのだと思います。
身近な相談相手である専門職が話を聞いてくれないというように思うかもしれませんが、誤解のないようにいえば、専門職の人たちも私の知る限り話を聞きたくないというわけではありません。家族からの相談を受ける時間的な余裕がないほど仕事が多くあるのが現実です。
ただ、家族は専門職の現状がわかっていないため、ケアマネージャーのことを「ハンコを押しに来るだけでよくわからない人」と揶揄するのをよく耳にします。
1人のケアマネージャーが複数の方を担当しないと経営的に成り立たない仕組み(制度)になっているため、家族と話をする時間が設けられないことも多々あるでしょう。
介護業界の制度を変えていかない限りは、家族と専門職の間にある溝は埋まらないような気がします。

最後は「周り(家族・専門職など)の人にお願いしたいこと」の自由記述にも注目しました。
男性と女性に違いが見られた興味深い内容で、男性は認知症特効薬など科学の発展による認知症治療に関する回答、女性は感情的な寄り添いを多く求めているという回答が寄せられました。
介護をしている家族への支援は、一律で決めることではなく困っておられる方一人ひとりの思いを早いうちに見極めることが求められているのだと思います。