介護保険制度は、常時介護を必要とする状態(要介護状態)や、家事や身支度等の日常生活に支援が必要な状態(要支援状態)になった場合に、介護サービスを受けられるという制度です。そのため、介護保険制度によるサービスの利用を希望する場合、必ず介護認定を受ける必要があり、それにより要介護状態や要支援状態にあると認定される必要があります
「介護認定」とは、介護サービスの必要度(どれ位、介護のサービスを行う必要があるか)を判断するものです。
ところが、中にはその認定調査を受けることを拒否される方がおられ、ご家族を困らせることがあります。そこで今回はそんなご家族に向けて、対処のヒントとなるアドバイスをしたいと思います。
調査を拒否されたら「うそも方便」
調査を拒否される方の多くは認知症のケースです。ただ、そこで誤解しないでほしいのは、調査拒否のほとんどは認知症に起因しないということです。
よく考えてみましょう。調査はサービスを受けるために必要ですが、そのサービスを受けたいと自ら考えている認知症の方はどれだけいるでしょうか。
つまり、サービスを受ける必要性を感じていない方に、サービスを受けるために必要だと説明をしても無意味であるということを前提に考える必要があるのです。
では、どうすれば良いでしょうか。
認知症の方への対応として共通して言えることですが、私は「うそも方便」だと思います。「市が65歳以上の人の体の状態を調べるために回っているみたい」などと、軽く捉えられるようなうそを考えておくと良いでしょう。
うそをつくなんて、と躊躇される人もるかもしれませんが、長い目で考えると、認知症の方と家族の双方にとって穏やかでいられる方法になります。
そして、忘れてはならないのが、認知症の方に伝えた内容を調査に来る方と共有しておくことです。後にも書きますが、調査をされる調査員の方には実にさまざまな人がいます。
調査員の力量不足が招く拒否
調査員が来ることを受け入れていたにもかかわらず、調査が始まってから突然拒否される方もいます。この場合は、調査員側に原因があることがほとんどです。
私が認知症グループホームの職員として働いていたときに来た調査員がその典型的な人でした。
彼女は、入居者のAさんを怒らせてしまったのです。怒るまでは予想しなかったことですが、立ち会っていた私はAさんが怒りたくなる気持ちもわからなくはないと思いました。
認定調査の項目は実に74にもなるのですがが、それを一つひとつ堅苦しく聞いて、非常に多くの時間を費やしたのです。初めは何事もなく答えていたAさんでしたが、途中で「まだあるんか」と大きな声を出し、その後の調査を拒否され、私が代わりに回答することとなりました。
サービスを利用するための調査ゆえきっちりしないといけないことはわかりますが、問題は聞き方にあるのです。
私はこれまで何人もの方の調査に立ち会ってきました。そして、調査員の聞き方の力量により、拒否が起こるケースを目の当たりにしてきました。調査の内容は一般的なことからデリケートなものまであり、それを一つひとつ聞かれると、認知症ではない私であっても、さながら尋問のように感じてしまいます。
ましてやAさんは認知症ですから、なおそう感じたのだと推測できます。私の知り合いで調査員の仕事もしているケアマネージャーの人は「見たり会話の中で聞いたりすることでわかることがいくつもあるので、できるだけ負担のない方法で調査をすることが大切だ」と言っていました。
もしも、不幸にも「良くない調査員に当たった」と感じたら、その時点で中止してもらうことも良いかと思います。「今日は本人の調子が悪いみたいで」と、うそをついてもかまいません。
「普段の本人の様子なら私もよく知っているので代わりに回答します」と伝えると良いでしょう。意思疎通が困難な人の調査の場合、回答のほとんどを家族がすることになるので何ら問題はないのです。
認知症の方の要介護認定調査は、うまくいかないことも多々あります。なるべく認知症の方が受け入れられやすいよう、時にはうそをつくことも選択肢の一つとして考えましょう。