7月6日(米国現地時間)、日本の製薬大手エーザイと米バイオジェンが開発したアルツハイマー病治療薬「レカネマブ」を米食品医薬品局(FDA)が認知能力の低下を遅らせる効果があるとして正式承認しました。

今回のFDAによる正式承認によって、米国、そして日本のアルツハイマー病患者や認知症患者にどのような影響が及ぶのでしょうか。

まずは、改めてレカネマブについて触れておきましょう。

レカネマブの効果をおさらい

「みんなの介護ニュース」では「レカネマブ」が発表された2022年秋、認知症研究の世界的権威として知られる順天堂大学医学部名誉教授の新井 平伊先生(アルツクリニック東京 院長)に取材を行っています。

その時の内容から改めてレカネマブの効果についておさらいしましょう。

2022年10月4日掲載『アルツハイマー病の新薬「レカネマブ」!アデュカヌマブとの違いや効果を解説』より再掲

――実際「レカネマブ」の効果はどこまで期待できるのでしょうか?

アルツハイマー病の進行を遅らせる新薬「レカネマブ」を米国FD...の画像はこちら >>


(新井先生)レカネマブは、アルツハイマーが治るような夢の新薬とまでは言えず、まだ発展途上の段階での薬です。27%の悪化抑制は、臨床的に言えば、現在使われているドネペジルなどと違って継続的に進行を抑制する点で優れているのですが、その効果はそれほど大きなものではありません。

しかし、レカネマブが優れているのは、学術的にその効果が極めて明瞭に証明された点です。

アデュカヌマブでは、評価項目によっては効果が不明瞭なものもありました。レカネマブは、主要な項目すべてで明確に効果を発揮した点が素晴らしいと思います。

また、アリセプトなどの従来からある薬剤とは異なり、1年以上経過しても進行を抑制する効果が持続しています。この点が素晴らしいです。

さらに、世界の認知症研究者が注目している点がもうひとつあります。それは、「レカネマブ」が認知症の予防にも繋がるかもしれないという点です。

予防の観点で有効かどうかについては、まだ臨床試験が行われている最中なので確定的なことは言えませんが、「レカネマブ」のメカニズムを考えると予防効果も期待できる可能性があります。

もし、予防にも繋がるとなれば、私たちと認知症との付き合い方が根本から変わる可能性もあります。

―― 副作用などはどのようなものがあるのでしょうか

(新井先生)主な副作用としては、アデュカヌマブ同様、動脈のまわりに水が溜まる血管周囲の浮腫が報告されています。

しかし、この副作用については、レカネマブのもたらすベネフィット(利益)を考慮すれば、リスクとしては比較的少ないものだと私は考えます。

――アデュカヌマブについては米国で承認されたのにも関わらず、残念ながら日本では承認がされませんでした。「レカネマブ」の承認の可能性などはどれくらいなのでしょうか。

(新井先生)これまでの状況を考慮すると日本でも承認される可能性は高いのではないかと思います。承認されるということに、まず大きな意味があります。自費でも利用できる道が開けますからね。

ただ、薬価が高いことに加えて、対象者をどうスクリーニングするかなどまだまだ検討すべき課題が多くあります。日本の健康保険制度の中で、どのような範囲で保険適用になるかは予想が難しいのですが、若年性アルツハイマー病にはぜひ使えるようになって欲しいと思っています。

――現在も認知症症状の進行を遅らせる薬はいくつかありますが、そのなかでもどのような人におすすめの薬なのでしょうか。

(新井先生)アルツハイマー病による軽度認知障害の方など、できれば早期の方に利用して頂けると効果が高いのではないかと思います。残念ながら、症状が進行してからでは効果は期待できないので、早期発見が今後は今まで以上に大切になります。

FDAの正式承認を受けて保険適用の動き

FDAの正式承認を受けメディケア(米国が運営する65歳以上の高齢者および障碍者向けの医療保険)はレカネマブを保険適用にする方針を発表しています。

米国での価格は標準で年間2万6500ドル(約380万円)となっており、保険適用により、高所得層以外への普及も期待できるのでしょうか。

みんなの介護ニュースにて「輝くシニアライフの掴み方」を連載中の米国マウントサイナイ医科大学老年医学・緩和医療科 山田悠史先生からコメントをいただいています。

(山田先生)

今回の正式承認により、65歳以上の高齢者をカバーする保険、メディケアがこの薬剤の薬価の大部分をカバーする公算が高まり、いよいよ「賽は投げられた」格好となりました。認知症治療が大きな変曲点を迎えるかもしれません。ただし、薬はカバーしてもこの薬の投与にあたり必要な高額検査についてはカバーしないとの報道もあり、そうなるとまた話は複雑になるかもしれません。

この変化がポジティブなものになるか、ネガティブなものになるかは正直なところ分かりません。いずれにせよ2週間ごとに投与して年間約300万円はかかるとされる薬剤を個々の患者に投入する代償が小さくないことは明らかです。

このニュースが単純に明るいニュースであると思った方は、より深い理解が必要だと思います。同様の状況は、日本にも遅かれ早かれやってくるはずです。その時までに理解を深めておく必要があるでしょう。

まとめ

現在、日本における認知症の患者数は800万人にも及ぶと言われています。今後、日本の高齢化がさらに進めば、アルツハイマー病など認知症の当事者の数はさらに増えていくと考えられます。

今回の米国FDA正式承認、そして保険適用によりアルツハイマー病の治療は一歩前進しました。

日本では1月に承認申請が出され、医薬品医療機器総合機構(PMDA)が優先審査をしています。早ければ秋にも承認が期待されており、国内での価格決定や保険適用の有無にも注目が集まることでしょう。

みんなの介護ニュース編集部では、引き続き続報が入り次第お届けしてまいります。

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