一人暮らし高齢者の現状と課題

2040年には高齢者の4世帯に1世帯が独居に!

超高齢化社会に突入した今、一人暮らし高齢者の問題が年々深刻化しています。『令和4年版高齢社会白書』によると、65歳以上の高齢者世帯は2,558万4,000世帯で、全世帯(5,178万 5,000世帯)の49.4%を占めることがわかっています。

そのうち、65歳以上の一人暮らし世帯は増加傾向にあり、2020年時点で671万7,000世帯で高齢者世帯のうち22.1%を占めています。

この傾向は今後も続くと見込まれ、2040年には896万3,000世帯となり高齢者世帯のうち24.5%が一人暮らし高齢者になると推計されています。つまり、高齢者世帯のうち4世帯に1世帯が一人暮らしになる計算です。

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出典:『令和4年版高齢社会白書』(内閣府)を基に作成 2023年02月16日更新

一人暮らしの高齢者はフレイルリスクも上昇

一人暮らし高齢者の大きな問題は、社会的な孤立状態になる可能性が高いことにあります。社会活動への参加意欲が低下し、近隣との付き合いも少なくなる傾向があります。

孤立状態になると、自然と外出も少なくなり、引きこもりがちになってフレイル状態になる可能性もあります。

フレイルとは、筋力や認知機能などが低下した状態のことを指し、健康と要介護との中間にあたります。フレイルになると生活への意欲が低下して、社会的な孤立をますます深める要因にもなるとされています。

昨今のコロナ禍によって、高齢者のフレイルリスクが高まっていると指摘されています。武庫川女子大学栄養科学研究所が兵庫県西宮市で行った調査によれば、フレイルの高齢者の割合はわずか1年で2.4%増加していることがわかっています。

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コロナ禍におけるフレイルの増加
出典:『COVID-19による感染症蔓延期における西宮市高齢者のフレイルの現状』(武庫川女子大学栄養科学研究所)を基に作成 2023年02月16日更新

さらに、同研究では友人との交流頻度や社会参加が減少すると、身体の活動量が低下し、食生活にも悪影響を及ぼすと指摘しています。

さらに、高齢者にとって生きがいの有無は健康に直結する問題だとされています。内閣府が行った意識調査によると、生きがいがないとした高齢者の割合は、二人以上の世帯では19.2%だったのに対し、一人暮らし高齢者は35.8%に達しています。

また、近隣との付き合いや連絡を取り合う人がいないと、孤立死のリスクが増大します。

東京23区内での孤立死は増加傾向にあり、2005年には1,837人でしたが、2019年には3,913人に達し、約15年で倍増した計算になります。

超高齢化社会がもたらした空き家問題

空き家の半数以上は相続によるもの

国土交通省の調査によると、全国の空き家数は2018年時点で約846万戸に上るとされています。これは総住宅数のうち13.6%を占めており、過去最高の数値となりました。

この傾向は今後も続くと見られ、民間の調査では2040年には約30%に達するのではないかというデータもあります。

こうした空き家のうち、賃貸や住宅として活用されていない空き家は約318万戸で、全体の38.8%で、破損などがまったくなく、最寄り駅から1km以内で簡単な手入れだけで活用できる住宅は約48万戸に上ります。

こうした未活用の空き家が生じる理由は、半数以上が相続によって所有されているからです。もともと親などが住んでいて、子世代が相続して取得した割合は56.4%を占めています。

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空き家となった住宅を取得した経緯
出典:『空き家等の現状について』(国土交通省)を基に作成 2023年02月16日更新

さらに、こうした空き家の4軒に1軒は所有者の生活圏から離れていることがわかっています。このことから親と離れて暮らしていた子世帯が空き家を相続して、そのまま放置している現状が浮き彫りになっています。

空き家にしておく理由を尋ねたところ、「解体費用をかけたくない(39.9%)」「更地にしても使い道がないから(31.9%)」など、所有者が有効活用できないケースも多いようです。

管理不全による空き家のデメリット

空き家にはさまざまな問題がつきまといます。

近隣住民に迷惑をかける

住宅は、適切に管理していないと劣化が早く進みます。放置されていると外壁や屋根などが崩れ落ちて家屋の倒壊などのリスクが高まります。

そのほか、ごみの不法投棄の温床になったり、ねずみなどの害獣の繁殖など、近隣にも大きな弊害を起こしかねません。

このような空き家があるだけで、近隣の不動産価値を下げてしまうおそれや、不審火や放火など地域の治安にも影響を及ぼします。

罰則が適用されることも 空家法で定められた「特定空家等」に認定されると、自治体は所有者に対して適切な管理をするように助言や指導を行うことができます。それでも改善されない場合、最大50万円以下の過料に処されることもあります。 税金の負担が増える

一般的に住宅や土地を所有していると、固定資産税や都市計画税などの税金がかかります。

居住できる建物の敷地には、特例措置が適用され、固定資産税が軽減されます。しかし、「特定空家等」に指定された敷地や住宅は、特例措置が適用されず、固定資産税の負担額が増えるのです。

こうした問題を引き起こすことから、政府は空き家対策に乗り出しています。その柱となっているのは「空き家バンク」です。各自治体に設置されており、空き家を登録しておけば「買いたい・借りたい」という人とのマッチングができます。

空き家を活用して地域を活性化

空き家を有効活用するための「集いの場」

一人暮らし高齢者と空き家の問題を同時に解決する対策として、注目を集めているのが空き家を高齢者向けの施設へと活用する方法です。

高知県高知市では、市が介護予防事業の一環として新たに設けた補助金制度を用いて、地域住民が高齢者の通所や訪問の事業を立ち上げる動きが広がっています。

2022年3月には空き家を拠点として高齢者に向けた集いの場を提供しています。地元ボランティアなどが低料金で食事を提供したり、地域の子どもたちとの交流の機会をつくっています。

地方から広げていく空き家の活用

日本の高齢化は地方部から加速度的に進行しています。そのため、必然的に地方には空き家が多くなる傾向があります。

空き家率は、鹿児島県、高知県、和歌山県で顕著に高くなっており、いずれも高齢化率が35%を超えています。

こうした地域で空き家が増えると、地域が閑散として活気を失う原因にもなります。そこで集いの場などで活用できれば、高齢者の外出の機会にもなるため、社会的な孤立を防ぐことにつながります。

高齢者の孤立問題と空き家の問題を一気に解消する有効な手立てだといえるでしょう。

こうした動きを広めていくためには、空き家の所有者に対して空き家バンクなどを積極的に活用してもらうことがポイントです。

高知市のように取得を目指す団体などへの補助金制度などを設けて周知を広めていくような取り組みが求められています。