- 買い物リハビリのメリット
- 「目的」と「目的地の環境」を設定することが大切
- 買い物リハビリはケアプランとの兼ね合いに注意
理学療法士兼webライターの森田亮一です。
近年、地域活性化や健康づくりの一環として「買い物リハビリ」に注目が集まっています。
今回は買い物リハビリの効果を解説します。
理学療法士が考える買い物リハビリのメリット
買い物リハビリは、読んで字の通り「高齢者が買い物をすることで、ADL(日常生活動作)や認知機能の低下を予防する」ことを指しています。
介護事業所や自治体などでも、こうした取り組みが行われており、徐々にその効果が注目されるようになってきました。理学療法士としての視点から見ると、主に次のようなメリットがあると考えられます。
- 歩行練習になる
- バランス練習になる
- 支払いという行動が認知症予防になる
- コミュニケーションが自然に取れる
- 商品を選ぶ楽しみがある
- 開放的な空間で過ごせる
- 社会参加支援になる
- 交通弱者の支援になる
特に注目したいのは、買い物という明確な目的があることです。なぜなら、リハビリにおいて、目的は非常に重要視されるからです。
リハビリは目的を持つことが大切
一般的に、リハビリは「訓練」というイメージを抱く方も多いでしょう。
例えば、歩行訓練などは「歩くのが上手になるように訓練をしている」と捉える人が少なくありません。
しかし、人は何の目的もなく歩くことはありません。一見すると目的がないように見える散歩も、「健康維持」や「ストレス発散」など何かしらの目的を持っていることがほとんどです。
つまり、リハビリにおける「歩行訓練」の目的は、歩行することではなく、その先にあります。「トイレに立つために歩く」「庭で畑仕事をするために歩く」など具体的な目的を持つことが大切です。
ここで「トイレに立つために歩く」ことを目的に、歩行訓練をしている入院患者さんを想定してリハビリ内容を考えてみましょう。
病院でリハビリを行う職員の多くは、以下のようなことを患者に尋ねます。
- いつも過ごしている部屋からトイレはどれくらいの距離がありますか?
- トイレまでの道のりに手すりはありますか?
- 段差のある箇所はありますか?
- 段差があるとしたら何cmくらいですか?
- トイレは洋式ですか?和式ですか?
- トイレのドアはどんな形ですか?
このように、トイレまで移動する環境を細かく想定して、なるべく自宅環境に近いような設定で練習を行います。なぜなら「自宅のトイレに歩いて行く」ことがゴールになるからです。
しかし、実際に病院で歩行訓練をする場合、患者の自宅とまったく同じ環境や、自宅に近いシチュエーションを用意することが困難なときもあります。
どれだけ細かい設定をしてみても、自宅内の環境動作は、実際にその場に行かないとわからないことが多いのです。
つまり、リハビリの「目的」と「目的地の環境」は非常に重要だと言えます。
買い物リハビリで得られる具体的な効果
買い物リハビリの「目的」と「目的地の環境」に注目すると、その効果がわかりやすくなります。実際にショッピングする環境でリハビリを行うと、以下のような具体的な効果が期待できます。
- 買い物に要する時間を知ることができる
- 買い物をするために必要な耐久力が得られる
- 必要な物を取る動作を練習できる
他にも、ショッピングカートの形によって動作は変わりますし、通路の幅などにも影響を受けることがあるので、買い物のためのルート選びも大切になります。
実際に買い物をする「目的地の環境」でリハビリを行うことが、最も重要なポイントなのです。
「目的」と「目的地の環境」を設定することが大切
「目的」と「目的地の環境」に合っていれば、買い物リハビリはとても有効です。しかし、どちらか一方が合わなければ、リハビリとしての効果は限定的になります。
例えば、リハビリの目的が「庭で畑仕事をする」である方に、買い物リハビリを実施しても効果は薄くなります。
また、「スーパーで買い物をしたい」という目的を持っていたとしても、「どこのスーパーで買い物をするか?」といった想定が抜け落ちていると、あまり効果がありません。
買い物リハビリの効果を最大限に発揮するためには、実際に参加者が「行きたいと思っているスーパー」「行く必要のあるスーパー」を設定することが大切です。
もちろん、目的地ではないスーパーでも、店内を歩行できたり、物を取る動作の練習ができたり、友人と楽しい時間を過ごせたりすることは健康にポジティブな影響があることでしょう。
しかし、普段行くことのないスーパーへの買い物リハビリに参加しても、商品陳列の環境が違ったり、必要な歩行距離が変わったりと「目的地の環境」が異なるため、リハビリ効果が薄れてしまうのです。
買い物リハビリはケアプランとの兼ね合いに注意
最後に、買い物リハビリと介護保険サービスとの関連について考えてみましょう。
買い物リハビリと一口にいっても、介護保険制度による公的サービスなのか、介護予防事業や総合事業における介護保険外サービスなのか、あるいはどちらにも属さない民間のサービスなのかによって異なります。
現実的に「買い物をしたい」という希望のみで介護保険制度を利用したサービスを受けられるかというと、確実に利用できるとは言いきれません。
なぜなら、介護保険利用者の意向や理想とする状態、介護保険関連サービスを利用する必要性などを考慮したうえで、ケアプランが作成されるからです。
例えば「買い物ができない」という問題を抱える介護保険利用者に対して、解決するべき結果は「買い物ができる」状態になります。しかし「買い物ができる」状態にする方法は一つではありません。保険サービスを用いなくても解決できる可能性があります。
買い物リハビリは、その方法の一つに過ぎません。ケアプランに買い物リハビリをする必要性が記載されている状態であれば、介護保険関連サービスを利用できます。
「特に保険を利用しない買い物リハビリ」であれば、ケアプランを気にすることはありません。参加条件は、サービス実施者が提示する条件によりますが、比較的自由に参加できるでしょう。
注目されているからといって、買い物リハビリが万能の効果を持っているわけではありません。リハビリとして考えたとき、明確な目的を持つことが何よりも大切です。リハビリを行う前に、ケアマネージャーとしっかりと方針を定めておきましょう。
「介護✕リハビリ」記事一覧はこちら