山口正介さんによる「介護映画評論」が始まります!
映画評論家として活躍する山口正介さんに、「介護の映画」について語っていただきます。
GWに「映画をゆっくり観たいなあ……」と考えていた介護職員のみなさま、必見です!
5月5日(金・祝)より新宿武蔵野館、シネスイッチ銀座ほか全国順次公開される『それでも私は生きていく』、Blu-ray、DVD発売中&デジタル配信中だから自宅で楽しめる『男と女 人生最良の日々』を正介さんに紹介してもらいます。
[AUTHOR-PROFILE-242]愉快な老後の過ごし方
齢七二歳ともなると、色々と人生のあれこれに思いがいたる。
映画『それでも私は生きていく』は、そんな僕に何を教えてくれるだろうか。
通訳をやりながら、たった一人で子育てをしているサンドラ(レア・セドゥ)は、定期的に父親の介護に通っている。父、ゲオルグ(パスカル・グレゴリー)は気鋭の哲学者として知られていたが、年老いて記憶力が減退していることに、自分自身で気がついている。また、眼球に異常はないが視力が極端に低下するという難病にも罹患しているようだ。
アパートを訪ねたサンドラは、父親にドアを開けさせるために、色々と助言しなければならなくなっている。パリ市内の小さなアパートに住むサンドラはかつての友人と再会して、恋が再燃すると、新しい生活を始めるにあたって年老いた父親の今後が気がかりとなる。

ゲオルグは市内の病院に検査入院するが、視力も記憶も回復することはなく、おそらくは住居からほど近いビルの中に併設されている老人のための施設へと転居することになる。
フランスでは通常のビルのワンフロアが施設になっているというのは知らなかった。
これならば、近所に住む親族の訪問も簡単だろう。ゲオルグの先妻も介護のために足繁く通ってくる。老人介護の諸問題をあつかって、秀逸であるが、ゲオルグ側の内面は本人にも理解できていない様子だ。

写真提供:アンプラグド
老後に思いをはせる
そんな老人の抱える問題を彼自身の心の声として描いたのが、名匠、クロード・ルルーシュ監督による映画『男と女 人生最良の日々』だ。

この作品は一九六六年に公開され、日本でも大ヒットした映画『男と女』の五十三年後を描く。
誰言うともなく、これだけ皆が揃っているのならば、件の映画の後日談を撮影できないだろうかと提案された。実は『男と女』には一作目の二十年後を描いた『男と女Ⅱ』もある。三作目を造ることは自然の成り行きだった。ルルーシュは早撮りの名手としても知られる。
この作品は十日間で撮影された。フランシン・レイにとっては本作が遺作ともなるので、タッチの差で間に合ったともいえる。

ジャン=ルイ(役名も同じ)は郊外の介護施設に入居している。息子のアントワーヌは、父親のかつての恋人アンヌ(アヌーク・エーメ)を探し出し、父親を見舞ってくれという。
ジャン=ルイは彼女の思い出だけははっきりと覚えているのだが、あとのことはおぼつかない。アンヌに会えば、少しは症状が改善するのではないかというのがアントワーヌの思惑だった。彼を担当している看護師は、ヴェルレーヌの詩を暗唱し、認知症テストの点数もいいジャン=ルイは、私たちをからかっているのではないかと、アントワーヌに話す。
公園かと見紛う施設の庭で再会したジャン=ルイとアンヌ。初対面のように、ジャン=ルイは、あなたはなんと美しい、とアンヌを口説きはじめる。その心はどこにあるのだろうか。
示し合わせて施設を抜け出した二人の逃避行は、かつてお互いを確かめあった浜辺のホテルの一室へと辿り着く。なんとロケに使った同じホテルがそのまま現存していたのだ。
映画はアンヌがジャン=ルイを見舞いに訪れた最初のシーンと同じカットで終わっている。あの逃避行も、すべてジャン=ルイの心の中、脳内で夢みられたことなのだろうか。だとしたら、そんな老後も満更悪くはない。

写真提供:ツイン
今年のGWは映画が見たい!
いかがだったでしょうか。今回、正介さんにご紹介頂いた映画の監督はいずれもフランス出身の監督。映画を通じて、外国の「介護」を知るいい機会になりそうですね。
『それでも私は生きていく』のレア・セドゥ、『男と女 人生最良の日々』のアヌーク・エーメの演技に引き込まれること間違いなし! GWは「映画三昧」なんていいかも……!(編集部)
公開情報
それでも私は生きていく

公開:5月5日(金・祝)より新宿武蔵野館、シネスイッチ銀座ほか全国順次公開
監督・脚本:ミア・ハンセン=ラブ「未来よ こんにちは」「ベルイマン島にて」
撮影:ドゥニ・ルノワール
編集:マリオン・モニエ
美術:ミラ・プレリ
出演:レア・セドゥ、パスカル・グレゴリー、メルヴィル・プポー、ニコール・ガルシア、カミーユ・ルバン・マルタン
2022年/フランス/112分/カラー/ビスタ/5.1ch/原題:Un Beau Matin/英題:One Fine Morning/R15+/日本語字幕:手束紀子
配給:アンプラグド
視聴情報
男と女 人生最良の日々

Blu-ray、DVD発売中&デジタル配信中
発売・販売元:ツイン
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