2025年に団塊の世代が75歳以上になることで、日本は「国民の5人に1人が後期高齢者」という超高齢化社会を迎えます。そんな中、重度の要介護状態となっても住み慣れた地域での暮らしを続けられるように、必要な方へ医療・介護サービスを十分に提供できるような環境整備が進められています。

医師の訪問診療、歯科医の訪問歯科、看護師の訪問看護、リハビリ専門職の訪問リハビリなど、さまざまな訪問サービスが提供されていますが、近年は薬剤師による在宅訪問も増えてきました。

薬剤師の訪問は、薬を配達するだけではありません。今回は薬剤師による在宅訪問について、薬剤師の視点から具体例も含めてご紹介いたします。

薬を飲み忘れてしまう理由

薬の飲み忘れは誰にでも起こり得るものです。私自身、薬の飲み忘れの経験があるので、つい忘れてしまう気持ちはよくわかります。忘れた日数分だけ残薬として薬がたまっていくので、いつの間にか大量の残薬になってしまう人も少なくありません。

薬剤師の訪問は、このような残薬解消の一助となります。

薬を忘れてしまう背景には、忘れやすい理由が隠れているからです。

自覚症状が無いので忘れてしまう

痛みが強いときに痛み止めを飲み忘れる人はほとんどいません。

しかし、心臓や糖尿病の治療薬のように、自覚症状を伴わない疾患の治療をしていると、どうしても服薬を忘れてしまうことがあります。

症状がないのは良いことではありますが、薬を飲まなければ再び症状が現れるかもしれません。自覚症状を伴わない疾患を治療している人は、飲み忘れ、点眼薬のさし忘れ、テープ剤の貼り忘れなどに十分注意しましょう。

用法が多すぎて忘れてしまう

朝食前、朝食後、昼食前、昼食後、夕食前、夕食後、就寝前というように、1日7回も服用する人と、1日1回朝食後のみ服用する人とでは、どちらの方が服薬忘れが少ないでしょうか?

一般的に、用法が多くなればなるほど忘れる回数も増えます。用法が多すぎて困っている方は、一番忘れにくいタイミングに処方内容を変更してもらうのも一つの解決策です。

食前でも食後でも良い薬は、食後にまとめることによって飲む回数が減ります。

とは言え、薬には決められた飲み方があるので勝手に変更することはできませんので、薬剤師が訪問したときに相談してみてください。

訪問薬剤師は介護職とも日常的に連携をとっているので、介護職員が服薬介助しやすいタイミングへの用法変更も考えて医師に処方提案してくれると思います。

私の患者さんでも、毎食前に糖尿病治療薬、毎食後にも別の薬が処方されている人がいましたが、どうしても食前の薬を飲み忘れてしまうので、医師と相談してすべて食後になるようまとめてもらったことがあります。これまで飲めていなかった薬が飲めるようになったことで、その後の血糖値も安定しました。

薬剤師が在宅訪問することで、その人の生活をみることができます。薬の使用状況、保管状況、効果や副作用、介護される方の環境などを実際に目で見て確認できるため、薬剤師から医師への処方提案も各段と具体的に行いやすくなります。処方提案は薬の専門家である薬剤師ならではの技術です。生活に寄り添った薬を提案してもらいましょう。

薬の飲み合わせや副作用もわかる

高齢になると、体のさまざまな箇所に不調が起こり、同時に複数の診療科を受診するケースも増えます。ですが、お薬手帳などによる一貫した管理ができていない場合、飲み合わせが悪い場合も起こりえます。

実際、在宅訪問の依頼を受け、初回訪問時に思わぬ形で飲み合わせの悪い薬の内容を発見したことがあります。

その方はA病院の神経内科からパーキンソン病の治療薬が、Bクリニックからは便秘の薬が、どちらも朝昼夕食後に処方されていました。

それぞれ違う薬局で薬を受け取っており、お薬手帳も正しく管理できていなかったため、飲み合わせに気づかれていなかったのですが、実はこれらを一緒に服用すると、パーキンソン病治療薬の吸収が悪くなってしまいます。

パーキンソン病で薬が切れてしまうと動けなくなってしまうことがあるので、すぐに医師に連絡し、便秘薬の飲むタイミングを変更してもらい解決しました。

薬剤師の在宅訪問によって服用が改善!現役薬剤師がその効果を解...の画像はこちら >>

薬の副作用発見

薬剤師が訪問して薬の副作用を発見することもあります。

1日のほとんどを寝て過ごされている方の家を訪問した際、食事量もそこまで多くないのに、なぜか血液検査で尿酸値が上昇し痛風治療薬が追加処方されたとお聞きしたことがあります。

ご家族に日ごろの食事内容を確認しても問題はなく、尿酸値が上がる理由がわかりませんでした。

ですが、家の中を見渡してみるとと、市販されている指定医薬部外品の乾燥酵母の瓶を見つけたのです。聞くと、毎日成人量を服用されているとのことでした。

この乾燥酵母、実はビール酵母からできており、尿酸値を上昇させるプリン体を多く含んでいます。もしかしたら尿酸値が上昇してしまった原因はここにあるのかもしれないと思いました。

そこで医師と相談し、乾燥酵母を控えていただくことになりました。

このように、薬剤師による在宅訪問は、生活環境により入り込めるため、食事内容や嗜好品、サプリや健康食品などについても一緒に検討することができるため、副作用を早期に発見することにもつながるのです。

今回は、薬剤師による訪問について、具体的な事例をご紹介しました。ここでご紹介できたのはほんの一部です。

薬剤師が訪問することで得られることは、書ききれないほどたくさんありますので、またの機会にご紹介させていただきます。

薬剤師の訪問を利用した人からは、もっと早く頼めば良かったという声も多く届いています。生活環境を見てもらうだけでも良いので、まずは相談をしてみてはいかがでしょうか。

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