特養の半数以上が外国人人材を雇用!現場の実情と課題とは?

特養で外国人人材を雇用している施設は51.2%

福祉医療機構の調査により明らかに

新年度が始まり、全国各地の介護施設で新人の介護職員が活躍を始めていますが、そんな中、近年介護業界で雇用が進んでいる外国人人材の動向に改めて注目が集まっています。

福祉医療機構は3月27日、2022年度の特別養護老人ホーム(以下、特養)における人材確保の状況を示す調査結果を発表しました。この調査では同機構が貸付を行っている特養の運営元である679の社会福祉法人から回答を得ています。

調査結果によると、外国人人材を雇用している特養の割合は51.2%。ここ3年で急速に増えており、2020年度調査では34.1%、2021年度調査で44.9%なので、3年で15ポイント以上も増えていることになります。そして2022年度になって過半数を超えたわけです。

また、外国人人材を現在は雇用していないものの、過去に雇用していたことがあるという施設を合わせると、合計で約6割に上ります。今や外国人の介護人材を雇用することは決して珍しいことではなく、どの施設でもごく当たり前のように雇用しているのが現状です。

介護業界における外国人人材雇用の仕組みとは

外国人介護人材が特養で働く場合、そのルートは大きく分けて4つあります。

  • EPA(経済連携協定)に基づく雇用・・・インドネシア、フィリピン、ベトナムの人が対象。
    「介護福祉士候補者」として来日し、「介護福祉士養成施設で2年以上就学」するか、「介護施設等で3年以上の就労する」ことにより、介護福祉士国家試験に受験可能です。後者の場合、特養で働くこともできます。もちろん介護福祉士資格取得後も日本で就労可能です。
  • 在留資格「介護」による雇用・・・日本では特定の専門的・技術分野の人材については在留資格を取得でき、介護分野もその対象です。在留資格「介護」を得るには、「介護福祉士の資格を取得していること」「国内の介護施設と雇用契約を継続していること」「業務の内容が介護または介護の指導であること」「日本人と同程度以上の報酬を得ていること」などの条件をクリアする必要があります。介護福祉士の資格を得ていることが条件なので、初めての来日でいきなり在留資格「介護」の取得はできません。
    EPAや特定技能1号などの在留資格で介護の勉強をして介護福祉士の資格を取得してから、なお日本で働き続けたい場合に在留資格「介護」に移行するという形が通例です。
  • 技能実習制度での雇用・・・技術移転を目的に外国人が就労することを認める制度により、実習実施者(特養も含む)のもとで、最大5年間の実習を受けることができます。技能をどれだけ身に付けたのを測定する試験が入国1年後、3年後、5年後にそれぞれ行われ、合格する必要があります。5年経過したら帰国し、自分の国で学んだ技術を広めます。この場合、帰国が前提となります。
  • 特定技能1号の対象としての雇用・・・日本における人手不足解消を目的とした「所定の専門性・技能を持つ外国人」を受け入れる制度において、介護分野は「特定技能1号」に該当します。
    この場合、介護施設等で通算5年間の就労を行った後に帰国するという形となり、継続的な雇用はできません。ただし、5年間の就労後に介護福祉士国家試験を受験して合格すれば、引き続き日本で就労できます。

外国人人材を介護分野で採用するメリット、デメリット

外国人介護人材を雇用することのメリットとは

外国人介護人材を雇用することには、以下のようなメリットが挙げられます。

  • 人手不足の解消・・・介護業界では人手不足が深刻化しつつありますが、外国人介護人材を雇用することでその不足を補うことができます。人手不足が深刻な地方でも採用が決まりやすいです。
  • 若い労働力を獲得できる・・・日本人の介護人材、特に訪問介護員などは高齢化が進んでいますが、外国人介護人材はいずれも若い世代が中心です。体力が必要な介護業務での活躍の場は多いと言えます。
  • 異文化に触れる機会を提供・・・外国人介護人材が館内にいることで、日本人スタッフはもちろん、入居者も異文化に触れる機会を得られます。特にレクリエーションの場では、外国人介護人材が母国の歌を歌ったり、民族衣装を披露したりなどして、楽しい時間も提供できます。
  • 意欲の高い人材を確保できる・・・外国人介護人材は介護の技術を学ぶことを目的として来日・就労しているので、介護技術を身に付けることへの意欲が高いです。「母国の家族を支える」「母国に介護技術を広める」といった使命感を持っていることも多く、より質の高い業務を行えるよう努力を怠らない人が多いです。

外国人介護人材を雇用する上でのデメリット・注意点

一方、外国人介護人材を雇用する場合、以下のようなデメリット・注意点があります。

  • 文化・宗教の違いに関する理解が必要・・・生活習慣、生活スタイルが日本人と異なるので、同僚のスタッフや上司はその点を配慮する必要があります。また利用者との日常会話がスムーズにできるように、日本人の生活習慣を教えることも大事です。
  • 日本語に不慣れ・教育コストの発生・・・日本語に不慣れなので同じ職場の職員や入居者との意思疎通が困難になる場合もあります。聞き取るために時間をかけてコミュニケーションを取る必要も生じるなど、日本人のみの場合よりもやり取りに時間がかかりやすいです。
  • 業務に制限が生じたり、別途業務が生じたりする・・・在留資格によっては行えない業務もあります。例えばEPA、技能実習で就労している外国人介護人材は、一人夜勤や服薬管理などは原則行えません。また、技能実習での就労の場合、実習としての位置づけであるため、学習の進捗度を日誌に記録する必要があります。ほかにも特定技能1号として就労する場合、3ヵ月に1度、施設側のスタッフと面談を行うことも必要です。
  • 就労期限がある・・・技能実習と特定技能1号での就労は最長で5年です。そのため帰国を前提として就労している外国人介護人材も多いです。なお、滞在中に介護福祉士の資格を取得すれば、在留資格「介護」へと変更でき、無期限での就労も可能となります。

外国人介護人材を今後も活用していくには?

外国人介護人材を雇用する方法

実際に特養が外国人介護人材を雇用したい場合、方法としては以下が挙げられます。

  • EPA介護福祉士候補者・・・JICWELS(公益社団法人国際厚生事業団)に求人登録を申請し、その後JICWELSが、申請施設が受け入れ要件を満たしているかをチェック。問題なければJICWELSと契約を締結し、現地(インドネシア、フィリピン、ベトナム)にて説明会(合同面接)などを開催。その後JICWELSが就労希望者とのマッチングが行い、該当する人がいれば雇用契約を締結。日本語研修等を経て、採用を行います。
  • 在留資格「介護」・・・すでに介護福祉士の有資格者なので、就労希望者と個別に雇用契約を締結します。
  • 技能実習・・・非営利の監理団体(日本介護事業協同組合)が技能実習生を受け入れているので、監理団体に受け入れを希望する旨を申請すれば、申請した特養が「実習実施者」となり、技能実習生を雇用できます。
  • 特定技能1号・・・特養が特定技能1号の資格を持つ外国人に直接採用活動を行う、もしくは職業紹介機関(専門の業者)のサービスを利用して採用を行う、の2種類の方法があります。

外国人介護人材が働きやすい環境を整備する

外国人にとって日本は、就労場所としては必ずしも良いイメージがあるわけではありません。一部では、外国人労働者は安い賃金で働かされるとの印象が強まっているからです。

特に技能実習制度については、雇い主が技能実習生に過酷な労働を強いる実態が、各国に知られるようになっています。中小企業などが技能実習生に低賃金で過重労働を強いる実態が日本のマスコミでも報道されるようになっていますが、近年ではこの実情が各国の若者にも伝わりつつあるのです。

こうした事態は、介護分野でも同様に起こっているのが実情。以前は優秀な人材が多いとして知られるベトナム人の実習生が多かったのですが、日本のイメージ失墜の結果、今後はカンボジアやインドなどからの実習生が増えていくと予想されています。

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しかし、カンボジアやインドからの技能実習生にも過酷な労働を強いるようであれば、当然、将来的に良い人材は、アメリカ、中国、ドイツなどより待遇の良い国を選択するようになるでしょう。

現在、日本でもようやく技能実習制度の見直しの議論が政府筋で始まりつつありますが、こうした動きを今後さらに進め、外国人労働者が働きやすい環境を整備することは急務です。特に介護分野において、外国人介護人材の活用を人手不足の解消策につなげるのであれば、イメージ改善は必須事項といえます。

一方で、外国人介護人材の受け入れによる成功例は多いです。外国人介護人材を活用できている介護施設では、母国語で相談できる機会を設ける、母国の料理を楽しめるお店で食事会を開く、といった工夫をしています。施設側・日本人介護士が、意識的に働きやすい職場環境を作ってあげることが重要であるわけです。

今回は、外国人介護人材を採用している特養が過半数を超えているというニュースを皮切りに、介護分野における外国人就労者の実情について考えてきました。日本人介護士の人手不足が深刻化する中、外国人介護人材の重要性は高まりつつあります。しかし実際に問題なく就労してもらうには、日本の制度・就労環境はまだまだ不十分であるのが現状です。