地域差が生じる要介護認定率
都道府県別の認定率は茨城県が最も低い
厚生労働省は、各都道府県からの報告を受けて、要介護認定者数などを『介護保険事業状況報告』として毎年公表しています。その令和2年度版によると、2021年3月末時点で要介護・要支援認定者数は全国で669万人となり、過去最高に達しました。
また、この報告では都道府県別での要介護・要支援認定率※(以下、認定率)も発表しています。
一方、最も低かったのは茨城県の15.5%で、次いで埼玉県15.8%、山梨県15.9%でした。
※介護保険の第1号被保険者(65歳以上の人)のうち、要支援や要介護の認定を受けた人の割合
出典:『令和2年度介護保険事業状況報告』(厚生労働省)を基に作成 2022年10月04日更新茨城県と大阪府とでは1.7倍の差があります。このように、認定率は地域によって差があることがわかっています。
なぜ地域によって差があるのか
内閣府では、要介護認定率の地域差が生じる要因を調査しました。それによると、地域差の要因として、地域内での高齢者の数が多ければ多いほど要介護認定率が高くなり、運動習慣が多いと要介護認定率が低くなることがわかっています。
また、介護予防事業への参加者数が増えれば増えるほど要介護認定率を押し下げる要因になることも示唆されており、自治体による取り組みの重要性を解説しています。
介護予防事業には、小さな地域で自発的に集まって体操やお茶会を開くなどの取り組みも含まれており、こうした事業の効果を数値化するのは困難です。しかし、認定率を大きく改善している地域では、住民主体の細かな取り組みが行われていることから、内閣府では「本調査以上に地域の取り組みが認定率を押し下げている可能性がある」と結論づけています。
茨城県の取り組み
県を挙げてスポーツを推進
それでは、最も認定率が低い茨城県では、どのような取り組みを行っているのでしょうか。
実は、茨城県は全国でも屈指のスポーツ県。例えば、小学5年生と中学2年生を対象に行われている体力テスト(2018年)では、小5女子、中2男子でともに全国2位になっています。
毎年のように上位にランクインしているのは、「スポーツ推進計画」を策定し、県を挙げてスポーツ推進に取り組んでいるからです。2010年代から地域に総合スポーツ施設を設置するほか、各地で体力向上の取り組みが行われています。
その結果、70歳以上の男性が週に1回以上スポーツをする割合は55.6%に達しています。

また、茨城県は「健康長寿日本一」を政策目標に掲げており、高齢者に対する在宅介護支援体制などの構築に積極的に取り組んでいます。
独自に取り組むシルバーリハビリ
茨城県では介護予防として体操を有効な方法に位置付けており、高齢者向けの運動として「シルバーリハビリ体操」を開発しました。
この体操は身体機能が低下していたり、軽度な障がいがあっても実施できるようリハビリテーションの手法を組み込んでいます。
主に要支援2程度までの状態の高齢者が対象となっており、体操指導士からレッスンを受けながら実施します。道具も使用せず、広場や公民館でも行えるように考案されているので、県内のさまざまな施設で取り入れられているそうです。
高齢者を元気にする仕組みづくり
運動と社会参加の両面で後押し
老年社会科学に掲載された研究では、地域の高齢者に対して自治体などが運動機能向上プログラムに介入する効果を検証しています。
その結果、運動教室などのプログラムなどに参加した高齢者は社会参加をする時間が増加することがわかっています。
つまり、運動教室に通うことで、外に出ることが増え、コミュニティに参加する機会が増加するのです。
近年、高齢者の社会参加は運動や脳トレといった認知機能向上トレーニングよりも介護予防効果があるという研究も報告されています。そのため、政府が高齢者に社会参加をしてもらうよう、さまざま施策を展開。全国各地にある認知症カフェはその一環ともいえるでしょう。
茨城県では、スポーツと関連して老人クラブの活用を推進しています。県内には2,228のクラブがあり、約9万6,000人が参加。
地域限定のアプリも登場
さらに、茨城県では健康増進を促すためのアプリを独自に開発しました。「元気アっプ!リいばらき」というアプリで、運動やイベント参加、健診を受けたりするとポイントが付与され、景品と交換できるというものです。
アプリと連動してイベントなども開催しており、さまざま側面から高齢者の健康をサポートしているのです。
茨城県だけでなく、福島県の会津若松市などでも、医療・ヘルスケア分野のデータを活用した取り組みが進められています。
高齢者の健康維持や介護予防に対して、地域住民と近い自治体が介入することは非常に大きな意味があります。自治体が促進し、地域の高齢者によるネットワークが拡大すれば、さらなる好循環を生み出すことでしょう。