施設で短期間の宿泊サービスが受けられるショートステイは、在宅介護の物理的負担を減らせる強い味方です。

しかし、ショートステイを利用するには1~2ヵ月前からの事前予約が必要です。

予約開始時期は地域ごとに異なるため、ケアマネジャーに確認が必要です。また、ショートステイは希望が多く、満床のこともあります。

今回は、ショートステイの利用可能日が2ヵ月後だと聞いて困惑したDさんの事例を紹介します。

Dさん(50代男性、会社員)のケース

九州地方在住のDさんは、高齢の両親と同居しています。父親(80代、要介護3)は認知症で、週2回のデイサービスを利用しているものの、介護のほとんどは母親(70代)が担っていました。Dさんは、2ヵ月に1回の父親の受診時や週末の買い物の際に車を出して両親をサポートしていました。

しかし、2ヵ月前に母親が心筋梗塞で急逝しました。母親の死を悲しむ間もなく、Dさんは父親の介護体制を整えなければならなくなりました。Dさんは会社に相談をし、1ヵ月半の介護休業を取得しました。

母親の死後、父親の物忘れ症状が急激に進行していたため、Dさんはケアマネージャーに相談して父親の要介護度の区分変更申請を行いました。要介護度が1から3に上がり、デイサービス利用を週6回に増やすことができたのです。

そしてDさんは職場へ復帰しました。自分が休んでいる間に負担をかけた同僚に恩返しをしたい、遅れが出ている業務を早く進めたいと意気込むものの、父親が体調を崩す、デイサービスで転倒するなどのトラブルが起き、早退や遅刻が続いています。

父親が便器に下着を入れて詰まらせ、廊下まで汚水が溢れるなど、予想外のトラブルの連続です。夜間や週末は、慣れない家事と父親の介護に明け暮れてます。

疲れているのに眠れない日が続き「このままでは自分が倒れてしまう」と危機感を感じたDさんは、ケアマネージャーにショートステイの利用を打診しました。

しかし、ケアマネージャーから「ショートステイは2ヵ月以上前からの予約が必要です。今申し込むと、利用できるのは3ヵ月後になります」との説明を受けて愕然としました。さらに「ご家族が体調を崩すなど、特別な場合に利用できる『緊急ショートステイサービス』もあるのですが、今は満床なのです」と告げられました。

Dさんは、ショートステイを今すぐ利用できないのがケアマネージャーの責任ではないことは頭では十分わかっていますが、納得できません。「今すぐ利用できないんだったら、介護保険サービスなんて、何の意味もない! 結局自分一人が頑張らなければいけないのか!」と、怒りと絶望感で打ちひしがれてしまいました。

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予約がとりにくいショートステイ

ショートステイを利用することで、介護者は物理的に介護負担を減らすことができます。しかし、今すぐ利用したい緊急時には、運よく「空床」がなければ利用できないのが現実です。

緊急用の空床を確保している自治体は一部で、多くは通常のショートステイの空床を利用しています。現役のケアマネージャーによると、緊急ショートステイが必要になった場合、ケアマネージャーが一軒一軒施設に問い合わせ、なんとか空床を探す状況なのだそうです。

実際、一般社団法人日本介護支援専門員協会によるケアマネージャーに対するアンケート調査結果(H23年)では、通常のショートステイの予約で「空床がない」と回答することが「よくある」または「ときどきある」と答えた人は82.9%で、緊急ショートステイでも72.2%に達しています。

ショートステイや緊急ショートステイが利用しにくいのは、施設やベッド数が限られているためで、ケアマネージャーの努力不足ではありません。

さらに、人工呼吸器などの医療機器を使用している人や、何らかの医療的処置が必要なケースでは、介護施設では対応できず「レスパイト入院」を実施している医療機関を探さなければなりません。レスパイト入院に対応している医療機関は少なく、受け入れてくれる病院を見つけるのも一苦労です。

私自身、認知症の祖母のショートステイサービスの予約が取れず、痰の吸引が頻回に必要な母親のレスパイト入院を希望しても満床で利用できなかった経験があります。当時の私も、Dさんと同じように「結局私一人で頑張らなくちゃいけないのか!」と孤独感と絶望感でいっぱいになりました。

今すぐできる次善の対策を取る

Dさんへは、3つのアドバイスをお伝えしました。

一つ目は、ケアマネージャーへの再度の相談です。「もう疲れ切っていて限界です。ショートステイのキャンセル待ちはできますか? ダメもとでお願いしたいです」と話してほしいと伝えました。介護者の危機的状況がより伝わりますし、運よくキャンセルが出て利用できることもあります。

二つ目は、2ヵ月後であってもショートステイの予約を入れておくことです。今すぐに介護負担を減らすことはできなくても、2ヵ月後の負担軽減対策が取れます。介護は長期化する可能性が高いです。

一時の感情に流されず「利用できるサービスはしっかり利用する」という意識を持ちながら進めていきたいものです。

三つ目は、職場への相談です。Dさんは「介護休業を取ったばかりで、これ以上迷惑をかけられない……」と躊躇されていましたが、「Dさんが突然倒れてしまったら、余計に職場に迷惑をかけることになります。回復してから、職場には恩を返していきましょう」と勧めました。

なぜDさんに「職場に相談を!」と強く背中を押したかというと、私自身、過去にDさんと似た経験をしているからです。

当時の私は、介護疲れを自覚していたものの、ショートステイは2ヵ月先だと聞いて落ち込み、仕事でもミスが増えていました。介護休業を利用して1ヵ月以上休んだ直後だったので「休みたいです」と言いづらく、上司に相談できていませんでした。相談できない心理状態では、何を考えても悪い方向にしか考えが浮かびません。一人思い悩むうちに「これ以上迷惑をかけられない。もう仕事を辞めるしかない」と思い詰めてしまいました。

しかし、覚悟を決めて相談したところ「確かに今は忙しい時期だから休まれると困る。でも、まずはしっかり休んで元気になって戻ってきて欲しい!」と言ってもらえて驚きました。

この体験から、一人で思い悩むよりも、できるだけ早くに職場に相談した方が良いと私は考えています。

Dさんも「ケアマネージャーや職場に相談したところで、現実は変わらないのでは」と、抵抗を感じておられました。また、再び休むことで、職場の同僚から批判されるのではないかという不安もあったそうです。

しかし、勇気を出してケアマネジャーへ相談すると「ダメもとでキャンセル待ち、承知しました!」と言ってもらえました。さらに、職場の上司や仲間からは「体調をしっかり整えてください!」と励ましの言葉が返ってきました。それを受けて、Dさんはまず2週間の有給休暇を取ることを決意しました。

有給休暇中も父親の介護が必要でしたが、時間の余裕が生まれました。デイサービスの準備を整えて父親を送り出すまでの時間を焦らずに過ごすことができ、送り出した後は体を休める時間が取れます。

また、ショートステイのキャンセルが出たことで1週間のショートステイを利用することができました。久しぶりに起こされずにしっかり眠る時間が取れ、Dさんは体調がグッと回復したことを実感したそうです。「再来月からショートステイを定期的に入れていこう」と考え、ケアマネジャーと計画を進めています。

サービス利用と情報収集は余裕がある段階で行う

頑張り屋の人ほど「できるところまで自分がやるべきだ」と感じ「自分ができなくなって初めて、サービスを利用しよう」と考えがちです。

しかし、今回ご紹介したDさんのように、使いたい時にすぐにサービスが利用できるわけではありません。できれば、介護者自身に余裕がある時から介護保険サービスを利用しておくことをおすすめしています。

また、仕事をしている方は、総務や人事など、仕事と介護の両立支援をしている部署に「今すぐに利用するわけではないけれど、将来のために制度を知っておきたい」と伝え、社内で使える制度について説明を受けておくと良いでしょう。

ショートステイでレスパイトを! サービスは余裕があるときから計画的に
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そして、思わぬ介護トラブルが起きた時や、介護者自身に心身の不調が生じた時は、一人で悩まずに相談してください。「誰かが一緒に考えてくれている」と、第三者の協力や繋がりを感じることで安心感が得られ、ストレス軽減に繋がります。今すぐに解決できなくても、ケアマネージャー、地域包括支援センター、職場には積極的に相談していきましょう。

「辛い時ほど、第三者に相談する」と、頭の片隅に置いてください。

みなさんが家族間で抱えている悩み、介護で経験されていること、対策をとられていることをぜひ教えてください。お困りのことやご相談には、こちらの「介護の教科書」の記事でお答えできればと考えています。

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