「認知症の親が、いつもトイレを失敗してしまうけど対策はできるの?」
「尿や便を漏らしたりいじったりして、トイレが汚れてしまう…」
認知症の家族を介護している方の中には、このような悩みを抱えているケースもあるのではないでしょうか。
排泄が自立している場合は介護負担も比較的少ないですが、介助を要すると介護者の心身の負担は増大します。
そこでこの記事では、認知症高齢者への排泄介助と排泄時のトラブルについて解説します。
認知症の方への排泄介助の方法
認知症の方であっても、自分でできる範囲は自分で行ってもらうのが原則です。
移動や下着の上げ下げといった動作を繰り返し行うことで、身体機能の維持につながります。
寝たきりでトイレまで行くことが困難な方や、自分で排泄ができない方に対してはおむつが必要になります。しかし、おむつを使うことで、皮膚がかぶれやすくなる、自尊心を傷つける可能性があるなどのデメリットもあるので注意が必要です。
ここでは、トイレで排泄している方・紙パンツを使っている方・おむつを使用している方の
排泄介助方法について解説します。
1.トイレまで移動して排泄できる方
トイレに誘導して、本人が便座に腰かけたのを確認したら、ドアやカーテンの向こうなど、すぐにかけつけられる場所に移動します。ドアに鍵はかけないようにしましょう。
排泄が終わったら再びトイレに入ります。
本人に立った姿勢をとってもらい、陰部を前から後ろに拭きます。
陰部をきれいにしてから、下着とズボンをあげて着衣を整えます。
このとき、下着の中にシャツを入れないように注意してください。失禁したときに下着とシャツ両方を汚さないためです。
2.紙パンツを使っている方
紙パンツを使っている方でも、トイレで排泄できていれば、基本的には先述したトイレでの排泄介助方法と同じです。
注意したいのは、紙パンツの中に失禁していたときです。
紙パンツを交換しなくてはいけませんが、ズボンと下着を全部脱がなくても交換できる方法があります。
具体的には以下のとおりです(洋式トイレで排泄していて失禁していた場合)
3.おむつを使用している方
おむつ交換時も、トイレでの介助時と同様プライバシー確保に努めましょう。
失禁している場合でも、責めるような言動は避け、排尿、排便があったことをねぎらいつつ手早く交換します。
1人でおむつ交換を行う場合、素早く行うためにも必要なものはすべて手元に準備しておくとよいでしょう。
おむつ交換の手順は以下のとおりです。
排泄に関するトラブル
認知症高齢者の場合、さまざま原因で排泄に関するトラブルが増えてきます。排泄のトラブルは介護負担増大につながります。ここでは5つご紹介します。
1.便でトイレを汚す
1.原因認知症高齢者がトイレを汚す大きな原因として「弄便(ろうべん)」があります。
弄便とは、便失禁したときに自分の便を手で触る・手についた便を便器や壁につけてしまうといった行為のことです。
原因としては、主に以下のことが挙げられます。
- 便を便だと認識できない
- 出てしまった便を自分で片付けようとするが、やり方が分からない
怒らず焦らず冷静に対応することが大切です。
手に便がついたままだと、その手で別の場所を触って汚れが広がる可能性があるので、まずは、石けんで手を洗う・シャワーを浴びてもらうなどで本人の体を清潔にしましょう。
その後トイレの掃除をします。便の臭いを消すためには消臭剤を用意しておくと効果的です。
2.何度もトイレに行く
原因1日10回以上、中には5分おきなど、何度もトイレに行く方もいます。
原因としては、主に以下のことが挙げられます。
- 認知機能の低下により、トイレに行ったことをすぐに忘れる
- 「漏らさないようにトイレに行こう」という思いが強い
- カフェイン飲料の摂りすぎ
- 認知症の薬の副作用
- 泌尿器科系疾患など
トイレの訴えが頻繁にあっても、「さっきも行きましたよ」「またですか」という否定的な言動は避けましょう。
そして、トイレに行っても排泄がない場合は、少しの間好きなことをしてもらうなども効果的です。本人の気を紛らわすことでトイレへの意識が薄れる場合もあります。
また、カフェインは利尿作用があるので、飲み物は、コーヒーや紅茶、煎茶などを避けて、お水や白湯、ほうじ茶などにしましょう。生活に支障をきたすようであれば、医師に相談することをおすすめします。
3.トイレ以外の場所で排泄する
原因廊下や居間、寝室など、トイレ以外の場所で排泄してしまう方もいます。
主な原因は以下のとおりです。
- 場所に関する認知機能が低下して、トイレの場所が分からなくなる
- トイレを探そうとしても間に合わず失禁してしまう
- 認知症が進行して、「トイレ」という言葉の意味も分からなくなる
トイレの前や通路に、「トイレはこちら」など張り紙をしておくことをおすすめします。
お手洗い・お便所・厠(かわや)など、本人が表現していた言葉で書くとよいでしょう。トイレに行くまでに間に合わず失禁してしまう場合は、ポータブルトイレの利用も検討してみてください。
4.トイレ誘導を拒否する
原因何度もトイレに行く方とは逆に、「トイレに行きましょう」と何回声をかけても拒否する方がいます。
主な原因は以下の通りです。
- トイレに行きたくないのに、連れていかれるのが嫌だ
- 大声で「トイレに行きましょう」と言われて恥ずかしい
- トイレという言葉の意味が分からず、「知らないところに連れていかれる」と恐怖を感じる
トイレに行くのが間に合わず失禁したことがある方の場合、失禁した事実は忘れていても、不快だった感覚は残っています。トイレ=嫌なところとなってしまい、拒否してしまうこともあるでしょう。
対策無理やり連れていくことはしないでください。本人がパニックになったり、より強く拒否することにつながります。
排泄の間隔や尿意・便意の兆候を把握して、タイミングを見計らってトイレに誘導するようにしましょう。
食前の手洗い、食後の歯磨き時、入浴前など本人がトイレの前を通るときを見計らって、「ついでに用を足しませんか?」という感じで誘導するのも1つの方法です。
また、トイレ誘導の時には、周りに聞こえるような大声を出さないように心がけましょう。
「お手洗い、お便所、厠(かわや)」など、本人がトイレだと分かる言葉で声かけした方がわかりやすいこともあります。
5.おむつ交換を拒否する
原因おむつが尿や便で汚れていたら早急に交換する必要があります。しかし、トイレ誘導同様に、おむつ交換を拒否する方もいます。
主な原因は以下のとおりです。
- おむつ交換の必要性が理解できない
- おむつが汚れていることが分かっていない
- 身体に触れられることが嫌である
- 陰部やおしりを他の人に見られることが恥ずかしい気持ちがある
トイレ誘導と同様に、無理やり行うことは避けてください。
必ず事前に声かけを行い、交換時はプライバシー確保に努めましょう。
具体的な方法は以下のとおりです。
- カーテンを閉めた上で交換する
- 陰部を見せる時間が少なくてすむように手早く行う
- 排泄物の処理も手早く行い、臭いが周囲に広がらないように心がける
おむつ交換の具体的な方法については、上の【おむつを使用している方】に記載した通りです。
まとめ
この記事では、認知症高齢者への排泄介助方法や排泄時のトラブルについて解説しました。
排泄介助はお尻や陰部などデリケートな部分に関するものです。本来であれば、介助を受けずに自分で用を足したい。そう思う方がほとんどでしょう。
認知症の方は認知機能の低下はあっても感情は残っています。恥ずかしい気持ちがなくなったわけではありません。そこで大切なのは、プライバシー確保です。排泄している姿・排泄物・臭いなどを他の方に知られないよう、手早い介助や的確な声かけを心がけてください。
ただし1人で在宅介護をしている方の場合、それが難しいときもあります。そんなときはホームヘルパーやデイサービスなどの介護保険サービスを利用して、専門家によるサポートを受けましょう。
排泄介助はデリケートかつ難しいものです。この記事が、排泄介助の負担軽減の一助になれば幸いです。