ケアプランを作るタイミングで、決める必要があるキーパーソン。
キーパーソンは、介護サービスを受ける上で大切な役割を担う存在ですが、その責任の重さゆえに嫌がる人も実は多いです。
また、身内同士の複雑な感情が絡み、ときにはトラブルに発展してしまうことも…。
この記事では、キーパーソンに関するよくあるトラブルとその対処法を紹介していきます。
キーパーソンを押し付けられてモヤモヤする…
キーパーソンに関するトラブルは、よくあります。
筆者が関わった事例では、以下のようなトラブルがありましたので紹介していきます。
【事例】Cさん(50代・女性)
Cさんの父は独り暮らしをしていましたが、脳梗塞により介護施設に入居することになりました。介護施設の入居にあたり、兄かCさんがキーパーソンになる必要がありました。
Cさんの母は他界し、Cさんには兄が1人います。当時Cさんは、夫の義両親の介護を引き受けていたことに加え、父はCさんの実親であるとはいえ、Cさんはお嫁に出た立場。
Cさんは、当然、キーパーソンは兄夫婦が引き受けるものだと思っていたのです。
しかし、兄には「妻も自分も忙しいんだ。悪いがキーパーソンはCが引き受けてくれ」と言われてしまいました。
Cさんは、「自分の父なんだし、介護施設に預けるわけだから介護の負担は少ない。私が見ればよいか」と自分を無理矢理納得させようとしましたが、なんだかモヤモヤする気持ちを抑えられずにいました。
“思い返せば、兄夫婦は父から今までさんざん金銭的な援助を受けてきた。
気を抜けば兄に対して、恨みのような感情が沸き上がる自分に怖さを感じていました。
Cさんのように急に誰かがキーパーソンになる必要があるときに、押し付け合いや逆に取り合いになり、身内同士での揉め事に発展するケースがあります。
キーパーソンは介護サービスを受ける上で重要な存在ですが、誰もが積極的になりたいわけではなく、また逆に誰もが譲り合えるとも限りません。
キーパーソンに関するトラブル対策を考えるうえで、まずはキーパーソンの役割から整理してみましょう。
キーパーソンの役割
キーパーソンは、その名の通り要介護者の介護サービスをすすめる上での「鍵を握る人」です。
実は、法的効力があるわけではないキーパーソンですが、介護業界においては、介護サービスや医療的ケアなどの決定権がある人とされています。
主に以下のような役割があります。
- 契約などの事務的な手続き
- 利用料の支払い
- 介護サービスや医療的ケアの決定
- 緊急時の連絡
子どもでいうところの「保護者」のような存在であり、介護サービスにおいては「大事なことを決める人」となります。
介護施設や事業者、ケアマネは、要介護者とキーパーソンの意見や意向を基本的に優先します。つまり、身内を代表して重要なことを決められるのがキーパーソンになるということです。
実はよくあるキーパーソン絡みのトラブル
キーパーソンが絡む身内同士の揉めごとは、上で紹介した事例以外にも実はよくあります。
そこで、よくある揉めごとを以下に紹介していきます。
➀キーパーソンを勝手に変更された
自分がキーパーソンになっていたのに、知らない間に兄弟が勝手にキーパーソンを変更していたというケースです。
キーパーソンになる人は基本的に血縁者が多いですが、特別な決まりはありません。
そのため、きょうだいが介護施設側に「キーパーソンはこれから私が引き受けます」と言った場合、介護施設側は血縁者であればそれを不思議に思わず、勝手に変更されてしまう可能性があります。
キーパーソンの変更は、当事者同士で話し合った上でのことであることを前提としているため、介護施設側も血縁者に「引き受けます」と言われたらもう話し合っているものとして、前のキーパーソンに確認せず変更手続きを進めてしまう場合もあるからです。
相談もなく兄弟がキーパーソンを変更していたら、怒りが湧いてしまうのも当然だと思います。
しかし、再度介護施設に連絡し、「私は聞いていなかったのでキーパーソンを戻してください!」と言っても、対応はしてくれるかもしれませんが、また同じようなことの繰り返しになってしまう可能性も高いです。
こういったときの対処法は、すぐに感情的になったり意地になったりはせず、まず冷静にきょうだいがキーパーソンになる場合のメリット・デメリットを考えてみましょう。
例えば、きょうだいがキーパーソンになった場合、決定権はなくなるかもしれませんが、今まで負担してきた介護施設とのやり取りなどを行う必要がなくなります。
個々の事情にもよりますが、きょうだいに任せたほうがメリットは多いかもしれません。
メリット・デメリットを比較し、その上でもう一度、今後のことを話し合うことができるのが理想的です。
➁キーパーソンに面会を拒否された
自分以外の身内がキーパーソンになっていて、そのキーパーソンが、キーパーソン以外の面会や電話対応を拒否するようにと施設側に要望している場合もあります。
その場合、施設によってはキーパーソンの意思を優先し、面会を断ることも…。
このケースにおいては、施設側から要介護者の情報を聞き出すことも面会を申し入れることもできないため、どうしても面会をしたい場合は、キーパーソンと一度話をして希望を受け入れてもらうしかありません。
➂動かないのに意見だけはいろいろ言ってくる身内がいる
自分がキーパーソンとなり、手続きなどいろいろ動いていた期間、全く手伝ってくれなかったにも関わらず、「施設にいれるなんてかわいそう」「これはこうしたほうがよかった」などと意見や文句だけを言ってくる身内にストレスを溜めるケースもあります。
口は出したいけど自分は援助したくないというスタンスの身内であれば、話し合いでの解決は難しいため、自分の考え方を変えてストレスを溜めないようにするのがベストです。
手伝ってくれない身内から文句を言われたとしても決定権はキーパーソンである自分にあるとし、身内の意見に左右されない気持ちでいましょう。
キーパーソンで揉める原因
キーパーソン関係のことで揉める理由は、さまざまです。
- 親子・きょうだい仲が複雑である
- 面倒に感じて自分は引き受けたくない
- 決定権を譲りたくない
上記のような理由で、「お互いに譲り合う」という意識が持てず、結局トラブルに発展してしまうことも少なくありません。
身内を上手く巻き込み、協力し合える関係であれば理想的ですが、そうでないのであれば諦めて気持ちを切り替えるほうが良いでしょう。
キーパーソン決定時の話し合い
キーパーソンは、介護サービスの利用を決めたり、緊急の連絡を受けたりする必要がありますが、だからといって全て介護の負担を引き受ける必要があるわけではありません。
ケアマネや介護スタッフと連携しながら、金銭的な問題や介護のサポートなど、身内同士で協力し合って乗り越えていけるのが理想の形です。
そこで、キーパーソンを決める際には、予め誰がどの部分を負担するかを明確に話し合っておくことがおすすめです。
例えば、介護施設に親が入居した場合であれば、以下のような話し合いができると理想的です。
A「僕はあまり面会にいけないから、少しだけど毎月の入居費を負担するね」
B「私は経済的な援助は難しいから、できるだけキーパーソンのサポートをするつもり。施設にいけないときは私が行くから連絡してね」
C「私は施設から家が近いし、動きやすいからキーパーソンになるね。だけど、何か決定事項があるときには、A・Bにも相談させてもらうわね」
急に介護サービスを利用する必要がでてくる場合もあるので、できるだけ親が元気なうちに身内同士で話し合っておきましょう。
キーパンソンになったからこそできることに視点を向けプラスに考えてみよう
身内との話し合いが難しく収拾がつかない場合は、今置かれている立場のメリットに目を向けてプラスに捉えることを意識してみましょう。
キーパーソンを引き受ける立場であれば「決定権は自分にある」、キーパーソンを譲る立場であれば「キーパーソンにある程度は任せられる」などと、状況をポジティブに考えられるほうが気持ちよく介護サービスを勧めることができます。
要介護者のために、今置かれた立場からできることを考え、実践できればそれで十分です。
「キーパーソン」という言葉に囚われすぎず、適度な距離感で介護と向き合っていきましょう。