選択制の対象となるのはスロープ、歩行器、単点杖、多点杖

社会保障審議会・介護保険部会にて導入が正式決定

11月16日、社会保障審議会・介護給付費分科会の場で、介護保険の「福祉用具貸与」の一部の品目に対し、貸与か販売のどちらかを利用者が選べる「選択制」を次期介護報酬改定で導入することが正式決定されました。

選択制が導入されるのは、スロープ、歩行器、単点杖、多点杖の4つです。これらは総じて価格が安めなので、貸与ではなく購入であっても負担が比較的少ない品目と言えます。

介護保険サービスである「福祉用具貸与」は、「その時点において利用者の状態に合ったものを適切に使用してもらう」ことがサービス提供の基本原則です。

福祉用具を「購入」によって利用する場合、買い替えをする際にそれなりの費用がかかるため、頻繁な交換がしづらくなります。そのため、「せっかく買ったのだから、多少体に合わなくなっても使い続ける」といった転倒・怪我の原因にもなる事態が起こりやすいのです。

一方で「貸与」であれば、いちいち買い替えをしなくても、レンタル品である福祉用具をその時点の身体状態に合わせて頻繁に交換でき、結果として転倒・怪我のリスクを減らせます。つまり福祉用具貸与には、利用者が転倒によって要介護状態になったり、介護度が重度化したりする事態を防ぐために提供する、という基本的な目的・原則があるわけです。

「購入もできるようにする」ということは、頻繁な交換を出来にくくするという点で、福祉用具貸与が持つ目的・原則から外れるようにも思われます。

この点に対して厚生労働省側は、選択制を導入しても基本的な貸与原則は維持するとし、あくまで例外範囲の拡大、という見解を会議の場で示しています。

福祉用具貸与、特定福祉用具販売とはどんなサービス?

福祉用具貸与とは、指定を受けた事業者が、利用者に対して福祉用具を介護保険適用(自己負担1~3割)で貸与するサービスのことです。

貸与は誰でもできるわけではなく、都道府県または市町村により「特定福祉用具販売事業者」としての指定を受けた事業者のみ許可されています。事業者側はただ貸すだけでなく、利用者の心身状態や生活環境を踏まえて、適切な福祉用具を選ぶための助言、補助具等の取り付け、調整、メンテナンスなどの支援も提供します。

福祉用具貸与の対象品目は現行制度では13品目。特殊寝台および付属品、床ずれ防止用具、体位変換機、手すり、スロープ、車椅子および付属品、歩行器、歩行補助杖、移動用リフト、徘徊感知機器、自動排泄処理装置などです。レンタル期間は基本1ヵ月で、契約を更新して継続して借りることもできます。

一方、特定の福祉用具を保険適用で購入できる「特定福祉用具販売」という介護保険サービスもあります。先述した通り、福祉用具の提供は貸与によるのが基本原則ですが、貸与になじまない品目については、例外として保険適用にて購入可能です。

保険適用で購入できる具体的な品目としては、腰掛便座、自動排泄処理装置の交換可能部品、排泄予測支援機器、入浴補助用具、簡易浴槽、移動用リフトのつり具の部分などが、現行制度で規定されています。選択制が導入されれば、ここにスロープ、歩行器、単点杖、多点杖なども加わるわけです。

購入の際、利用者はいったん購入金額の全額を払い、後に役所に申請することで自己負担額を除いた分の給付を受けられます。なお、同一年度で購入できるのは10万円までです(1割負担なら、9万円が最大年間給付額)。

なお、自治体により差はありますが、行政に登録されている業者との取引では受領委任払い(1割支払い)が可能な場合もあります。

福祉用具貸与に選択制を導入する背景と現場の声

「介護給付費の抑制」が最大の理由

選択制を導入する最大の理由は、介護給付費を抑制することにあります。

より具体的に言うと、ケアマネージャーのケアマネジメントの給付費を抑えるためです。福祉用具貸与は介護保険サービスなので、その内容をケアプランの中に盛り込むことになりますが、レンタル中は介護給付が発生し続けるため、ケアマネージャーは何をレンタルしているのかをケアプランの中に継続的に記載していく必要があります。

この福祉用具貸与のためのケアプラン作成も、ケアマネージャーが行う介護保険サービスであり、ケアマネージャーが属する事業所には介護保険財源から介護報酬が支払われます。実際、財務省作成の「2020年度予算執行調査」によれば、他の介護保険サービスを一切利用せず、福祉用具貸与だけを内容としたケアプラン作成が、全体の6.1%を占めていました。

一方、特定福祉用具販売の場合、購入すれば利用者本人の所有となるので、購入後の給付管理・ケアプラン上の位置づけの必要はありません。

つまり、ケアマネジメントにおける継続的な介護給付が発生しないわけです。

社会保障費の増大を抑えたい財務省などの観点からすれば、ケアマネジメントにかかる介護給付費を抑制できる選択制は、望ましい制度と言えるわけです。

利用者からは8割以上が「レンタルのままで良い」との声も

選択制の導入をめぐっての議論は今に始まったことではなく、介護給付費抑制を名目として以前から行われていました。これまでに実態把握のため、現場のケアマネージャーや利用者に対するアンケート調査も実施されています。

その一つが、エム・アール・アイリサーチアソシエイツ株式会社が、老人保健事業推進費の補助金を受けて行った調査です(2023年1~3月に実施、居宅介護支援事業所531、利用者546人から回答)。この調査では利用者に対して、「貸与と購入を選べる場合の意向」を訪ねるアンケートを行っています。

アンケート結果によると、「現状のままでよい(レンタルのまま)」との回答割合は、手すりが82.4%、スロープが83.3%、歩行器が83.2%、歩行補助杖が76.9%に上っていました。

約8割の利用者が、選択制を導入しても、レンタルのままでよいと考えているわけです。

この調査結果からは、選択制の導入に対しては、利用者からのニーズ自体はそれほど大きくないことが分かります。選択制の導入は、介護給付費抑制という国側の都合が大きく影響していると言えます

福祉用具貸与の選択制導入による影響は?

選択制導入によるメリットとデメリット

選択制を導入することの介護現場・利用者側のメリットとしては、自由に福祉用具を選べるという点があります。

レンタルする場合、地域内の福祉用具貸与事業者が扱っている福祉用具しか借りられません。一方、購入の場合だと、取り寄せなどで自由にメーカーや品物を選んで購入できます。使用できる福祉用具の幅が広がるわけです。

一方でデメリットもあります。

レンタルだとケアマネ―ジャーなどが利用者の身体状態に合っているのかについて、例えば「前はこの杖で十分だったが、身体状態が悪化したので、より重度者向けの杖が必要」といったチェックを毎月行えます。しかしこれを購入に変更すると、購入後の品は本人管理となるので、ケアマネージャーによるこうした継続的なチェックは行われなくなります。

利用者は「せっかく買ったから」と言って、体に合わなくなった場合でも引き続き使い続けようとし、転倒を引き起こしやすくなるリスクが上がるとも考えられます。選択制導入後、現場の介護者・介護職は注意が必要です。

貸与と購入のどちらを選択すべきかの判断材料が重要

選択制が導入されると、現場のケアマネージャーや利用者には、当然ながら「貸与と購入のどちらを選択するか」を判断することが求められます。

ここでポイントとなるのは、適切な判断をするために必要となる情報です。先のエム・アール・アイリサーチアソシエイツ株式会社の調査では、利用者に対して「貸与と購入を選択するときに、どのような情報があれば判断できるか」を訪ねるアンケートを実施しています(複数回答)。

アンケート結果は、最多回答が「費用はいくらかかるのか」(58.4%)でした。以下「貸与を選択した場合の、自分にとっての良い点、悪い点」(44.7%)、「購入を選択した場合の、自分にとっての良い点、悪い点」(43.8%)、「今使用している商品を使用することができる身体状況がいつまで続くか」(42.5%)と続いています。

この結果からは、費用面、および貸与、購入を選択した場合に起こる良い点、悪い点に関わる情報を、利用者は求めていることが分かります。選択制の導入にともない、こうした声に応えられる体制づくりをすることも行政側には必要なのかもしれません。

今回は福祉用具貸与に選択制が導入されるとのニュースについて考えてきました。具体的な制度の内容は今後詰めていくようなので、最終的にどのような制度設計となるのか、引き続き注目していきたいです。