在宅介護で多くの方の悩みとなりえるのが、排泄関係のことです。
排泄は人間にとって大切な行為ですが、失敗してしまうと自尊心が傷つき、そこから引きこもってしまうなどの問題につながる可能性も。
また、排泄介助は、家族にとっても負担が大きい深刻な介護の問題です。
そこで、この記事では、高齢者が失禁してしまう原因やその対処法などを紹介していきます。
紙パンツのことや介護保険内で使える福祉用具などについても解説していきますので、是非参考にしてみてください。
義父が尿失禁を機に引きこもるように…
以下の事例は 筆者の過去に関わった在宅介護をされているご家族の話です。
【事例】Uさん(50代・女性)の場合
Uさんは、夫・娘・息子・要介護度1の義父(80歳)の5人暮らしをしています。
ここ最近、義父は夜に尿漏れをし、下着を汚してしまうことが多くなりました。
それまではデイサービスを楽しみにしていた義父でしたが、尿漏れをするようになったのをきっかけにデイサービスに行きたがらなくなってしまったのです。
また、「外で漏らすのが怖いから」と、出掛けるのも嫌がるようになってしまいました。
義父はもともとは外出好きで活発な性格であったため、その変化を切なく思ったUさんは、なにか対策はないものかと義父に紙パンツの使用を勧めてみることにしました。
しかし、本人は紙パンツを拒否。本人のプライドが許さないようでした。
義父が排尿に失敗する頻度も増え、悩む一方で本人が気にしていることを思うと直接は何も言えず、どうしたらいいかわからなくなるUさんなのでした。
このように排泄に失敗したことが原因で、活動量が減ってしまう高齢者も多いです。
そのためにまずは、失禁による高齢者の心理や失禁の原因について理解していきましょう。
排泄の失敗による高齢者の心理
排泄に失敗することでの本人の心の傷は、予想以上に大きい可能性もあります。一度排泄の失敗で心に傷がつくと、次の失敗が怖くなってしまい、必要以上に構えてしまうのです。
また、排泄を失敗することに対して恐怖心を持ってしまうと、さまざまな生活面に影響を与えます。
- 部屋にこもりきりになり、運動量が減る
- 排尿に抵抗を持ち、水分を摂らなくなる
- どこかにでかけるのが怖くなる
- デイサービスに行くのも億劫になる
上記のような行動に繋がってしまうと、脱水症状になったり、筋力が低下してしまったりと、生活の質が落ちてしまう可能性も。
そこで、まずは排泄失敗への恐怖心を緩和してあげることが大切になります。そのために、まずは何で排泄に不自由を感じているのか具体的に考えていきましょう。
次の章では、不自由な理由別にその対策を紹介していきます。
原因別トイレ対策
トイレで失敗してしまう理由はさまざまです。
ここからは、原因を3つにわけ、それに合った対策を紹介していきます。
➀運動機能の低下
足が上手く動かないなど、運動機能が低下していることにより、動作に時間がかかったり、上手く姿勢がとれなかったりしてトイレを失敗してしまうことがあります。
こういった場合の対処法としては、トイレの中を動きやすい空間に変えてみたり、物が取りやすいように工夫してみたりするのが良いでしょう。
特に以下のような対策がおすすめです。
- トイレに極力ものを置かないようにし、空間を広くしておく
- 床に滑りにくいマットなどを敷くスリッパを使用しない
- 手すりを付ける
- 高齢者が片手でも切れるようなトイレットペーパーやホルダーに変えておく
万が一トイレに間に合わず漏らしてしまってもいいような空間に変えておくことを意識してみてください。
例えば、以下のようなものです。
- 座って用を足せるように和式トイレに設置するタイプの便座
- 洋式トイレの便座の高さ調節できるもの
- 手すり
- 電動で昇降するタイプの便座
症状が比較的軽ければ、上記のような福祉用具を使いトイレの環境を変えてしまうのが手っ取り早いです。それでも解決できない場合は紙パンツやポータブルトイレの使用を検討してみましょう。
紙パンツやポータブルトイレについては別の項目で詳しく解説していきます。
➁認知症やもの忘れ
認知症により「わからなくなってしまうこと」が原因でトイレを失敗してしまうこともあります。
- 尿意はあるが「なにをしたらいいのか」を忘れてしまってなかなか排泄ができない
- トイレの使い方を忘れてしまう
「わからない」部分や認知症による症状の出方は人それぞれです。
そのため、本人が「何がわからなくなってしまい、何に困っているのか」を具体的に把握することが大切です。
認知症によるトイレの失敗は、付き添いや声掛けによって改善される可能性もありますが、本人の自尊心による拒否や家族の負担から「毎回付き添うのは無理」ということも多いと思います。
そういった場合は、ドアに「トイレ」とわかる目印を置いてみるのもおすすめです。実際に認知症でトイレがわからなくなってしまう利用者に対し、トイレの目印になるものを貼っておくなどの対策をしている介護施設もあります。
「張り紙などは見栄えが気になるから使いたくない」という場合であれば、ネットで検索すれば、トイレ用の可愛いステッカーを購入することもできます。
「トイレ」とわかるようなステッカーを選べば、不自然なくトイレを認識してもらいやすくなるでしょう。
また、認知症の方がトイレを使う際に誤ってオムツやペーパー以外のものを流してしまうことを心配する家族も多いです。
トイレ詰まりが心配な場合は、清掃口がついているトイレの設置を検討するか、高齢者が使用するときだけトイレの栓を閉めて水の流れを止めてしまう対策をするのも手です。
➂排泄機能の低下
頻尿や尿漏れなど、高齢者の疾患や老化により排泄機能が低下によってトイレに失敗してしまうこともあります。
その場合は、ポータブルトイレの設置やおむつの使用を検討するのがおすすめです。ポータブルトイレは原則レンタルできませんが、介護保険を利用し自己負担1割で購入することはできます。
ポータブルトイレには、さまざまな種類のものがあり、部屋で使う場合におすすめなのが以下のタイプです。
- 脱臭機能がついているタイプ
- 固定型のひじかけタイプ(自分で立位がとれる場合)
- ラップ機能がついているタイプ
- 温水洗浄機能がついているタイプ
部屋でポータブルトイレを使う際に気になるのはやはり臭いであるという方は多いですが、脱臭機能がついているものを使用すれば、そういった悩みが改善されるかもしれません。
さらに、上記の機能以外にも、素材(樹脂製や木製)・サイズ・便座タイプなど、さまざまな種類のものがあり、多くの商品の中から選択可能です。
高齢者の特徴や課題に合ったものを選ぶことで、より快適にポータブルトイレを使うことができるでしょう。
また、おむつの使用を促したくても本人のプライドや違和感から拒否されてしまうケースも多くあります。歩行に問題がなく、ときどき尿失禁をしてしまう場合は普段の下着に尿取りパットを組み合わせる方法で対処できる可能性もあります。
また、布製の失禁パンツや薄型の紙パンツなども存在するため、症状が軽度である場合は、そのような商品から使い始めてみるのも良いかもしれません。
ポイントは、失禁が続いたからといきなり厚い紙おむつや紙パンツの使用を勧めるのではなく、本人の様子を見ながら少しずつ慣れてもらうようにすること。

ケアマネにも相談してみよう
自分だけではうまく解決できないと思ったら、ケアマネに相談してみるのも良いでしょう。状況に合った介護サービスや介護保険が適用する福祉用具を紹介してくれます。
トイレ関連でよく紹介されるサービスや福祉用具は以下です。
- 訪問介護サービスの利用
- 通所介護サービスの利用
- トイレの手すりのレンタル
- ポータブルトイレの購入
トイレに対する困りごとやその原因を整理し、家族側からも「こういったサービスを利用したい」「ここを解決したい」「この福祉用具を使ってみたい」など具体的な要望を伝えると、よりスムーズに話を進めることができます。
また、トイレの手すりレンタルやポータブルトイレの購入は、介護保険が適用されます。高齢者の状態に応じて必要な福祉用具を揃えてみましょう。
高齢者の症状に合わせてトイレ環境を整えよう!
高齢者の尿漏れなどに悩んだら、まずは原因をしっかりと考えてあげることが大切です。記事を参考に、原因に合った対策をしてみてください。
そして、トイレ関係で困ったことがあれば、家族の中で抱え込むのではなくケアマネに相談してみるのが解決の近道になるケースもあります。
高齢者の自尊心を大切にしながら、本人と家族、両者の負担を減らす方法を前向きに考えていきましょう。