「老い」を楽しむのもライブの醍醐味
くらたまお話をお伺いできることを大変楽しみにしておりました。“武田先生”に年齢を重ねることについての授業が受けられるなんて…!
先ほど、ご著書の編集者の方ともお話していたのですが、最近の海援隊のライブでは、「今」の武田さんならではのライブ感を楽しまれているようで。
武田ありがとうございます。
あるときのライブで、メンバーの中牟田が、突然演奏を止めたことがありまして。「どうしたんだ?」と思って見たら、手を屈伸させながら「ツッた」って……。その声がマイクにも入りまして……その日、一番ウケたギャグになりましたよ。
くらたま(笑)。ファンの方々も一緒に年齢を重ねてきた一体感があるのではないでしょうか。会場も一緒になって笑える雰囲気がいいですね。
武田そう。曲の順番を間違えたこともあります。それに、メンバーの千葉は歯の調子が悪い時があったのですが、大したもので、口を閉じながら「うー」って歌うんです。
くらたま(笑)。

それがもう、おかしくってね(笑)。
年を重ねたからこそのライブですね。
武田そうですね、つまり老いというものは、かくのごとく反転がきくんです。ミスをしてしまっても、そのユニークさを表現していこうではないかと思っています。昔は、もっとピリピリしてたんですけどね。

「柳に風」で妻との関係が変わった
くらたまご著書を拝読しましたが、老いることだけでなく、生きることに対してとても哲学的な印象を受けました。内田樹さんの影響を強く受けているとも書かれています。
武田そうですね。内田さんの言葉は難解なのですが、人間というものを深く見つめている。その言葉の謎を考える面白さから哲学にハマっていったのかもしれません。
私も内田さんをならって合気道を始めたんです…65歳からですがね。ある日、合気道の道場の管長にこんなことを言われたんです。「相手を倒そうとして肩に力が入ってる。
茶道や華道のように、〇〇道とつくものを極めていくと、普段の生き方が変わることがありますよね。
武田私の場合は女房の“キツイ言葉”が素直に聞けるようになりました(笑)。先日も女房から、「汗でベタベタの下着と道着は自分で洗って」と言われたんですが、そのときに「はい」と素直に言えました。女房に対して、初めて良いお返事ができました。

(笑)。合気道を始めたことで、奥さまとの関係が変わったのでしょうか。
武田管長の「柳に風」という言葉が、ずっと心に残っていたんです。女房のキツイ言葉にも「反発ではなく、まずは素直に返事をすればいいのではないか?」と思えるようになりました。女房とぶつかることもなくなりましたね。
大したことじゃないのかもしれませんが、合気道を学んだおかげだと思います。
幸せを突き詰めて考えると、「これ」じゃないでしょうか。

老いとは「ライセンス」である
武田若い人に向かって「死んでいくのは、そんなに怖くないよ」って言えたらいいですよね。「老いの影」みたいなものを、明るく、明るく伝えていきたい。年寄りが言えば、どれほど文化全体が豊かに膨らむか。
くらたま年をとって、やっとその資格が生まれるのかもしれません。
武田そう。まさに老いって「ライセンス」ですね。やっぱり年寄りにしか言えないことがあります。例えば、認知症のおばあちゃんが「私はちっとも辛くない」と言えば、介護をする方も励まされることがあると思います。それは、「人類」になったおばあちゃんが得た体験です。そういったことを語ることが、人類史に貢献することだと思います。
くらたま老いについて少しだけ前向きになれました。「100万回」も言われていることだとは思うんですが、「武田さんと言えば金八先生」のイメージがあります。
- 撮影:宮本信義


武田鉄矢(たけだ・てつや)
1949年4月11日生まれ。福岡県福岡市出身。O型。福岡教育大学卒業(2008年に名誉学士授与)。72年、フォークグループ「海援隊」でデビュー。翌年「母に捧げるバラード」が大ヒット。日本レコード大賞企画賞受賞。77年には山田洋次監督の映画「幸福の黄色いハンカチ」に出演。「3年B組金八先生」「101回目のプロポーズ」などのドラマにも多数出演。
【ライブ情報】 海援隊トーク&ライブ2023
・11/11(土)山口・三友サルビアホール(防府市公会堂)開場14:30/開演15:00
・11/12(日)広島・庄原市民会館 開場14:20/開演15:00
・12/1(金)愛知・刈谷市総合文化センター 開場17:30/開演18:30