認知症の方は、時に怒鳴ったり暴れたりすることがあります。
在宅で介護されている方にとっては大きな悩みで、身体的・精神的な負担にもなります。
地域包括支援センターにもそのようなお悩みが寄せられることが多く、これまでさまざまなケースに対応してきました。
今回は私の経験をもとに対処法を考えていきます。
まずは認知症の原因を特定しよう
認知症の方は言語の理解や表現力が低下し、自分自身の想いを他者にスムーズに伝えられなくなっていることがあります。自分の想いがうまく伝わらないことへの苛立ちから暴れてしまう方もいることでしょう。
こうした状況になると同居の家族や周辺住民はその対応に苦慮します。
特にアルツハイマー病による妄想やレビー小体型認知症による幻視幻聴を伴う症状、また前頭葉の変容で反社会的な言動が顕著となるピック病などを発症している場合は専門職でも対応に苦慮します。
もの盗られ妄想で「財布を嫁が盗んだ」と訴える、早朝や深夜に「家の中に誰かがいる」と近隣住民宅を訪問する、バールと縄を持って地域をうろうろしている、認知症状を発症した夫から暴力を振るわれたといった相談を受けることは珍しいことではありません。
このようなケースにおいて地域包括支援センターでは、次のような対応をします。
特に専門医につなげて正確な診断を受けることは非常に大切です。
同じ認知症でもアルツハイマー型なのかレビー小体型なのか、ピック病であるかによって処方される薬が違ってくるほか、異なった薬を服用させていると、より症状が悪化することもあるからです。
そのため、できるだけ専門医の診療を受けることが大切だと考えています。妄想、幻視幻聴、暴力といった周辺症状は周囲の支援やかかわりだけで解決するのは難しいからです。
福祉サービスを利用して少しでも負担を軽減
しかし、薬を飲んだからといって劇的に暴れることや同じことを何度も言うといった症状がすぐに治まるわけではありません。
また、せっかく処方された薬も本人の拒否や家族の介護力によっては服用できないケースも良くあることなのです。
でも、それでは認知症状に苦しむご家族や地域住民の状況は何も変わりません。
そこで医療と同時並行して福祉サービスを適切に使用することをおすすめします。
例えば、デイサービスを利用することで生活にリズムをつけます。食事や他者とのコミュニケーションをとる時間を増やすとともに、専門職の介護やヘルパー、訪問看護サービスを利用することで服薬の支援が受けられます。
このようなサービスを利用することは、認知症を治すというより、進行を緩やかにすることや同居家族への心身の負担軽減の側面が大きいですが、結果的にご本人にとっても良い効果をもたらすことが多いのです。
福祉サービスの利用でも症状が緩和しないときには、周辺住民に理解をいただくことも大切になります。徘徊時の発見を早める体制整備、警察や保健所と情報共有をして、症状が悪化した際に備える対応をしておきましょう。
家族だけで認知症の方を見守るのは大変な苦労が伴います。認知症であることを隠すのではなく、周囲に理解を求めていざというときに備えることが必要なのです。
想像力を働かせて認知症の方の気持ちを考えよう
しかしこうした試みも認知症の方の症状を直接緩和するものではありません。
ご家族が直接的に困っているのは同じことを何度も言い続けることや、ときに暴れることだと思います。
では、そのような際にはどう対応するべきなのでしょうか。
認知症の方と接するうえで援助者が豊かなイマジネーションを持っているか否かはとても大切になってきます。
理不尽に暴れていると認識するのではなく、なぜ不可解な言動をするのかを解明しようという姿勢や想像力が、介護者と要介護者双方に良い関係性をもたらすことがあります。
想像してみてください。
記憶が曖昧となり、ちょっと前に起こったことを記憶することができなくなっている方の不安。妄想、幻視、幻覚に対して一生懸命に不安を解消しようとあがいているときの気持ち。
認知症状に苦しんでいる方は、自身の心身状況の衰え、誰にも理解してもらえない妄想、幻覚、幻視とひとり戦っているのです。
自身の理解力が低下する中、誰にも 伝わらない不安と戦う、そんな心情をわかろうとする想像力が必要です。
認知症や知的障がいを持つ方は、時に同じことを何度も繰り返して話します。なぜ同じことを言い続けるのでしょうか?
こういった場面に直面したとき、まずは想像力をめぐらしてみましょう。
こういった視点から、認知症の方が話していることをもう一度聞いてみてください。
理解力が低下している方は、自身の不安を低減するために一生懸命同じことを繰り返します。
だから自身の気持ちが楽になる、不安が低減する言動が投げかけられるまで延々と同じことを言い続ける傾向があるのです。
周囲の人は「少しでも気持ちが楽になるように声をかけよう」という気持ちで対応することが大切なのです。
また、不安や興奮がピークに達して、突然怒鳴ったり暴れることもあります。
そんなときは身の安全を確保しつつ、相手のテンションを少しでも抑える観点でかかわることが効果的な場合があります。
例えば、声のトーンを変えてみたり、オーバーアクションで身振り手振りを交えたり、使い慣れた方言などです。
なぜ興奮しているのか、何を求めているのかという視点を持って対応することが大切です。
