無資格の介護職員に「認知症介護基礎研修」の受講が義務化
社会保障審議会介護給付費分科会にて委員の了承を得る
無資格で働く介護職員に対する「認知症介護基礎研修(eラーニング)」の受講義務化が、2023年1月16日の社会保障審議会介護給付費分科会にて改めて了承を得ました。
2021年度の介護報酬改定の際に受講の義務化がすでに決定しており、2024年3月末までは猶予期間とされていました。その猶予期間が予定通り終了することが改めて決定されたわけです。
すでに受講している人は一定数おり、東京都のデータでみると、累計修了者数は2019年時点で5,244人、2020年に5,264人、2021年に5,947人となっています。
2020年はコロナ禍の影響もあり修了者数は少ないですが、受講義務化が決定することが判明した2021年度は一気に700人近く受講者が増えています。今後、完全義務化に伴い全国的に受講者が急増する可能性もあるでしょう。
出典:東京都福祉保健局のホームページを基に作成 2023年02月14日更新厚生労働省は2023年の夏から、実際の認知症介護基礎研修の受講状況に関する調査を行うとのこと。義務化の影響や研修の実態を把握して、今後の施策につなげるといいます。
認知症介護基礎研修とは?
認知症介護基礎研修とは、認知症に関する基礎的なスキル・知識を学ぶための研修で、主に無資格者・未経験者を対象として実施されています。
実施主体は自治体ですが、民間に委託しているケースもあるようです。また、コロナ禍の影響により、多くの自治体でeラーニングにて開講しています。
研修内容は大きく分けて講義と演習の2種類で、本来の受講時間は計6時間ですが、コロナ禍以降に主流となっているeラーニングだと視聴のみで150分程度です。
講義では、認知症に関する基本的な理解を学び、認知症の定義と原因疾患、認知症の症状と行動・心理への理解、認知症ケアの考え方などを学習。
演習では、認知症ケアを現場で行う際の注意点について学び、認知症当事者とのコミュニケーションの取り方、認知症を原因とする心理・行動への対処法を学びます。
テスト、修了試験などはなく、すべてのカリキュラムを受講すると修了証明書が交付されます。受講さえすれば取得できる資格なので難易度は低いです。
なお、介護職員初任者研修を修了している人は受講対象外であり、その上位資格である実務者研修修了者、介護福祉士資格保持者も同様に受講の必要がありません。
認知症介護基礎研修はあくまで無資格・未経験者を対象とした研修です。受講料は自治体によって異なり、有料の場合は1,000円~5,000円程度となっています。
無資格者に認知症介護基礎研修を義務付けた背景
介護現場における認知症ケアの大変さ
介護職として現場で働くにあたって、介護負担が特に大きくなるのが認知症のケアです。
2018年に公益財団法人介護労働安定センターが作成した「認知症介護におけるストレス対策研修に関する研究会報告書」によると、認知症の方の介護の従事されている職員50人に対して「どのようなことにストレスを感じているか」を尋ねたところ(複数回答)、最多回答は「暴言、暴力」(30人)でした。
ほかにも、「利用者や利用者の家族との感情のもつれ」(17人)、「何を言ってもわかってもらえない」(14人)、「勝手なことをいう」(13人)などの回答が多くみられます。

暴言や暴力、感情のもつれ、意思疎通ができないなど、介護現場における負担の大きさが回答結果から伺えます。
特に無資格者の場合、認知症に関する知識不足の人も多いと思われ、いきなり介護現場に出るとストレスに耐えられなくなる可能性も大きいです。認知症介護基礎研修を受講することで、基本的な知識を身に付けることができます。
認知症介護の実情とは?
認知症には大きく分けて中核症状と周辺症状(BPSD)の2種類があります。
中核症状は認知症の基本的な症状とも言えるもので、記憶障害や見当識障害、言語障害、判断力低下などの症状が見られます。悪化すると日常生活に支障が出ますが、介護する側の負担は比較的軽めです。
一方、認知症当事者の性格や生活環境、生活歴などが影響して現れる周辺症状には、暴言・暴力、せん妄、抑うつ、興奮、徘徊、妄想などの症状があり、介護者の負担が大きくなる傾向があります。
介護職員は介護現場で認知症ケアを行いますが、その際、周辺症状が強くみられる利用者もいます。
無資格者・未経験者の場合、コミュニケーションを取ったり、家事支援などの生活上のサポートをしたりはします。その際、認知症への理解度を持って接することが必要です。
そもそも認知症の人が介護施設でケアを受けようとする場合、在宅介護で対応できなくなり、施設に任せるというケースも多いです。
そのため、認知症ケアの知識・スキルがないと対応できないような症状が現れていることも少なくありません。無資格者でも介護現場に出るなら、認知症に対する最低限の知識が求められます。
認知症介護基礎研修の義務化で期待される効果とは
介護施設での虐待件数の減少
介護現場でのストレスがあまりにも大きくなると、懸念されるのが介護職員による利用者への虐待です。
厚生労働省によると、2021年度における「養介護施設従事者等」による高齢者虐待の「相談・通報件数」は2,390件、「虐待件数」は739件。2020年度は少し減ったものの、過去5年間で見ると右肩上がりの傾向が続いているのが現状です。

認知症介護基礎研修の義務化によって無資格・未経験者の認知症理解が深まれば、介護現場で認知症の人と接する際のストレスを減らせる可能性があります。
認知症の利用者から暴言を受けた場合、認知症の理解がない人だと精神的にショックを受けたり、ストレスを抱え込んだりすることも多くなるでしょう。それが積もると、人によっては虐待行為に至るリスクが高まります。
一方、認知症介護基礎研修を受講し、暴言はあくまで認知症の症状であるとの認識を適切に持つことができれば、精神的なストレスを減少でき、虐待行為に至るリスクを大きく減らせるでしょう。この点、認知症介護基礎研修の義務化の意義は大きいといえます。
研修受講に関して考慮すべきポイント
認知症介護基礎研修の受講は6時間が基本で、eラーニングだと150分程度での修了も可能です。
修了まで長期的な時間はかからないものの、無資格の状態ですでに就労している場合、施設側は取得のための時間を取れるように配慮することも必要になるでしょう。
費用については、受講料が発生するなら本人負担なのか、施設側が負担するのかの決定も求められます。
1,000円~5,000円ほどであり、他の介護の資格に比べると安いので本人負担になることも多いかもしれませんが、すでに働いている職員については施設側が負担することを検討しても良いでしょう。
実際、6時間程度の研修(eラーニングでは150分のことも)で学べることは限られているともいえるので、長期的な勤務を視野に入れるなら、本人・施設側はさらなる研修・資格取得を進める意思も求められます。
今回は、無資格の介護職員に対して、認知症介護基礎研修の受講が2024年度から義務化される話題について考えてきました。
認知症ケアは介護現場でも特にストレスが多いのが実情。無資格の介護職員が受講を通して認知症の理解を深め、ストレスの軽減につなげてもらいたいです。