終活というと、「死に向けての準備」のように捉える方が多いのですが、実はまったく違います。終活は自分が死んだ後に残る不安を早くから取り除き、これからの人生を安心して自分らしく、より良く生きるための準備なのです。

そのために、今から何をすべきか。今回スポットを当てるのは、自分が亡くなった後に残る不安の一つとして挙げられる相続問題です。

私自身、終活カウンセラー協会の勉強会では、相続・介護・保険・年金・お葬式及び供養の5科目を担当してきましたが、その中でも講義時間が他が40分なのに相続だけは50分と、一番長く取られています。

学ぶべき分野が広く、押さえるべきポイントが多いことも理由の一つですが、この科目が終活の中でも重要だからに他なりません。

そこで今回は終活検定の講義においても外せない「認知症になっても安心の不動産相続」をテーマにしたいと思います。

問題になりやすい不動産の評価

民法882条には「相続は、死亡によって開始する」と書かれています。被相続人が死亡するということですが、この後にはクリアすべき問題が次々にやってくるのです。

下の表は、私が終活検定の講義で使っているスライドを参考に、細かい項目を加えて作り直したものです。

認知症になってからでは遅い!家族で揉めやすい不動産の相続対策...の画像はこちら >>
※印の項目は目安


相続財産には数多くの種類があり、それぞれ評価方法が違うという特性があります。預貯金だけなら解約手取り額なので単純に計算できますが、不動産や投資財産、債務や貴金属、骨とう品となるとそれぞれ評価額を計算する必要があります。

特に問題となりやすいのが不動産の評価。例えば自宅の場合、土地と建物を個別に計算する必要があります。

建物は固定資産税評価額で、時価の4~6割くらいが目安となりますが、土地の評価方法は路線価方式と倍率方式の2つがあります。

路線価方式はその土地が面している道路ごとに、役所から公示されている路線価に、土地の面積をかけて算出します。

一方で郊外の地域などには路線価が定められていない道路があります。そうした道路にしか面していない場合は、倍率方式が適用されます。国税庁のウェブページにある倍率表を使い「土地の固定資産税評価額×倍率」で算出できます。

このほかにも、相続財産は多岐にわたります。

  • 上場株式
  • 利付公社債
  • 割引公社債
  • 貸付信託
  • 証券投資信託
  • ゴルフ会員権
  • 書画
  • 骨とう品
  • 貴金属
  • 家具
  • 自動車 など

その中でも不動産は、工夫次第で大きな節税効果を生むという話もあります。

誰にでも起こる「争続」

また、相続の場合に定説となっているのが「相続財産に占める不動産の割合が大きいと、遺産分割の際に揉める可能性が高くなる」というもの。いわゆる「相続」ならぬ「争続」です。

少し古いデータですが、2019年の裁判所HPの司法統計年報・家事事件編における認容・調停が成立した遺産分割事件の遺産価額ごとの件数を見てみましょう。

遺産総額と遺産分割事件の件数 遺産総額 件数(割合) 5,000万円以下 5,545(約77%) 5,000万円~1億円 780(約11%) 1億円~5億円 490(約7%) 5億円を超える 42(約0.58%) 算定不能 367(約5%)

これも相続の講義では外せないポイントですが、要するに「遺産が少ないから争続とは無縁」という考え方は大きな間違い。

少ない遺産の大半が自宅の土地であるために、自宅を相続できなかった人が不満に思うことはよくあるパターンです。また遺産が少ないからこそ、どのように分割するかでもめるという話もよく聞きます。

ただ、約0.58%の方々は分割できるものがたくさんあるので、家庭裁判所まで持ち込まれるパターンは少ないですが、そこにもいくつかの問題が発生してます。

ある不動産業界の関係者から、こんな話を聞きました。

「16億円の遺産を3人で分割する場合でも、一人当たり5億円相当の額になり、預貯金や有価証券を分けていくのはスムーズにいくのですが、やはり難しいのは不動産。

Aさんは収益物件が欲しい、Bさんは土地でもらいたいとそれぞれ欲しいものがあり、評価額も違うので、分け方がやはり難しいのです。

そのためには、亡くなる前に被相続人がAさんやBさんの希望を聞くなどして、誰に何を相続させるか遺言を残していくことが最も有効な方法だと思いますね」

相続の大半が不動産であったり、相続人に高齢の方がいたり、認知症、障がい者の方がいる場合、離婚歴があり前妻との間に子どもがいる場合などは、遺言を書く必要が生じてきます。

裁判所に持ち込まれているだけでもさまざまなケースがあるだけに、それ以外の身近なところで相続のトラブルは起こっています。「争続」は特別な人だけに起こるものではないのです。

不動産相続を安心して行う方法とは

認知症になってからでは遅い!家族で揉めやすい不動産の相続対策は銀行融資の活用を
深澤氏
写真提供:本人

そこで今回は不動産の専門家にお話をうかがいました。11月15日にダイヤモンド社から出版された『日本で唯一の不動産ソムリエが教える、誰も知らなかった地歴・地相・家相の真実 健康を手に入れ、幸運をつかむ』の著者である深澤朝房(株式会社サン・フェル代表取締役)さんです。

相続対策の秘訣について質問をぶつけてみると、こんな答えが返ってきました。

「資産を不動産に変えることです」

あれ?不動産は分けにくく、トラブルも多いということなのですが、一体どういうことでしょうか。深澤さんは、さらにこう続けました。

「弊社の会社案内にも出していますが、今は相続対策事業が1番多いんです。

高齢化社会でコロナや認知症の問題が増える中、先祖代々から受け継いできた『土地・建物』と『財産』を守るための生前対策として不動産活用が有効なことは知っていても、どのように準備すれば良いか、わからないからなんですね。相続対策に強い不動産の専門家であれば、不動産の価値をしっかり見極めたうえで、一人ひとりの状況に合わせた最適な解決策を見つけられます。それにより相続評価を不動産で準備することで、評価額を減らし、相続税を軽減することが可能になるわけです。収益不動産なども活用すれば、資産の保有と資産活用が同時にできるようにもなります」

相続評価を不動産で準備して、評価減して相続税を軽減する。これは一体どういうことなのでしょうか。深澤さんが、さらに突っ込んだ説明をしてくれました。

「自分の財産で大きい物件の不動産を買って、利回りのいいものに銀行融資をつけてやるんです。例えば5億円だったら全部融資してくれますから、そうすると5億円借金があるということになります。そうすると相続税が減るわけです。だから預金とか株とかで持つのではなく、不動産に変えるほうがいいわけです」

ということは、時価と評価額の差が大きいほど、効果が出るということになります。

「例えば銀座の鳩居堂前は時価4億円ぐらいなんですが、評価額は9,000万円と4分の1です。ただ銀座は住宅もありませんから、目黒区や渋谷区、世田谷区、杉並区など、時価の高いところであれば評価が半分ぐらいになります。

評価を減らすために土地部分の負担付きで買うわけですよ。相続税を払ったら、将来すぐ転売すればいいわけです。このシステムは国税局出身の相続専門の税理士と組んでやっていますので、この40年間1回も問題になっておりません」とのことでした。

「ただ、認知症になる前に、対策をしなければなりません。高齢者の場合はその前に、融資付き、すなわちローン特約付きで不動産を購入されることをおすすめします」

判断能力のあるうちに、対策を行う。これは終活全般にわたって共通するテーマです。例えば遺言も、いつか自分が死んだときに備えて、自分の財産の処分などに関する意思表示をしておくものなので、判断能力があるうちにしか書くことが認められません。

同様にこうした不動産購入の契約も、認知症になってからだと難しくなってしまうと深澤さんは指摘したわけです。

認知症になってからでは遅い!家族で揉めやすい不動産の相続対策は銀行融資の活用を
判断能力のあるうちに対策しよう

「認知症になっても安心の不動産相続」こそ、認知症になる前にしかできないことをお分かりいただけたと思います。終活ノートなどを使いながら、まずは相続財産の確認から、始めてみてはいかがでしょうか。

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