特養の2022年4月時点で待機者数は約27万5,000人

2019年度調査から5.1万人減少

厚生労働省は2022年12月23日、特別養護老人ホーム(以下、特養)への入居を希望しながら、ベッドが満床のため入居できるまで待機している人の数が、2022年4月1日時点で27.5万人であることを公表しました。

約27.5万人の待機者のうち、在宅で待機している人の数は約11.7万人。残りの約13.6万人は、有料老人ホームなど他の施設に入居して待機しているわけです。

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出典:厚生労働省のデータを基に作成 2023年01月24日更新

2019年に公表された同じ調査結果では待機者数が32.6万人だったので、それよりも約5.1万人減っています。

在宅での待機者数も前回調査では13.2万人でしたが、今回の調査では11.7万人と約1.5万人減少しました。

この調査結果は、47都道府県から厚生労働省に報告された特養の待機者数を合計したものです。

都道府県に報告を求める際、複数の施設に入居申し込みを出しているケースや、入居申請後に本人が亡くなったケースなどを除外するよう依頼したので、実際の待機者数に近い結果になっているといえます。

待機者数を都道府県別に見ると、最も多かったのは東京都で、要介護3以上の待機者数は2万1,495人。2番目に多かったのは神奈川県で同1万4,238人です。

最も待機者数が少なかったのは徳島県で同1,275人でした。

特別養護老人ホームの入居条件、種類、特徴

特養は原則として年齢65歳以上で、介護保険制度の要介護認定にて「要介護3」以上の認定を受けている人が入居対象となる施設です。

ただし、末期がんや関節リウマチ、ALSなど介護保険で定められている16種類の特定疾病に該当する場合は、40~64歳でも入居できます。また、以下の場合は要介護1~2でも入居できることがあります。

  • 認知症によって日常生活に支障をきたす症状・行動が見られる場合
  • 知的障害・精神障害により日常生活に支障をきたす症状・行動があり意思疎通が難しい場合
  • 同居する家族からの虐待などによって心身の安全確保が難しい場合
  • 単身などにより家族の支援を受けられず、在宅で受けられる生活支援や介護サービスの供給が不十分な場合

特養の種類としては、定員30人以上でどこに住んでいても入居申請ができる「広域型特養」、定員30人未満で施設が立地する市区町村に住民票がある場合に入居申請ができる「地域密着型特養」、在宅介護をしている方を対象に見守りなどのサービスを提供する「地域サポート型特養」などがあります。

また、特養の種類はケア・居室の内容によっても分類可能です。

一人ひとりに合わせた手厚い個別ケアを提供し、居室は全室個室タイプの「ユニット型特養」、多床室にて入居者のスペースを仕切りで区切った上で個別ケアを提供する「ユニット型個室的多床室」、全室個室で一般的なケアを提供する「従来型個室」、多床室で一般的なケアを提供する「多床室」などがあります。

特別養護老人ホームの待機者数が減少した背景

2015年の介護保険制度改正による入所要件厳格化

一般的に言われている特養における待機者数の減少理由としては、2015年の介護保険制度改正で施行された特養の入所要件の厳格化が挙げられます。

特養はそれまで「要介護1以上」が入所要件でしたが、2015年からは原則「要介護3以上」へと変更されたのです。

制度改正が行われる以前の2014年時点での特養の待機者数は全国で約52.4万人。2022年時点の待機者数の2倍近くもいたわけです。

この人数を減らすべく2015年に入所要件を厳しくしたところ、2017年3月に公表された待機者数は要介護3以上が29.5万人、要介護1.2が7.1万人で計36.6万人となり、制度改定によって16万人近くも減りました。

ところが、2015年に入所要件が厳格化されたため、2014年から2017年にかけて待機者数が減るのは当然ですが、待機者数はその後も減り続けました。

要介護3以上に絞って待機者数の推移を見ると、2014年度が34.5万人、2017年度が29.5万人、2019年度が29.2万人、2022年度は25.3万人です。

入居対象となっている要介護3以上の待機者数が減り続けているわけです。

特養の待機者数が全国的に約5万人減少!待機者減少の背景要因とは?
要介護3以上の待機者数の推移
出典:厚生労働省のデータを基に作成 2023年01月24日更新

高齢化が進む中で要介護認定者は増え続け、要介護3以上の認定を受けている人も増加し続けています。特養へのニーズは高まる一方であるように思われる中、なぜ要介護3以上の待機者数が急速に減り続けているのでしょうか。

待機者減の背景にある特養以外の老人ホームの充実化

特養の待機者数が入居要件厳格化以降もさらに減り続けている要因の一つが、特養以外の入居施設の充実化です。

厚生労働省のデータによると、有料老人ホーム(介護付き、住宅型、健康型)の入居定員数は2016年時点で45万7,918人でしたが、わずか3年後の2019年には53万9,995人にまで増加しています。3年の間に、8万床以上も増えているのです。

同時期にはサービス付き高齢者向け住宅(以下、サ高住)の定員数も急増しています。

サ高住は2011年の高齢者住まい法の改正によって創設された施設で、既存施設の援用などで2012年時点における入居定員数は全国で6万4,630人でしたが、その後は毎年施設数・定員数が増えていき、2019年時点の入居定員数は24万7,644人まで増加しています。

7年ほどの間に、18万人近くもの高齢者の受け皿となっているのです。

この入居定員には自立~要介護5の人すべてが含まれていますが、介護付き有料老人ホームや介護体制の整った住宅型有料老人ホーム、あるいは特定施設のサ高住では、要介護3以上の人を受け入れる体制が整っています。

特養への入居を待っていられない人が、多少値段は高くても、特養以上に介護体制が整っていることが多い有料老人ホームやサ高住への入居を決めたわけです。

特養も2016年以降に増設は進んでおり、2019までに定員が4万人以上増えています。

しかし、民間施設は2016年以降、有料老人ホームとサ高住だけで12万人以上も定員が増えており、特養に代わる入居施設として人気を集めているのは間違いないと言えるでしょう。

さらなる待機者減に向けて必要な対応策は?

設置が勧められているユニット型特養の費用が高め

また、特養が持つ最大の特徴でもあった「安さ」の面での優位性が近年薄らいでいます。

現在、厚生労働省はユニット型特養の設置を進めています。

先述の通り、ユニット型特養では完全個室にて入居者一人ひとりに合った個別ケアを提供。画一的なケアではなく、高齢者の個性に向き合った介護を行うことができ、同省としては高齢者の尊厳を守れるという観点からもその設置を推進。

2025年度までに、特養の定員のうち約7割をユニット型特養にするとの目標を掲げています。

しかし、このユニット型特養は、多少室タイプの特養よりも手厚いケアを受けられるのは確かですが、入居費用が保険適用にも関わらず高めです。要介護3の場合だと最低でも月額12万7,320円、要介護5だと月額約13万円必要です。

一方、民間施設については、特に地方の場合だと家賃が安めで即入居できる施設は多いです。

都市部も含めた平均額でみると、介護付き有料老人ホームで15.7万円~、住宅型(介護サービスなし)で9.6万円~です。ユニット型特養と費用面で大差のない民間施設も多いのが実情といえます。

特養の待機者数が全国的に約5万人減少!待機者減少の背景要因とは?
ユニット型特養と有料老人ホームの平均月額費用
出典:厚生労働省および「みんなの介護」のデータを基に作成 2023年01月24日更新

有料老人ホームは高額な入居一時金が必要になるとのイメージも強いですが、「みんなの介護」の調べによると、都市部・地方も含めた全施設の平均額は、介護付き有料老人ホームで30万円、住宅型有料老人ホームで6万円。

高級志向の施設だと高額になる傾向もありますが、特に地方などでは、格安の料金設定になっていることも多いのです。

特養は待機者数が多く、待機期間に関するビッグデータはないものの、一般的には長い場合だと2~3年も待機の必要があると言われています。

この点を踏まえても、即入居しやすくて介護体制・住環境が整い、料金が同程度~やや高い程度の民間施設を選ぶことが合理的になってきます。

特養の待機者をさらに減らすには

前回調査よりも減ったとはいえ、2022年4月時点でなお特養の待機者数は約27万5,000人もいるのが実情です。今後さらに減らしていくためは、民間施設に頼る以外の減少策を進めていく必要があるでしょう。

近年、その一つの方策として注目を集めているのが、在宅介護の充実化です。自宅にいながら特養と同水準のサービスを提供できるものとして、「定期巡回・随時対応型訪問介護看護」があります。

「定期巡回・随時対応型訪問介護看護」は、月額定額で「定期巡回」と「随時対応型訪問介護」を提供するサービスです。

「定期巡回」では1日に複数回、定期的に利用者の自宅を訪問し、食事・入浴・排せつの介助やベッド上の体位変換、服薬管理などを実施。「随時対応型訪問介護看護」では、利用者からの通報があれば24時間365日いつでもスタッフが自宅に駆けつけ、心身状態が悪化しているときは看護師が駆けつけます。

手厚いケアを受けられる介護サービスですが、2013年に創設されてから6年が経過した2019年時点でも、全国の事業所数はわずか1,020で、利用者数は約2万4200人にとどまり、普及が進んでいません。

また、特養の施設数や定員が増えても、そこで働く人材を確保しないと空床が生じます。ハードの整備もさることながら、特養での人材確保策もやはり重要。近隣の民間施設の方が待遇面で優位性があれば、そちらに人材は流れるでしょう。

今回は特養の待機者数について考えてきました。高齢者・要介護者の増加が進む中、官民どちらの施設においても充実化が必須。官側の施設・特養の待機者数を今後さらに減らせるよう、国・行政には適切な施策の実施が期待されています。