LIFEの活用がもたらした現場への影響
LIFEを活用することで利用者の課題が明確に
2021年度介護報酬改定で、新たに「科学的介護推進体制加算」が加えられました。これは、利用者の状態やケアの履歴といった情報を収集する「LIFE」という基幹的データベースを介護事業者が活用することを目的としています。
運用から1年が経過し、その効果や課題が明らかになってきました。
次いで、「利用者のアセスメント頻度が統一された」が23.9%、「利用者のアセスメント方法が統一された」が23.3%と続きます。
出典:『介護給付費分科会第209回資料』(厚生労働省)を基に作成 2022年04月4日更新導入当初は活用に対して疑問視する声もありましたが、事業者に一定の効果が得られていることがわかります。
LIFEが導入された背景
LIFEが導入された背景には、主に医療分野で進められてきた「根拠(エビデンス)に基づく医療」がありました。医療現場では、1990年代から治療効果などのエビデンスが収集・蓄積され、医療従事者間での共有が進められてきました。そのため現在では、特定の疾病などに対する治療やその過程を評価する基準が確立されつつあります。
しかし、介護分野ではこうしたデータの蓄積が遅れており、利用者によって異なるニーズに対して、評価する基準や指標がないために個別で判断を下さなくてはなりませんでした。
そこで、LIFEでは介護事業者が利用者の情報をデータベースに提出し、そうして蓄積された情報を事業者などが参照できるような仕組みになっています。
こうして提出されたデータを基に、各自治体でも介護事業者の取り組みを評価し、さらにフィードバックを繰り返すことで、介護の質を高める目的があります。
LIFEが活用される具体的なサービス
半数以上の事業所がアセスメントに変化があった
介護現場で、特にLIFEを活用しやすいのがアセスメントです。介護におけるアセスメントとは、主に利用者本人や関係者、取り巻く環境から得られる情報を収集することを指します。
前述した厚生労働省の調査によると、LIFE導入前後において利用者のアセスメントに変化があったと回答した事業所の割合は50.1%に達しました。

また、アセスメントを行う頻度でも、「月1回以上」と回答した事業所は導入以前は13.6%でしたが、導入後には27.2%と2倍に増加しています。
介護におけるアセスメントの重要性
介護におけるアセスメントは、ケアの質を高めるために大きな意味を持っています。
介護は利用者本人の状態だけでなく、現在の居住環境や家族との関係などを事前に把握して、適切なケアを行うことが大切です。
そのため、近年は「アセスメント→計画立案→実施→評価」の4段階に分けた「介護過程」が重視されています。
この中でアセスメントでは、利用者本人や家族、あるいは関係機関から寄せられる断片的な情報を理論や知識、経験、チームの意見などを踏まえて結びつけて分析し、利用者に提供するケアにおける目標を設定します。
主に各事業所ではアセスメントシートを用いて情報を収集していますが、その判断基準は統一されておらず、事業所によって内容にバラつきがありました。
LIFEの導入は、こうした課題を解消する一つの手段になっています。前述の調査でもADL(日常生活動作)や行動・心理症状に関するアセスメントの実施割合は、導入後に大きく向上していることがわかっています。
例えば、ADLや認知機能の状態について、日々のアセスメントや一つひとつの行動を検証しながら、目標設定を点数化するようになったという声もあります。このように、LIFEが介護に良い変化をもたらしているのは明らかです。
LIFE活用の課題とさらなる可能性
データ入力などに時間がかかる
LIFEをさらに活用するためには、簡素化が欠かせません。LIFEの入力に関する月当たりの平均時間では、アセスメントが14.6時間、記録ソフトへのデータ入力が12.5時間、LIFE上での直接入力が4.6時間かかっています。

このようにLIFEを導入することで多くの時間がかかることがわかります。現場でのヒアリングによると「各計画書などの書式にADL状況や、病名など重複する項目がある」や「様式情報の画面があいうえお順などに変換できるといい」「システムの初期設定が大変複雑で設定方法が理解できない方もいる」などの意見が挙げられています。
こうした声を参考に、システムを改善していくことで、入力などにかかる時間を短縮していくことが可能です。
LIFEをさらに広く普及させるためには、入力を簡素化していくことが重要です。
多職種連携に可能性を感じる事業所は多い
現在、アセスメント面で効果を発揮しているLIFEですが、今後は多職種連携で大きな役割を発揮する可能性があります。
LIFEを今後活用できそうと感じる面として、多職種間における日々の情報共有を挙げている事業所は48.6%に及んでいます。
一方で、現状でLIFEを多職種連携で活用しているのは22.5%にとどまっており、まだ改善の余地を残しています。
現在推進されている在宅医療・介護において、多職種連携は大きな鍵を握っています。
その理由の一つとして、個別の事例では利用者本人の状態や家庭環境がまったく異なるため、介護事業者だけでなく、かかりつけ医や薬局などとも連携して、利用者に対する包括的なケアが必要ということが挙げられます。
現状では多職種連携といってもケアマネージャーと介護事業所の間の連携にとどまっているという声もあります。中部医師会が介護福祉士などを対象にアンケートを実施したところ、よく連携している事業所として約45%がケアマネを挙げる一方で、医師と連携を取りにくいと回答している割合は約44%にも上ります。
現状では、介護業界でのみ活用されているLIFEですが、今後は誰でも扱えるように簡素化し、蓄積されたデータを多職種で共有できるようになれば、幅広い活用につながります。
今後は、現場の声を反映しシステムを改善しながら、より活用の幅が広がるように、政府や自治体、事業所でLIFEを育んでいく姿勢が大切です。