介護施設へ自分の親を入居させたことに罪悪感を持つ方は多いです。施設の対応が悪かったり、親が寂しがったりすることで、余計に入居を決定してしまったことに対して自責の念にかられてしまうことがあります。
そういったときは、心の中にある後ろめたさを見て見ぬふりしながら過ごすしかないのでしょうか?
結論から申し上げますと、それは違うと思います。介護施設の入居を決定しても、家族がサポートし、親により良い環境を用意することはできます。
ただし、それには工夫が必要です。この記事では、介護施設に親が入居するご家族が抱えがちな悩みとともに、その解決方法を紹介していきます。
介護施設への不信感から後ろめたさを感じる
介護施設へ親が入居した後、スタッフ対応や親本人の言葉で不安になってしまうご家族もいます。
筆者が以前関わったケースで、以下のような事例がありましたので紹介します。
【事例】Dさん(60代・女性)
Dさんはもともと母と暮らしていたのですが、母は脳梗塞が原因で寝たきり生活になり、要介護5で特別養護老人ホームに入居させることになりました。
母は自分で動くことは難しいながらも、意思疎通はしっかりとれます。
介護施設に母を入れてから、月に1回ほど面会に行くDさんでしたが、面会時に毎回母が「家に帰りたい」と悲しそうに言うため、辛い気持ちでいました。
Dさんが母の部屋を出て、フロアを見渡すと介護スタッフが利用者の食事介助を行っています。「ちょっと!食事に集中してよ!」と、利用者さんに大きな声で怒るように声をかける介護スタッフ。
その姿を見てDさんは「うちの母も、もしかしたらこんな風に扱われているのかしら」とますます不安になるのでした。
介護スタッフに対する不信感と母の言葉に、「この施設に入れてよかったのかな…」とますます罪悪感を持ってしまったDさん。介護スタッフには母の世話をしてもらっている手前、注意することもできず、更にもやもやしてしまうのです。
介護施設に親を入れたことに対して、罪悪感を持つ方は多いです。
- 母から「帰りたい」と寂しそうに言われてしまった
- 介護スタッフの雑な部分を見てしまった
このようなことがあったことで、Dさんは更に自責の念に囚われてしまったのではないかと思われます。
本来であればご家族の気持ちを汲み取り、上手くサポートするのが介護スタッフの仕事です。しかし、それが上手く機能していないことが多いのも事実です。
そんなときは家族の立場から、できることがあるのでしょうか?親には安心できる環境を、用意してあげたいものですよね。そこで次の項目では、家族としてできる「さまざまな不安に対しての対処法」を紹介していきます。
不安になる原因とその対処法
介護施設に親を入居させる上で、不安に感じる点はみなさん共通していることが多いです。
そこで、ご家族が不安になりがちな場面や、その原因に沿った対処法を紹介していきたいと思います。
スタッフの対応が雑に感じる場合
事例にあったように介護スタッフの対応によって不安を感じる方もいます。例えば以下のような対応は家族を不安にさせるでしょう。
- 利用者への言葉遣いが乱暴
- 利用者・ご家族に対して上から目線のような声掛け
- ご家族に挨拶をしない
- スタッフが同僚や利用者に対し、感情的に怒る
ご家族本人が上記のような対応を目にすることもあれば、入居している親から聞かされることもあるでしょう。不適切な対応が発覚したときには、介護施設に入れたことさえ後悔してしまうかもしれません。
このような場合の対処法は、ケアマネや管理者に相談することです。特定の介護スタッフの対応のみに問題があるケースは、上司から本人に指導するか、場合によっては人事異動などの対応がなされることもあるでしょう。
介護スタッフによっては自分の態度を客観視することが苦手な場合もあるので、気になった点を指摘することで、介護施設のサービス向上に繋がるかもしれません。
不適切な対応を見かけたら、臆せず管理者などに相談してみましょう。
他利用者との関係に不安を感じる場合
それだけでなく、他利用者とのトラブルによって施設での生活が苦痛になっている場合もあります。そんなときも我慢せず、介護スタッフに相談して問題ありません。
介護スタッフはトラブル自体は把握しているかもしれませんが、それによって本人が辛い思いをしているところまで気付いていないかもしれません。
しかし、ご家族からの報告で「本人が辛い思いをしている」ということが分かれば、対策を考えるようになります。
- 介護スタッフが利用者同士の間に入る
- 席や部屋を変える
- フロア移動を検討する
上記のような対策を検討してもらえる可能性が高いため、トラブルで悩んでいたら遠慮なく介護スタッフに相談してみましょう。
本人から「さみしい」と言われる場合
本人から「さみしい」「家に帰りたい」と言われるのも、家族にとっては辛いものです。
しかし、在宅介護が現実的でないからこそ、介護施設に入居したケースが多いかと思います。そのため、可能であれば施設生活を今より充実させたいものです。
そこで、親の施設生活充実のためにおすすめの対処法を2つ紹介していきます。
➀スタッフと仲良くなる
介護施設にはさまざまなスタッフがいます。中でも話しやすいスタッフを見つけて、仲良くなってしまうのがおすすめです。
たわいもない話ができるスタッフと良好な関係を築くことで、ご家族の求めることを伝えやすくなります。
スタッフも人間であるため、いつも不平・不満ばかりのご家族よりも、「いつもありがとうね」などと声をかけてくれているご家族の要望であれば耳を傾けたくなるものです。
普段からコミュニケーションが取れる関係を築いておけば、お互いに情報交換もしやすくなります。
その結果、両者を尊重し合った信頼関係が生まれ、親が施設でより生活しやすくなる環境に繋がるのです。

➁面会頻度を増やす
本人が寂しがるようなら、面会頻度を増やしてみるのも良いでしょう。
「施設生活に慣れるために面会は頻回ではないほうが良い」と考える人もいますが、家族に会える時間はかけがえのないものです。面会に行くことで本人の様子を自分の目で確認することもできます。
施設生活のことは介護スタッフに任せても良いですが、家族ができるサポートも行っていくことで、よりバランスの取れた過ごしやすい環境となるでしょう。
家族側の工夫で解決できない場合には転居の検討も
上記で紹介したような対応策でも効かないほど、問題が深刻なケースもあります。
- ほとんどの介護スタッフの対応に問題がある
- 介護施設のサービスが機能していない
- 金銭的トラブルが発生した
このような場合、介護施設の転居をしてしまうほうが良いこともあるでしょう。
施設側は引き留めるかもしれませんが、施設自体の在り方に問題が有る場合はケアマネなどに相談し、他の介護施設に移ることも視野に入れておきましょう。
特養から特養への移動は空きがなく難しいケースもあり、場合によっては介護付き有料老人ホームなどへの転居も検討しなければならないかもしれません。
転居を検討する場合には、空き状況なども含め、早めにケアマネに相談することをおすすめします。
スタッフと手を取り合い介護生活をサポートしよう
介護施設の生活に対して漠然とした不安を抱いてしまうときは、まず自分が何に対して不安に感じているのかを考えてみましょう。
不安点を明確にしておくことで、介護スタッフに対しても意見が言いやすくなります。
介護施設側のサービスに思うところがあっても「自分の親を見てもらっているのだから、不満は言えない」と抱え込むことはありません。
スタッフと良好な関係を築いて伝え方さえ工夫をすれば、よりスムーズに希望を言いやすくなるでしょう。
そして、介護施設に入ったからといって、ご家族のサポートが不要になるわけではありません。
スタッフ・ケアマネ・ご家族・その他多職種が手を取り合い、協力し合いながら、要介護者にとってのより良い暮らしをサポートしていける関係が理想的なのです。