転倒やケガによって骨折をすると、むくみをともなうケースが多くみられます。
骨折後のむくみはリハビリに悪影響をきたしやすいのはご存じでしょうか?
骨折によって低下した身体機能を取り戻すには、むくみの悪化を防ぐための対策が大切です。
そこで、本記事では高齢者に起こりやすい足の骨折の種類や、むくみとリハビリの関係性などについてご紹介します。むくみによる影響と対策をおさえておけば、骨折後のリハビリをスムーズに進められることでしょう。
高齢者で起こりやすい足の骨折
高齢者で起こりやすい足の骨折には、以下のような種類があります。
大腿骨近位部骨折
大腿骨近位部骨折とは、股関節のつけ根部分の骨が骨折することを指します。大腿骨は転倒して、尻もちをついたときの衝撃で骨折するケースが多くみられます。高齢者がつまずくなどして骨折しやすい場所です。
大腿骨は大きい骨なので、骨折をすると痛みでまともに歩けず、放置すると寝たきりになってしまう恐れもあります。大腿骨近位部骨折は基本的に手術による治療が必要なので、股関節の痛みがある場合は必ず医療機関へ受診しましょう。
脛骨高原骨折
脛骨高原骨折(プラトー骨折)とは、すねの骨である脛骨(けいこつ)の膝関節に近い場所の骨折です。若い方は交通事故をはじめとした大きなケガによって発症しますが、高齢者の場合は転倒による衝撃でも骨折するケースがあります。
脛骨高原骨折は膝関節をつくっている骨付近の骨折なので、発症すると膝の痛みによって歩くのが困難となります。
さらに膝関節が腫れてしまい、うまく動かせなくなることも。脛骨高原骨折は関節にも大きな影響が出るため、基本的に手術による治療を行います。
足関節骨折
足関節骨折とは、足関節をつくっている脛骨や腓骨(ひこつ)が折れる骨折です。足をひねったり、足首が横方向へ曲がったりしたときに起こりやすくなります。
足関節の周囲には、動きや固定性をサポートする靭帯が多くついており、骨折と同時に損傷するケースも珍しくありません。
また、足関節は股・膝関節よりも小さく、全体重を支えているため、骨折の頻度が高いといえます。骨が大きくズレている場合は手術が必要ですが、ほとんど動いていない状態の骨折であれば、ギプスで固定して治癒を待つ保存療法を行います。
骨折後のむくみはリハビリにどう影響する?
足の骨折後はリハビリを行って機能改善を図りますが、そのときに注意したいのが患部周囲の「むくみ」です。ここでは、骨折後のむくみがリハビリにどのような影響があるのかを解説します。
骨折後にむくみが生じるメカニズム
むくみとは、体内の水分が皮下組織に溜まっている状態のことです。体内の血液がうまく循環しなかったり、リンパや毛細血管に関する異常が起こったりしたときにむくみが生じます。重力の関係から、むくみは足に生じるケースが多いです。
また、骨折によるむくみは、炎症反応によっても引き起こされます。筋肉が傷つくと炎症反応を引き起こす物質がつくられ、血管を広げて血流を促す働きが活発となります。その結果、血管から水分が漏れ出しやすくなり、むくみが生じるのです。
関節を動かしにくくなる
むくみが生じると、通常よりも体積が大きくなるため、関節を動かしにくくなります。
体積が大きくなっている分、皮膚が伸びるゆとりもほとんどない状態です。足の関節を十分に動かせなくなるので筋肉が硬くなりやすく、むくみが解消した後も可動域制限が残るケースもあります。
筋力低下につながる
むくみによって「関節を動かしにくい状態」は、つまり「筋肉を十分に動かせない状態」です。そのため、関節可動域制限によって筋肉を動かせない状態が続くと、やがて筋力の低下を引き起こします。
また、筋力低下だけでなく、筋肉自体に触れにくいのも問題点の1つです。
患部がむくんでいるときの対策
骨折後の療養期間は、患部の経過によって対策が異なります。その流れを5段階に分けて解説いたします。
1.安静時は患部を高い位置に上げる
骨折後にベッド上で安静になっているときは、患部を高い位置に上げておくことをおすすめします。
むくみは基本的に重力がかかっている場所に生じやすいため、足を心臓よりも上にしておけば水分が溜まりにくくなり、むくみの改善につながります。横になったり、車椅子に座ったりしているときはクッションや台を活用して、意識的に足を上げるようにしましょう。
2.骨折してすぐの時期は患部を冷やす
骨折直後はしばらく炎症反応が起こって患部が腫れるため、放置しているとむくみが悪化します。炎症をおさえるためには患部を冷やして、広がっている血管を収縮させる必要があります。患部が熱を持っていたり、腫れていたりしている時期は保冷剤を活用しましょう。
3.炎症が落ち着いたらリハビリで血流を促す
急性期が過ぎて、熱感や腫れなどの炎症反応が落ち着いたら、リハビリによって血流を促しましょう。安静によって筋肉を動かす機会が少なくなっていると、血液がうまく循環せず、むくみが生じる恐れがあります。
運動で筋肉の血流を促す以外にも、温水を使用した部分浴(温熱療法)もおすすめです。自宅で過ごしているときは、入浴時に患部をマッサージすると血液の循環が良くなるでしょう。
ただし、ケガをした直後の時期に温熱療法を行うと炎症反応が強くなり、むくみの悪化につながるので注意してください。
4.定期的に関節を動かすようにする
リハビリや運動をする時間以外も、定期的に関節を動かしておくとむくみの解消につながります。1日の全体をみると、基本的にリハビリや運動をする時間の割合は限られています。病院に入院しているときでもリハビリ時間は多くて3時間であり、それ以外の21時間を安静にしていると、むくみはなかなか改善できません。
リハビリの時間以外でも自主的に軽い運動を行っておけば、その分血流が促されるのでむくみの悪化を防げます。読書中にかかとを上げ下げする、横になっているときに足首を上下に動かすなど、合間にも関節を動かすクセをつけておきましょう。
筆者も臨床時代に、むくみが強い患者さんに対してリハビリを提供していた経験があります。その際、リハビリ以外でも運動ができるように、自主トレ用の道具を作成していました。
5.弾性ストッキングを着用する
弾性ストッキングとは、足を圧迫するためにつくられた医療用のストッキングです。着用した部位を圧迫させることで血流の循環が良好となり、むくみの予防につながります。
弾性ストッキングにはさまざまな種類があり、ふくらはぎだけでなく足全体までをカバーできるものもあります。運動や入浴で血流を良くしてもむくみが生じやすい方は、ぜひ弾性ストッキングを活用してみましょう。
骨折後はむくみに注意して効果的なリハビリを
高齢者は転倒やケガによって足の骨折をともなうケースが多いといえます。また、骨折後のむくみは関節の動きを悪くしたり、筋力の低下を助長する恐れがあります。
リハビリをスムーズに行うには、今回紹介したむくみを解消するための対策をするのがおすすめです。