親が自立生活を送れなくなった場合には、老人ホームなどの介護施設に入居するしか選択肢がないケースがあります。
しかし、介護施設に入居することで、自宅が空き家になってしまうこともあるでしょう。
空き家をそのまま維持しておく方法もありますが、不審者に入られるリスクがあるうえ、維持費もかかります。
ただでさえ親の介護費用や医療費がかかるため、そのまま維持しておくのはあまり良い方法ではないかもしれません。
今回は、親が介護施設に入居した場合に空き家になった自宅の対策方法について見ていきます。
対策①自宅を売却する
親が介護施設に入居して再び自宅で生活する可能性がない場合には、自宅を売却することが賢明な方法です。
ただし、自宅を売却することは、メリットだけではなくデメリットもあります。
また、親名義の自宅を売却するためには、さまざまな注意すべき点もあるのです。
自宅を売却するメリットやデメリット、考慮すべき注意点について見ていきます。
自宅を売却するメリット
空き家になった自宅を売却することには、以下のメリットがあります。
①介護費用や医療費を捻出できる自立生活をすることができなくなり、介護施設に入居すれば、多大な介護費用や医療費がかかります。
自宅を売却できれば、金銭面の不安を抱えることなく生活できることが大きなメリットです。
②固定資産税などの税金や維持管理費用がかからなくなる空き家になった家は、人が住んでいるときよりも傷みやすくなります。
また、不審者が侵入して家の中の物を盗まれたり、家の中の物を壊されたりする可能性もあります。維持していくためには、定期的な手入れが必要です。
さらに、人が住んでいなくても固定資産税は今まで通りに支払わなければなりません。
こうした維持管理費や固定資産税もかからなくなるのは大きなメリットと言えるでしょう。
③相続時の遺産分割が比較的楽になる相続人が複数いる場合などは、不動産の分割はトラブルの原因になることがあります。
相続前に空き家を売却しておけば、相続時の遺産分割が比較的楽になります。
④居住用財産を譲渡した場合の3,000万円の特別控除の特例が適用できる自宅(居住用財産)を売却したときは、所有期間に関係なく譲渡所得から最高3,000万円まで控除ができる特例があります。
ただし、住まなくなった日から3年を経過する日の属する年の12月31日までに売却しなければ、この特例は使えません。
そのため、介護施設に入居して空き家になったらなるべく早く売却しなければ、売却できても所得税を払わなければならなくなりますので注意が必要です。
自宅を売却するデメリット
空き家になった自宅を売却することには、以下のデメリットがあります。
①親の同意がなければ売却できないたとえ認知症の親が名義人となっていても、子どもが代わりに売却することはできません。
このような場合は成年後見制度などを活用する必要があり、売却までに多くの時間が必要になります。
②譲渡所得が発生した場合、所得税を納める必要がある家を売却して譲渡所得が発生した場合、基本的に譲渡所得税を納める必要があります。
ただし、居住用財産を譲渡した場合の3,000万円の特別控除の特例が適用できれば、支払う税額が軽減されます。
親名義の自宅を売却する場合の注意点
親名義の自宅を売却する場合、所有者本人の意思確認が必要です。
意思確認ができている場合と、認知症で意思確認ができない場合とでは、手続き方法が異なります。
それぞれ注意すべき点は、以下になります。
親の自宅を売却するのに所有者本人の意思確認ができている場合は、委任状を使った売却(任意代理)を行います。
任意代理のための委任状には、所有者の自署と実印での押印が必要です。
また、委任状と合わせて所有者の印鑑証明書と本人確認書類も必要になりますので注意が必要です。
②認知症などで意思確認ができない場合家を売却するには所有者の意思確認が必要ですが、認知症の場合は意思確認ができません。
ただし、親名義の自宅を売却するためには、成年後見制度を利用するという方法があります。
成年後見制度とは、認知症などでひとりで決めることに不安や心配のある人が、契約や手続きをする際に支援する制度です。
しかし、子どもだからといって必ずしも成年後見人になれるとは限りません。成年後見人は、家庭裁判所に申立てることにより、審理が行われ選任されます。
成年後見人は重い責任を負う立場となるため、弁護士や司法書士などが選任されることもあります。
弁護士や司法書士などが成年後見人に選任された場合には一定の報酬が発生し、自宅の売却が終わっても意思能力が回復するまで成年後見人が解除されませんので注意が必要です。
対策②賃貸に出す
親が介護施設に入居して、再び自宅で生活する可能性がないケースで、自宅を売却することが難しかったり、売却の同意を親から得られなかった場合には、賃貸に出すという方法もあります。
賃貸に出すにもさまざまなメリット、デメリットがあります。
自宅を賃貸に出すメリット
空き家になった自宅を賃貸に出すメリットは、以下になります。
①定期的な家賃収入を得ることがてきる定期的に家賃収入が入るため、介護費用に充当することができます。
自宅の所有権を手放したくない場合には、賃貸に出せば所有権は残すことができます。
自宅を賃貸に出すデメリット
空き家になった自宅を賃貸に出すデメリットは、以下になります。
①適切なメンテナンスが必要定期的なリフォームなど、賃貸物件として適切なメンテナンスが必要です。
②空室になる可能性があること常に満室であれば家賃収入も定期的に入ってきますが、空室になった場合には家賃収入が入ってこないため、資金計画に狂いが生じる可能性があります。
③3,000万円の特別控除の特例が受けられなくなる住まなくなった日から3年を経過する日の属する年の12月31日を過ぎた場合には、3,000万円の特別控除の特例が受けられなくなります。
④所有者側からの賃貸契約の解除が難しいこと普通借家契約では、自分の財産を自由にすることが困難になります。
そのため、賃貸契約の期間を限定できる定期借家契約の活用も考えると良いでしょう。
対策③リバースモーゲージを利用する
リバースモーゲージとは、自宅を担保に借り入れをして死亡時に売却により借入金を返済する方法です。
リバースモーゲージを利用すれば、空き家を担保にして介護費用や医療費などを借り入れすることができます。
リバースモーゲージのメリット
①定期的または一括で融資を受けられるリバースモーゲージは融資枠内であれば、自由に融資を受けることができます。
②毎月の返済は利息分だけで済む親が亡くなったとき、担保になっている自宅を売却して元金を一括返済するため、利息のみ毎月の返済をして元金の返済は必要ありません。そのため、返済の負担が少なくなります。
③資金使途が自由なこと自宅を担保にして借り入れるので、資金は自由に使えることが一般的です。
④高齢でも借り入れできること住宅ローンと異なり高齢でも借り入れできます。
リバースモーゲージのデメリット
①金利が高い住宅ローンと比較して、金利が高いことが一般的です。
②推定相続人全員の同意が必要将来の売却が前提のため、推定相続人全員の同意を必要とする金融機関が多いです。
③融資限度額に達した場合にそれ以上借り入れできない存命中に融資限度額に達した場合には、それ以上借り入れできなくなりその後の介護費用などに困る可能性があります。
④評価額が下がる可能性がある融資限度額は、契約時の担保評価額に応じて決定しますが、不動産評価額が大幅に下落した場合には担保割れの恐れがあるため、融資限度額を下げられる可能性があります。
まとめ
このように、親が介護施設に入居することで、自宅が空き家になってしまうケースがあります。
この場合に自宅を売却できれば、今後の介護費用や医療費などを捻出することができますし、維持費用や固定資産税などの支払いも発生しません。
しかし、親から売却の同意を得られなかったり、状況によっては売却が難しい可能性もあります。
そのような場合には、自宅を賃貸に出したり、リバースモーゲージを利用する方法などがあります。
いずれの方法にもそれぞれメリットデメリットがありますので、よく検討して状況に合わせた方法を選択することが大切です。