介護の話をすることが多くなった

「ああ、ボクらもそんな歳になったんだなあ」と思うことの一つに、周りの知人や友人たちとの介護の話がある。

ちょっと前だったら、あの店のあれが美味いとか、どこかに旅行に行く話とか、仕事の話とか。妻とは、子どもにどうやら彼女ができたみたいだとか、子どもの友人が結婚するみたいだとか、そんな話をしていた。

最近は妻の話も、友人の家のお母さんが要介護になったとか、ケアマネって選べるの?って聞かれたとか、入院から帰ってきたお母さんを家で見るとき用意するものは?とか……。

我が家は、ボクのせいで妻はみんなよりちょっと早く介護生活が始まってしまった。なので、妻はいろいろな質問やお悩み相談なんかを受けることもある。そんな話を横で耳を立てる。

一般的には、両親や義両親の介護から始まるはずだが、妻はボクの介護を先にしている。ボクの両親は広島在住だったので、東京に住んでいるボクらは介護らしい介護もできずだった。

母は、末期癌で介護が必要な体となった。その頃ボクは元気だったのだが、仕事にかまけて妹に介護のほとんどを任せていた。妹家族のレスパイトとして、妻が数ヵ月に1度、2週間ぐらい広島へ泊まりに行っていた。2年ぐらい続いたそんな生活も、メインの介護者でなかったのでなんとなく過ぎていった。妻も「今なら妹がどんなに大変だったか分かると思う」と話す。

病室や、妹の家にいる母からは「羽布団が欲しい」とか「京都の〇〇の柴漬けが食べたい」といったリクエストがボクのところに電話がかかってきて、それを妻に伝えたらボクの役目は終わる。

そして妻がそれを送る。それすら妹は「悪いねえ」なんて言っていたそうだけど、妻は「それぐらい手伝わなければ」と言っていた。それぐらいしかできなかったのだ。

ボクは1週間に一回は広島に仕事に行っていたので、その時に30分ぐらい母に会いに行く。病室で「ちゃんと食べてるの?」なんて、そんな時まで母は心配してくれた。そんなゆるい介護しか経験していなかったので、本当の意味の介護の大変さをわかっていなかった。

それがだ、妻は思っても見なかったボクの介護が始まっちゃったわけだ。もう、介護を始めてこの9月で12年。

最初のケアマネさんはいい人を見つけた

妻たちの女子会によくよく登場するのは、ヘルパーさんの話だ。不思議とケアマネさんは、どの家も「いい人」ってことになっている。ケアマネさんは一人なので、比べようもないってボクは思うのだけれど。

ほとんどの人が、初めに出会ったケアマネさんしか知らない。75%ぐらいの人がそうなんじゃないだろうか?

どうしても合わないという人から「どこで変えてもらったらいいかわからない」と相談を受けたこともあった。

そのときは「地域包括支援センターに行って相談すればいい」と答えていた。

「うちのケアマネってどうなんだろう?」と思っても、なかなか他の方と比較はできない。我が家の場合、一番最初のケアマネさんは、退院するときに「リハビリのことに長けている人」という観点から探したらしい。

区役所の紹介パンフレットに書かれた、ほんのわずかなケアマネさんの紹介文を食い入るようにチェックしたそうだ。理学療法士出身で、マッサージ師や理学療法士をかかえた事業所も経営していた彼にお願いの電話をした。いろんな理事もしている忙しい方だったが、引き受けてくれた。

一般的には地域包括支援センターから紹介されるのが定番だが、妻たち家族は必死だった。まだまだよくなるはずなのに、国の制度で慢性期になればリハビリはほぼ打ち切られる。「そんなのおかしい、まだまだよくなるはずなのに」と、在宅介護を選んだ家族は、まずケアマネさん選びをしたわけだ。

そのケアマネさんはボクら家族の願いを聞いてくれて、週5回のリハビリやマッサージを入れてくれた。初めてのことだったので、夜間のケアは?排泄は?と不安も大きかったが、1から一緒になって計画してくれた。なんの心配もなかった。

でもいかんせん、彼は役職もたくさんある忙しい身。1年ぐらいで部下のケアマネさんに変わることになった。

最初の彼が敏腕だったこともあって、次に担当となった人は我が家に馴染むのに時間がかかった。良い人なのだ、その人も。けれど比べてしまう。

程なくしてその人が事務所を退社することになり、それを機に我が家の在宅介護大改造が行われた。ケアマネを中心に福祉用具やらを見直した。本当に勇気がいることだった。

新しい人がいいとは限らない。今までのヘルパーさんはそのまま引き継ぎ、リハビリ陣と訪問医療のメンバーが変更となった。この頃新しい病気(癌0)が発見され、大学病院に入院したり、その病院関連の在宅医療に変更したり、今まで不満だったわけではなかったけれど思い切った。結果的にそれが良かったのか、これまで以上なのかどうかというのは、変える時にはわからないのだから怖い。

いい人だったのだから。

そして、我が家の新生ケアチームができ上がった。ケアマネさん、福祉用具の事業所を増やし、訪看・訪問医療も変更した。ヘルパーさんの事業所も増えた。新しいケアマネさんは、いい人だった。特に妻と相性もよさそうで、いろいろと相談できるタイプの女性でよかった。

ヘルパーさんとの相性も大切

ほかにも妻たちの女子会で話題に挙がることがある。なんと言ってもヘルパーさんの話題だ。

一人の利用者に対して、数人がローテーションを組んでサービスを提供してくれるのが当たり前なので、どうしてもサービスに個人差がある。何人も携わるので、好き嫌いも出てくるのだと思う。

「ああ、こういうのが嫌なんだなあ」と納得するものから「へえ、そんなことが嫌なんだ」と思うことまで聞くから、家族側だって千差万別だ。

大きい事業所だと気に入った方を選べることもあると聞いたが、その人にだってお休みの日もあるだろうし、大体そういう人は人気だ。

独り占めはなかなかできない。

小さい事業所だと数人しかいないスタッフが順番に来てくれる。気の合うスタッフが来てくれればいいが、ダメな場合は絶望的だ。

お母さんの散歩などを頼んでいる友人は、「母のこと思ってくれているのはわかっているのよ。でもね、強い口調で、『そうじゃないでしょ?もっと足上げなきゃ』とか言われてるの見てると、カチンときちゃう。私が母に強い口調になっちゃうことあっても、言われてるのを見てるとちょっと違うって思うのよ。」と言う。

慣れてくればお互い気の置けない間柄になってくるが、リハビリの一環で一生懸命だとしても、それは違うんじゃないかっていう気持ちもわかる。

こんな話もあった。もう寝たきりの90歳になる義父を看ている、いわゆるお嫁さんの話。

その方はスープの冷めない距離に買ったマンションに住んでいて、90歳の義父とは55歳になる未婚の次男が一緒に住んでいる。寝るときは次男がいるが、ほとんどヘルパーさんにお願いして生活しているので、その友人は1日に一回顔を出すようにしているという。

洗濯は次男がすることになっているが、汚れた義父の着るものなどをまとめたり、時には洗濯機もまわしちゃうという。

「見て見ぬ振りできないし…大体のヘルパーさんが濯いでバケツに入れていってくれる。でも、おしっこの匂いがついたまま、家族の洗濯物と一緒に洗濯籠に入れていく。洗わないまでも、なんでそんなことができるのか?」と怒っていた。

我が家のヘルパーさんはどうかと聞かれると、妻は「やはり性格が出るのよね、それが普通と思っている人もいるし。どっちがヘルパー界の普通かわからないけど、常識的に考えれば、せめて別にしておいてほしいよね。」と答えていた。

「こうして欲しいって言えばいいのに」ボクなんかはそう思うけど言えないらしい。そういうものなのか。

もっと要望を言う家族だっているはずだ。なあなあになれば、ますますである。いつも感謝しているとは言っている。けれど、主婦の集まりの採点は厳しい。

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