ケアマネージャーによるモニタリングとは

導入が検討されるオンラインモニタリング

厚労省は、第230回社会保障審議会介護給付費分科会(令和5年11月6日)にてケアマネージャーのテレビ電話などを活用したモニタリングを許可してはどうかと提案しました。

現状、ケアマネージャーには担当する利用者のモニタリングを月1回、対面で行うよう義務づけられています。その一方で、コロナ禍において、対面が難しい場合にオンラインモニタリングを容認する一時的な措置が取られました。

こうした経緯から、今後もオンラインモニタリングを柔軟に実施できるように制度改正を提案したのです。

厚労省案ではオンラインモニタリングが認められるために、以下のような要件を満たすこととしています。

①利用者の同意を得ること ②サービス担当者会議などで主治医、サービス事業者らから以下の合意が得られていること
②サービス担当者会議などで主治医、サービス事業者らから以下の合意が得られていること
  • 利用者の状態が安定していること(主治医の所見も踏まえ、頻繁なプラン変更が想定されないなど)
  • 利用者がテレビ電話などを介して意思表示できること(家族のサポートがある場合も含む)
  • テレビ電話などを活用したモニタリングでは収集できない情報について、他のサービス事業者との連携により収集すること
③少なくとも2月に1回(介護予防支援の場合は6月に1回)は利用者の居宅を訪問すること

この提案がされた背景には、ケアマネージャーが不足するなか、業務効率の改善を図る目的があります。

オンラインモニタリングの現状の評価

ケアマネージャーは月1回のモニタリングが大きな負担になっている可能性が指摘されています。

ケアマネージャー1人当たりの1ヵ月間の労働投入時間を調査したところ、利用者宅への訪問にかかる「移動・待機時間」に11.2時間を費やしていることがわかりました。これは、1ヵ月の労働投入時間のうちの約7%を占めています。

また、ケアマネージャー一人当たりの担当件数は20~50人ほどが多くなっています。

すべての利用者に対して月1回のモニタリング訪問を行っているので、かなりの時間が割かれている計算になります。そのため、「利用者宅への月1回以上の訪問」が業務負担と感じているケアマネージャーの割合は32%に上ります。

一方、ケアマネージャーが実際にオンラインモニタリングを実施した印象として、訪問したときと同じ水準の評価が「できた」「おおむねできた」と回答した割合は、6割以上に上ります。

実際にオンラインモニタリングを実施したことのあるケアマネージャーは一定の手応えを感じているようです。

なぜオンラインモニタリングが必要なのか

ヤングケアラー対応の拡充を目指す

国は、2025年までに各自治体で地域包括ケアシステムを構築するよう、さまざまな施策を打って推進してきました。

地域包括ケアシステムにおいて、ケアマネージャーは介護事業の中心的存在です。病院と介護施設の連携をサポートしたり、介護予防支援活動などにも携わっています。

さらに今後の課題として、ケアマネージャーにはヤングケアラー支援が求められています。ヤングケアラーとは、家族のケアをしなければならない子どもを指します。2021年の調査によれば、小学6年生で6.5%、中学2年生で5.7%、高校2年生で4.1%、大学3年生で6.2%の割合でヤングケアラーがいると推計されています。

しかし、現状だと支援は不十分だと指摘されています。厚労省のアンケートによると、ヤングケアラー支援の準備として、「個人的にヤングケアラーに関する支援について調べている」が30%で最も多く、「個人的にヤングケアラーに関する研修・教育等を受けている」は9.9%にとどまりました。

ヤングケアラー支援は高齢者支援とは異なり、介護保険制度などが整備されていません。

そのため、既存のさまざまな制度を横断して支援していく必要があります。個人的な情報収集では不十分だとも考えられます。

厚労省でも研修の受講を推奨していますが、ケアマネージャーは人材不足なうえ現状でも業務が多岐にわたっています。

そこで、モニタリングなどの業務負担を軽減して、ケアマネージャーの業務をさらに拡大していく狙いがあると考えられます。

利用者からも高評価を得ている

オンラインモニタリングを今後実施したいかを尋ねたところ、「実施したい」と回答した割合は42.3%、「実施したくない」は56.7%でした。一見すると、オンラインモニタリングに対する拒否感があるかのように思われますが、実際に経験したことがある利用者からは高い評価を受けています。

たとえば、「訪問と比べてICT機器を用いた面談は話しやすかった」の項目では、肯定的な意見を示した利用者は59.8%。

また、「訪問と比べてICT機器を用いた通話で、ケアマネージャーとのコミュニケーションがうまく取れた」では、67.1%が肯定的な印象を抱いています。

つまり、ケアマネージャーも利用者もおおむね満足しており、負担軽減にもつながるとあって、導入のメリットは意外と大きいのかもしれません。

導入に向けた課題

専門家からは反対意見も

ケアマネージャーによるモニタリングは、現在のケアプランが適切かどうかを判断するための情報収集という意味合いがあります。健康状態のほか、生活環境や家族との関係性など、多くの側面から判断しなくてはなりません。

対面では利用者宅の温度・湿度、臭い、採光、室内の明るさ、室内の物品、他の部屋の雰囲気などを把握できるうえ、利用者宅へ向かう途中で、近所の環境変化や利用者の家の外観、庭の状況、郵便受けなどを確認することもできます。しかし、オンラインモニタリングではこうした情報を収集することができません。

そのため、専門家からは「ケアマネージャーが本来行うべき支援ができなくなる」と指摘する声も上がっています。

また、認知症がかなり進行した利用者の場合、新しい機器を使用することへの抵抗感につながったり、不安を覚えて拒否する可能性も否めません。

さらに根本的な問題として、利用者の家庭でオンライン環境が整っていないことも考えられます。仮にオンラインモニタリングが認められたとしても、結果的にほとんど実施されないという事態も想定されます。導入に向けた課題は少なくありません。

まずは試用期間が必要か

今回の厚労省の提案では、対面によるモニタリングを月1回から2ヵ月に1回へと緩和するとしています。

しかし、急激に症状が進行したり、生活環境が悪化することも考えられます。

その場合、2ヵ月に1回の対面で問題ないのか検証が必要です。

介護報酬改定で決定してしまうと、3年間は同じルールで進まなくてはなりません。一度試用期間を設けるなどして、問題点を洗い出す必要があるのではないでしょうか。

そのうえで柔軟に対応できるような制度設計が求められます。ケアマネージャーの業務効率を向上しつつ、利用者の支援を円滑に進められるような制度にするため、さまざまな意見を取り入れながら慎重に議論する必要があるでしょう。