「全国定期巡回・随時対応型訪問介護看護協議会」で問題提起
事業所がほかのサービスに比べて圧倒的に少ない
2022年6月22日、「全国定期巡回・随時対応型訪問介護看護協議会」が開催され、介護保険サービスの1つである定期巡回・随時対応型訪問介護看護の普及に向けた提言が行われました。
協議会では、厚生労働省と民間のシンクタンクが行った調査結果を紹介。サービス提供に必要な人員確保が困難であること、ケアマネージャーのサービスに対する認識が不足していることなどが、普及の阻害になっているとの指摘がされました。
実際、定期巡回・随時対応型訪問介護看護の事業所数は、他の介護保険サービスに比べると圧倒的に少ないです。
厚生労働省のデータによると、全国にある同サービスの事業所数は2020年時点で1,099。訪問介護は3万5,075、デイサービスは2万4,087、訪問看護は1万2,393であることを踏まえると、定期巡回・随時対応型訪問介護看護は普及が進んでいないと言わざるを得ません。
出典:『令和2年介護サービス施設・事業所調査の概況』(厚生労働省)を基に作成 2022年07月28日更新定期巡回・随時対応型訪問介護看護とは?
定期巡回・随時訪問対応型訪問介護看護とは、ホームヘルパーまたは訪問看護師が利用者の自宅を定期的に訪問して介護・見守りを行い、必要に応じて24時間いつでも駆けつける随時対応を行うサービスです。
利用者の自宅を訪問するという点で、訪問介護サービスに似ている部分があります。
実際、ホームヘルパーが利用者の自宅で食事、入浴、排せつの介助をするという点では、サービス内容は重なっています。
しかし、いくつかの点で定期巡回・随時対応型訪問介護看護と訪問介護は異なります。
まず定期巡回・随時対応型訪問介護看護は、その名の通り24時間体制での随時対応サービスに対応しています。訪問介護はケアプランで決められた日時にのみ訪問するので、この点は大きな違いです。
また、訪問介護は利用した時間分のみの料金負担であるのに対して、定期巡回・随時対応型訪問介護看護は月額定額で介護費用を負担します。利用量の大小にかかわらず、毎月一定額の支払いが発生するわけです。
ただし、両者のサービスが訪問系という部分では同じであるため、訪問介護と定期巡回・随時対応型訪問介護看護は併用できないことが制度上定められています。これは訪問看護も同様です。
定期巡回・随時対応型訪問介護看護へのニーズが伸びない理由は?
利用者側からみた問題点
定期巡回・随時対応型訪問介護看護は、定期巡回サービスによる介護・見守り、随時対応サービスによる緊急時対応など高い利便性を持つ一方で、不便な点があるのも事実です。
例えば、訪問介護・訪問看護との併用ができないため、これらのサービスから定期巡回・随時対応型訪問介護看護に乗り換えた場合、スタッフが入れ替わってしまい、介護環境を大きく変化させてしまいます。
利用者としては、介護サービスを受け関係性もできているスタッフを簡単には変更できないでしょう。いったん訪問介護・訪問看護を利用すると、そこから定期巡回・随時対応型訪問介護看護に変えにくくなる面があるわけです。
また、定期巡回・随時対応型訪問介護看護は月単位で定額にて費用を負担します。そのため、利用した分だけ費用負担する訪問介護や訪問看護の方が、利用状況によっては費用が安くなることも多いのです。
例えば、介護度が多少高くても、ある程度心身状態が安定している方であれば、随時対応サービスは必ずしも必要ではありません。
そうなると、ケアマネと相談しながら訪問回数を調整できる訪問介護・訪問看護の方が、ニーズにもマッチしてかつ費用を抑えられます。
このように、もちろん利用者の状態にもよりますが、定期巡回・随時対応型訪問介護看護は他のサービスに比べて、サービス内容や費用面で利用のニーズに合わない部分が多いようにも見受けられるのです。
そもそも利用者からの認知度自体が低い
冒頭で紹介した協議会では、定期巡回・随時対応型訪問介護看護に対するケアマネの認知度の低さが指摘されていました。しかし、実際のところ、利用者の認知度が低いことも調査により明らかにされています。
株式会社エヌ・ティ・ティ・データ経営研究所がケアマネージャーを対象に行った調査(厚生労働省の補助金あり)によれば、定期巡回・随時対応型訪問介護看護の認知状況について、「全く知らない」が利用者本人だと約7割、家族は約6割に上っていました。
どんなサービス内容なのか分からないものを、積極的に利用しようと考える人は少ないでしょう。

実際、定期巡回・随時対応型訪問介護看護の利用を勧めた場合でも、「7割以上の家族が断る」と回答したケアマネは32.5%に上っていました。
利用者とその家族の理解・認知を得ることも、定期巡回・随時対応型訪問介護看護へのニーズを高め、サービスを普及させる上では重要と言えるでしょう。
定期巡回・随時対応型訪問介護看護を普及させるには?
地方・郊外だと移動距離が長くなり、オンコール体制が困難になることも
利用者側だけでなく、サービスを提供する事業者側にとっても定期巡回・随時対応型訪問介護看護には難点があります。
冒頭でご紹介した協議会でも、事業者側における人員確保の難しさやケアマネの認識不足などが議論されていました。
しかし、それ以外にも問題点はあり、その1つとして指摘されているのが、地域によってはサービス提供時の移動距離が大きくなってしまうという点です。
定期巡回・随時対応型訪問介護看護は定期巡回と随時対応という2種類のサービスを行う必要があり、訪問介護や訪問看護に比べると、サービス提供のために利用者宅へ移動する回数がどうしても増えます。
都市部や住宅地が広がる地域であれば、移動距離は少なくて済む場合もあるでしょう。しかし、地方・郊外の場合だと、事業所から利用者宅、利用者宅と利用者宅の距離が離れていることが多く、サービス提供のための移動負担がどうしても多くなります。
特に、少人数体制の事業所だと、地方・郊外で随時対応のオンコール体制を維持するのは難しくなってきます。
その意味で、定期巡回・随時対応型訪問介護看護は人口密集地域に適したサービスであり、地方・郊外地域だと普及が難しくなる面があるのです。
利用者側・事業者側双方からみた難点と向き合う必要性
これまで見てきた通り、定期巡回・随時対応型訪問介護看護は利用者側、事業者側双方において難点があり、サービスを普及させるには国・厚労省・自治体がその問題に向き合う必要があります。
これまでの内容を踏まえると、利用者に対しては、サービス乗り換え時に生じる介護環境の変化を減らすこと、介護費用のあり方の見直し、認知度向上の取り組みが必要。
事業者に対しては、人員確保・ケアマネの認知度上昇などに加えて、移動距離の問題をどうするのか、という対策が必要です。
移動距離の問題については、現在注目を集めているオンライン化の導入・普及を推進させることも、負担軽減につながるのかもしれません。
また、利用者・ケアマネへの認知度を高める上では、定期巡回・随時対応型訪問介護看護が便利なサービスであることを周知することも重要といえます。
先述の株式会社エヌ・ティ・ティ・データ経営研究所の調査結果では、定期巡回・随時対応型訪問介護看護を利用した人の満足度は、「とても満足した」(18.8%)と「まあまあ満足した」(57.9%)を合わせると8割近くに上っていました。
実は利用しがいのあるサービスであることを広めることも、普及を進める上で有効でしょう。

今回は定期巡回・随時対応型訪問介護看護が普及していない現状について考えてきました。同サービスの普及に向けて厚生労働省・行政がどのような対策を取り、その成果が出るのか否か、今後とも注目を集めそうです。